第8話 交易都市《エンボリウム》

 女神様クレマンティアにお祈りしたお陰か、途中の島で水の補給をして、十日で交易都市エンボリウムに着いた。


 マギーがおまけしてくれた果物は、マンゴーみたいに甘かったし、パパの料理はまぁまぁ美味しかった。

 部屋は空いていたから、二等にしてくれたけど、食事は三等のままだったからね。

 値段の差は、すごく明確にされていた。

 それに、日数が経つにつれて、材料が干し肉や、干し魚、それに乾パンが多くなるのは仕方ないよね?


交易都市エンボリウムというより、防衛都市カストラに見えるのですが?」

 間違ったんじゃないの? と船員に尋ねると、笑われた。


交易都市エンボリウムは狙われやすいからな。それに海賊を撃退する武力も保持している。防衛都市カストラは、魔物から都市を守っているのさ」


 なるほど! 狙われやすいと言われるのが分かる繁栄ぶりだよ。

 追っ手のことが無ければ、ここで暮らしたい。あっ、エンボス島でもそう思ったね。北の大陸より暖かいのが気に入ったんだ。

 あの凍る湖の覚醒、トラウマになっている。


 さて、サリーにはおさらばして、アレクになろう。

 サーシャはアレックスの愛称でもあるから、そこから男女どちらでも良い名前、アレクにしたんだ。船旅中、食事とバイトの他は船室に篭って、名前やこれからの事を計画したよ。

 それと、魔法の練習も少しね! 女神様クレマンティアの知識のお陰で、神聖魔法や空間魔法を色々と知ったからね。


 では、先ずは、この目立つ銀髪を切らなきゃね!

 この世界、金髪や銀髪、キラキラした髪は貴族に多い。多分、女神クレマンティア様が愛し子に銀髪を選ぶからじゃないかな?


 ナイフしかないから、ざん切りだけど、髪をザクザク切っていく。かなり痛い! それに臭い!

 船室に髪の毛がいっぱい落ちていたら、不審に思われるから、トイレの個室で切っているんだ。

 トイレは、ポットン式で海が見えているから、髪を切っては落としていく。残った髪は足で穴に蹴り落として、証拠隠滅!

 

 頭がスースーするけど、これなら男の子で通るだろう。これに中に兵士の服を着て、修道女見習いの時から着ているマントを着る。フードを深く被れば、髪の毛を切ったのもわからないと思う。普段から後ろに纏めていたからね。


 船長さん、パーサーさんに頭をペコリと下げて、交易都市エンボリウムに上陸だ。

 計画では、ここでアレクとして冒険者ギルドに登録し、防衛都市カストラに向かうつもりだった。


 冒険者ギルド、サーシャが暮らしていた田舎町でもあったけど、規模が違い過ぎて、入るのを躊躇う。

 だって、あっちのは薬草を売りに行って、銅貨ペニーを貰うだけだった。中には、冒険者も少しはいたけど、若い子か年寄り、つまり三流、四流しかいなかったんだ。

 それも、農業の傍らとか、兼業冒険者すらいたレベルだからね。


 聖王国、名前負けのクズ聖王パーベェルが治めているけど、女神様クレマンティアのご加護の残滓があるから、魔物は少ないと言われている。

 近頃は、町の近くの森にも出てくるようになって、サーシャが討伐していたけどね。

 まぁ、女神様クレマンティアも見放していたから、ご加護も切れるかも?


 二回、冒険者ギルドの前を行ったり、来たりをしたけど、深呼吸して中に入る。

 ああ、視線が突き刺さる。それに臭い! 汗と汚れと金属の錆びたような臭い。血の臭いかも?


「おぃ、兄ちゃん。ここには、ママのおっぱいは無いぜ」

 ああ、うざい! サーシャは、顔が凄く整っている。女神様クレマンティアにそっくりなぐらいだからね。絡まれるだろうとは覚悟していたよ。

「いや、姉ちゃんの間違いじゃないか?」

 もう一人、うざい大男が寄ってきた。


「俺に触れたら、許さないぞ!」

 一応、警告は与えておこう。でも、ゲラゲラ笑われた。

「ふうん、どう許さないのかな? 兄ちゃん」

 最初に声をかけた赤毛の大男が私の肩に手を掛けた。

「バリア!」

 船旅の間、神聖魔法、空間魔法を練習したんだ。女神様クレマンティアに魔法を色々と教えて貰ったからね。

 バリアは、空間魔法で私の周りを切り取る。


 スパッと指が切れて、血が外に飛んだ。

「痛え! 手前ぇ何をするんだ!」

 後から声を掛けた黒髪の大男は、警戒している。

「ジャス! こいつは魔法使いだ。手を出すな!」

 ただし、ジャスは頭に血が昇ったのか、剣を抜いた。


「剣を俺に向けたな。命はいらないと言う事か?」

 内心ではドキドキしているけど、最初に舐められたら負けだ。

「いや、こいつは酔っているのさ!」

 黒髪の大男が合図して、周りのゴツイ男達が、ジャスと呼ばれた赤毛の大男を取り押さえる。


「お前、名前は?」

 黒髪の大男が尋ねる。

「人に名前を尋ねる時は、自分から名乗れと教わらなかったのか?」

 周りが騒つく。どうやら、この黒髪の大男は、ここの顔なんだろう。知るか!


「そうか、悪かったな。俺はルシウス! 彼方の馬鹿は、ジャス。あんたは?」

 素直に名乗るとは思わなかった。乱闘を覚悟して、ビビっていたのだ。


「俺はアレク。冒険者登録に来たのだ。ジャスの指、今なら五銀貨クランで繋げてやるぞ」

 全員が騒ついた。それをルシウスが制して、質問する。

「お前は、神聖魔法使いなのか? もしかして、神官様なのですか?」

 皆の視線が痛い。

「神官ではない。ただの神聖魔法使いだ!」


 わぁお! と冒険者ギルドが揺れた。

 どうやら、南の大陸では、神官も神聖魔法使いも少ないみたいだ。

 追っ手がいる身なのに、派手な冒険者デビューになってしまった。やれやれ!


「冒険者登録の前にジャスの指をくっつけてくれ!」

 五銀貨クラン貰ったから、床から指を三本拾ってくっつける。


「俺の指! おお、マジで兄ちゃん凄いな! おおぃ、この兄ちゃんに手を出したらジャスが相手だぞ!」

 いや、あんたが手を出し掛けたんじゃん。


 まぁ、顔役のルシウス、それと相方のジャスが睨んだら、全員が「チース!」と叫んでいたから、良いのかも? チース? 運動会系なのか?


 冒険者ギルドの受付、美人揃いだった。中には優男もいて、そこには数少ない女の冒険者が並んでいる。

「冒険者登録に来ました」

 先ほどの騒ぎは見ていたのか、すんなりと紙をだす。

「名前と年齢、それと特技を登録しておけば、パーティを組む時有利になったり、依頼も入るかもしれません。後、登録料として五銅貨ペニー。文字が書けないなら、代筆します」


「いや、書けるから結構だ」

 名前はアレク、年齢は十五歳。特技は身体強化と神聖魔法。それと五銅貨ペニーを受付に渡す。


「えっ、身体強化も?」

 受付のお姉さんが驚いている。サーシャ、細身だからね。冒険者証を貰った。後は宿だね!

「ええ、それと安くて清潔な宿を探しています」

 これ、安くて! が重要! さっさと、防衛都市カストラに行かなきゃね。

 ここでは、失敗したからさぁ。お金貯めなきゃね!

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