第6話 ヨシュアから脱出

 港に行くまでに、偽装の袋を用意する。中身は、見られても不審に思われない物だけ。着替え、木の器と木のスプーン、少しのパンと干し肉。それと、ナイフ!


 なんと、アイテムボックスの中は時間停止付きなんだ。女神クレマンティア様、ありがとう! だから、最低限のパンと干し肉だけ、出しておく。

  

 背嚢っぽい袋は、お城から貰ったよ。盗むってのは、人聞きが悪いからさ、貰うにしたんだ。

 毛布を背嚢に入れたい気がしたけど、船旅の三等客室の雰囲気を見てからにする。

 修道女見習いの灰色のボロな服の上に、少しだけ上等なマント! これもお城から貰った物だ。

 王女のドレスは、悩んだけど置いてきた。売ればお金になりそうだけど、どう見ても貴族の服だからね。

 その分、シーツや毛布などは、多めに貰ったよ。

 

 お城の私の部屋のシーツ、毛布、枕、それにベッドマットも!

 それに、趣味の悪い燭台もね! アイテムボックス、段々と広がって、ベッドごと持って行けそうだった。流石に、ベッドが無くなったら、気づかれるよね。

 ベッドマットでも、変だと思うだろうけど、自分の責任になるのを嫌がって、メイドは黙っていると思う。


 側から見たら不審者だろうな。でも、小心者なので、建物の影から影へと移動して、なんとか港に着いた。

「ううう、やはり閉まっているわ」

 チケット売り場っぽい、掘立て小屋はあるけど、木の扉は閉まっている。

 当たり前だね! と諦めかけたけど、彼方の方向で人の声がする。それも何十人も集まっている。


「怪しい団体じゃないかな?」

 用心深く、港の建物の影から様子を伺う。

 奴隷とかの密貿易だと困る。一応は、このクズ聖王国、奴隷は禁止だ。ただ、借金奴隷、犯罪奴隷はオッケー。

 南の大陸は、奴隷が多いと女神クレマンティアの情報が教えてくれる。


「おおい、エンボス島行きに乗る客はいないか? 朝一の船に乗れるぞ!」

 ダミ声で、客を集めている。朝一? まだ夜中でもないじゃん?


 女神クレマンティアの情報によると、エンボス島は、ヨシュアの港から半日程度だ。

 そこまで行ってどうするのか? 南の大陸に行く大型船に乗り換えるみたい。

 ヨシュア、北の大陸の沿岸船が多いみたい。チェックミスだけど、都合が良い。


「今乗れば、朝一の南の大陸行きの船に乗れるぞ!」

 つまり、普通の金持ちは、昼の船に乗り、エンボス島で一泊してから、南の大陸行きの船に乗るのだ。

 こちらは、夜に出航して、エンボス島に朝に着き、そこで南の大陸に行く大型船に乗り換える。つまり貧乏旅行の人御用達なんだね。


 うん、家族連れ、冒険者っぽい人達、商人っぽい人、そこに修道女見習いの私が混ざっても浮かないだろう。


「あのう、船賃はいくらですか?」

 ダミ声の船員に声を掛ける。

「ああん? 姉ちゃん、一人かい? 三等なら、十銅貨ペニーだよ」

 つまり、銀貨クラン一枚だ。でも、銀貨クランなんかで払わないよ。修道女見習いの服のポケットから、布の巾着を出して、銅貨ペニー十枚を支払う。

 勿論、殆どのお金は、アイテムボックスに入れてあるよ。不用心だからね。


 三等、安いだけあって満員でした。一等や二等に乗る客は、こんな夜に乗らないのかな? と思ったけど、そこそこ乗っていた。急ぎの仕事とかあるのかもね。


 さて、満員の三等で私の寝る場所を確保しなきゃ。

 ああ、あそこの赤ちゃん、グズって泣いているから、あの家族の周りだけ少し空いている。チャンス!


「あのう、こちらで寝ても良いでしょうか?」

 母親に声を掛ける。赤ちゃんを抱き上げて、何とか宥めようと必死で「どうぞ!」と顔を見ないで返事した。

 父親は、もう少し大きな男の子を寝かしつけようとしている。でも、初めての船旅に興奮して、目がギンギンだ。

 ああ、これほって置くと夜泣きコースになりそう。


 私も眠りたいし、他の乗客も凄く迷惑そうな目で見ている。こういう視線に子供って敏感なんだよね。


「良い子で眠ったら、女神クレマンティア様のご加護が貰えますよ」

 そう言いつつ、スリープを掛ける。


 グズっていた子どもが寝たので、乗客も眠りだす。私は、母親と子どもと壁の間の特等席をゲットしたよ。


「おおぃ! エンボス島に着くぞぉ!」

 ええっ、爆睡していた。自分が信じられないよ。かなり神経図太いね。でも、サーシャになってから、熟睡出来なかったから、疲れていたのかも?

 周りの人はもう起きて、下船の用意をしている。


 私は、自分に浄化ピュリフィケーションを掛ける。

「無事に着いたのも女神クレマンティア様のお陰ですね」

 修道女見習いらしく祈っておこう。


 三等船室から出て、甲板に上がると、青い海アズールマレが広がっていた。

 それにエンボス島、思ったより大きい。それに、緑の木々に白い砂浜! 逃亡中じゃなきゃ、ここでゆったりしたいよ。


 今頃は、流石にバレているだろう。さっさと、南の大陸に逃げなきゃね!


「お姉ちゃん、またね!」

 手を振っている男の子、可愛いな。修道院の子ども達、大丈夫かな? サーシャが取ってきた肉、かなり食事に貢献していたからなぁ。

 でも、先ずは自分が食べて行かなきゃね!

 

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