第5話 輿入れ行列

 ああ、色々と準備して良かったよ。私は、嫁ぐ本人なのに蚊帳の外だったけど、アスラ王国からお迎えの使者が到着したみたい。


「サーシャ王女様、早くお召し替え下さい」

 朝からメイドが三人掛かりで、ドレスに着替えさせる。

 ゴージャスなドレスだけど、趣味が悪い。それに、これもどうやらクズ王妃オルグェーヌのお古みたい。ああ、嫌だ、嫌だ!


 新品のドレスを用意する気も無いみたい。チッ、もっと小銭を取っておけば良かったな!

 だって、アスラ王国の使者が運び込ませた箱、絶対金貨ゴルディがたんまり入っている。

 サーシャは、これで売り渡されたんだよ。


「さぁ、お別れが済んだら、出発いたしましょう」

 えっ、それは困る! あのクズ王子リグズェールに復讐していないんだ。


「お兄様方にお別れをしたいですわ。あの思い出のあるテラスで」

 お淑やかに言うと、アスラ王国の使者も「少しの時間なら」と許可した。


 ああ、下劣な考えが顔に出ているクズ王子リグズェール。それに弟王子達。こちらまで、復讐する暇はないから、代表でクズ王子リグズェール一人に受けて貰おう。


「やはり、あんなスケベ王に一発やられる前に私に処女を捧げたくなったのか?」

 わぁ、十八禁の股間だ!

「お兄様……」

 なんて後ろを向いて俯いたら、近づいて後ろから肩を抱こうとする。

 

 チャンス! サーシャの身体強化で、胸元にあるクズ王子リグズェールの左手を左手で握り、そのまま身体を右にずらす。私の手のひらを上に向けて肘でみぞおちにエルボーアタック! 衝撃を与える。


「グォ……」と崩れ落ちるクソ王パーベェルの膨れた十八禁の場所を足で思いっきり踏んだ。


 白目を向いて、泡を吹き出している。


「兄上に何をした!」

 煩い第二王子コレール、こいつも同罪だよ。ただ、クズ王子リグズェールがやられたから、剣を抜いている。


 サーシャは、魔物討伐の経験はあるけど、対人戦闘はした方がない。前世の私も護身術をネットで検索した程度だ。

 ナイフを持った相手に襲われた場合は、バッグなどで距離を取る! と言ってもバッグなんて持っていない。


「ええぃ!」バッグは無いけど、足元にクズ王子リグズェールが横たわっている。

 身体強化で持ち上げて、第二王子コレールに投げつける。

 

 あっ、少し剣がクズ王子リグズェールに刺さったみたいだけど、知らないよ!


 兄王子の下敷きになっている第二王子コレールの顔を思いっきり、踏んづけて行く。


 呆然と見ている第三王子パレスの顔を思いっきりグーパンチ!

「乙女の危機を救わないクズ! へそ噛んで死ね!」


 ああ、少しスッキリしたよ。

「兄上達とのお別れは済みましたわ」

 アスラ王国の使者と城をでる。後ろの城でクズ王妃オルグェーヌが何か叫んでいるけど、知らないよ。

 こちらは、母親マリアを殺されているんだからね。


 あの治療師の腕なら、クズ王子リグズェールは不能になるかも? まぁ、女の人には福音だよ。本当に下衆だったから。

 第二王子コレールの鼻は折れたかも? 顔だけがまともだったのに残念だよ。ハハハ!

 第三王子パレスの顔は、当分腫れているだろうね。

 回復薬があるから、少しは何とかなるかもね?


 アスラ王国の使者は、ゲンペル男爵だそうだ。ふぅん、クルセナ聖王国も馬鹿にされたもんだね。

 男爵が聖王国の王女のお出迎え? ハン! まぁ、逃げるには丁度良いかもね。


 侍女は、初めからサーシャを小馬鹿にしていた年配のカリンだ。きっとあのクズ聖王パーベェルが手を付けるには歳をとり過ぎたのだろう。

 それに、母親マリアの事も知っているかして、身分の低い貴族の娘なのに寵愛を得て、罰が当たったのだと噂していた。地獄耳なんだ。

 自分もお手つきになったのに、孕らなかったのが悔しいのかな? 理解不能だよ!


 早く、港町ヨシュアに着いて欲しい。でも、それまでは演技しなきゃね。


「ああ、喉が渇きましたわ! ゲンペル男爵に頼んで、何処かに止めて貰って。カリン、お茶を用意してください」


「もう疲れましたわ。カリン、早く休みたいのです。食事は部屋に運ばせて」


「カリン、疲れて、起きられません。ゲンペル男爵に出発を遅らせて貰って!」


 我儘放題で、ゲンペル男爵、カリンは、私が部屋に閉じこもっている間に急接近したみたい。私の悪口で盛り上がり、良い仲になったようだ。


 ああ、中年の絡み合う視線、ゲーしそう。それだけでなく、馬車の旅は、本当に辛い。身体強化があるから、なんとか耐えているよ。


 ヨシュアの港町に到着した時は、輿入れ行列の雰囲気は最悪だった。

「早く休みたいわ」これは、毎日言っていたから、カリンもゲンペル男爵も不審に思わない。


「明日は、ゆっくりと休みたいです。この道はデコボコすぎて、気分が悪くなりましたわ」

 憤懣やるかたないカリンとゲンペル男爵の視線がねっとりと絡む。わっ、気持ち悪いけど、今夜はありがたい。


 部屋は、一応は一番上等みたい。ふふふ、それにバルコニーがあるんだよ! 脱出してくれ! と言っているようなものだよね。


 ついでだから、シーツや毛布もアイテムボックスに入れておく。請求書は、アスラ王国にお願い!

 なんだか、泥棒気質になっている感じ。


「ええっと、港から遠いのか、困ったな」

 まだ、薄らと夕日が残っている。でも、朝に脱出するのは悪手だと思うんだ。

 一番良いのは、夜に出航する船便に乗ること。

 ただ、この世界では夜は旅行はしない。船でも同じかも? 魔物の活動も活発になるしね。


 下を見たけど、警備の兵もお食事中みたい。チャンス!

 見習い修道女の服に着替えて、柱を伝って下に降りる。サーシャの身体強化がなければ、無理だよね。


 何故、男装じゃないのか? チッチッチッ! 船旅、特に私が乗る三等は雑魚寝だと思う。男装して、男達と雑魚寝なんて嫌だからね。


 船から降りたら、男装しようと計画を立てたんだ。

 それに、聖皇国は腐っていると女神クレマンティア様は言っていたけど、庶民の間ではまだ信心する人もいる。見習い修道女なら、少しは配慮されるかも?

 

 ああ、ややこしい! 聖皇国とクルセナ聖王国、元々は二国とも女神クレマンティア様の愛し子が建国したんだ。こちらがクズなら、あちらはクソだそうだから、どちらも近づきたくないね。



 

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