第7話 ルピナス号で南の大陸へ

 下船したら、すぐ横が南の大陸行きの大型船のチケット売り場だった。効率的だね! ヨシュア港で、南の大陸行きの大型船のチケットを買っていた乗客は、そのまま移動している。

 

 ここには、色々な大型船が停泊している。値段も色々あるみたい。

 書いてある値段が複雑で、じっくりと眺めていると、中の女の子に笑われた。


「修道女見習いさん、南の大陸に行きたいの?」

 ソバカスがあるけど、笑顔が可愛い。

「ええ、でも手元が心許ないから、どの船に乗るか迷っているのです。それに、何が必要なのかもわからなくて……」

 その子は、暇なのか、親切に教えてくれた。勿論、三等の良し悪しだ。どう見てもボロな灰色の修道女見習いが金を持っていそうにない。


「南の大陸までは、二週間掛かる場合もあるの。風に上手く乗れば十日で着く事もあるそうよ」

 ふうん、そりゃ大変だね。

「だから、なるべく清潔な船、食事が真っ当な船を選ぶ必要があるの。ルピナス号がお勧めよ!」

 うん? ここの屋台は、ルピナス号って書いてあるけど?


「まぁ、私がチケットの売り子だから、そう言っているのだろうと思うのは勝手だけど、本当にマシなのよ」

 まぁ、どの船も知らないのだから、この子の笑顔を信じよう。


「三等のチケットはいくらなのですか? 値段は、色々書いてあるからわからないわ」

「食事付きなら、八銀貨クランよ! 食事抜き、水だけなら六銀貨クラン。でも、お勧めしないわ」


 やはり高い! 八銀貨クランだ。つまり八十銅貨ペニー

 私はアイテムボックスがあるけど、二週間も袋から食べ物を出していたら、絶対に怪しまれる。

 つまり食事付きしか選択肢はない。


「あら? でも水だけの乗客もいるのね?」

 女の子は、顔を思いっきり顰めた。

「ええ、すごいケチな商人は、乾燥した肉、カチカチの乾パンを持ち込んで、水をがぶ飲みするの。迷惑だわ!」

 それは、私には無理っぽい。


「仕方ないわ。食事付きの三等を一枚。食事が不味かったら女神クレマンティア様に言いつけますからね」

 少し脅しておく。

「大丈夫よ! ルピナス号のコックはパパだから。不味くはないわ!」

 

 それなら、少しは安心だね。ついでに船旅に必要な物を聞いておこう。

「修道女見習いさんは、魔法は使えるの?」

 おや、踏み込んだ質問だね。基本、庶民で魔法が使える人は少ない。

「ええ、簡単な物だけだけど」

 パッと笑顔が花開くみたい。笑顔良しの子だね。


「それなら、船長に伝えておくわ。船旅中にチケット代が浮くかもしれないわよ」

 つまり、一等や二等の乗客の浄化ピュリフィケーションをして稼げると提案している。


「でも、一日に一人か、二人しかできないわ」

 本当は、サーシャは女神クレマンティア様の愛し子だから、魔法量は多いけど、そんなの宣伝しなくて良いよね。


「それでも、船長は喜ぶわ! へへへ、船長はお祖父ちゃんなの!」

 ああ、一族経営なんだね。あれっ、お母さんは? 顔に出ていたみたい。


「お母さんは、パーサーよ! 私も早く船に乗りたいけど、弟や妹の世話もあるから、チケット売りよ」

 

 とんとん拍子に話が進み、なんと三等の値段で小さいながら個室の二等に乗せて貰えた。二等の料金は、三等の五倍! 超ラッキー!


 それと、チケット売り場の売店で、水の袋も買ったよ。水は食事の時しか飲めないから、これを持ち込むみたい。

 それと、ルピナス島の果物、干し肉、乾パン、干し魚、などが売店に並んでいる。なかなか商売上手だ。


「果物は欲しいけど、節約しないといけないの」

 見たことがない南国の果物、食べてみたいけど、我慢しよう。

「修道女見習いさんは、貧乏そうだからね。でも、一つおまけにあげるわ。私の事を女神クレマンティア様に良いように言っておいてね。マギーというのよ!」

 そうだね! こんな良い子の事ならお祈りするのも悪くない。


女神クレマンティア様、エンボス島のマギーは、とても良い子です。ご加護がありますように」

 マギーも信心深いのか、黙って頭を下げていた。

 本当にクソ聖皇国、こんな良い民の為にちゃんとして欲しい。


 私が二等客船の狭い部屋に入った頃には、三等客は既に乗っていたし、一等や二等の客も乗り込んだ。

 マギーのお祖父ちゃんの船長とも挨拶したけど、ママのパーサーと業務連絡する。


「今日は必要ないと思うけど、一等船室の三人は、隔日で良いから浄化ピュリフィケーションして欲しいの。後は、二等客船の五人ね。これは、リクエストがあればお願いするわ。一回、五銅貨ペニーで良いかしら?」


 ニヤけるのを押さえるのが難しかったよ。

 二週間、十日だとしても、一日十五銅貨ペニー掛ける十! 元が取れるどころかお釣りがくるかも?


「ふふふ、頑張ってね。サリー」

 うん、名前はここではサリーにしたんだ。

 あまり違う名前だと、呼ばれても気づかなかったりしたら変だからね。


 小さな部屋、確かにシーツは洗ってあるし、掃除もしてあるみたい。一応、浄化ピュリフィケーションを掛けておく。


 朝一というか、昼前だったけどルピナス号は出航した。

 今頃、エルビィ港では、ゲンペル男爵とカリンが青い顔で私を探しているのだろう。ああ、ルピナス島に行ったのがバレているかな?


 私が使える魔法は、神聖魔法と空間魔法だけ。でも、使い方では船足を速くできるかも? 追いつかれて、捕まるのは御免だ。

 浄化ピュリフィケーションのバイト代どころではない。


 私は、なるべく人目に付かないように過ごしたいけど、こっそりと甲板に上がって、帆に風を送ってみる。

 風の魔法は使えないよ。でも、空間魔法で、帆に空気を送り込むことはできるんじゃないかな?


「はぁぁ、疲れた!」

 やはり風の魔法持ちほどは、スピードは上がらない。

 ああっ、それより女神クレマンティアに祈る方が良さそう。

女神様クレマンティア、どうかルミナス号が速く南の大陸に着きますように!」

 修道女見習いが航海の無事を願っているのだろうと、船員達も頭を下げて一緒に祈ってくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る