第8話

 俺が連れてこられた場所は普段俺が昼休みに昼食を取っている空き教室だった。ここに連れてこられたことが必然なのか、それともたまたまなのか俺に知る由はない。


「さあ、ご飯食べましょう。涌井君はどう食べたいですか?」


「どうって?」


「私と向かい合って座るかそれとも隣に座って食べるかってことです!」


 きっと断ることは出来ないのだろうな。斎藤さんは一見誰にでも優しく平等に接しているように見えるだろうが、実は違うと思っている。だってさっきの教室の時点で少し察せるところがあったし。


 彼女は自分に都合が悪いことがあれば意地でも我を通そうとする性格なのかもしれない。あくまで憶測ではあるが…


「じゃあ、隣で」


「涌井君は恋人とは隣り合わせで座るタイプなんですねー。結構可愛いです」


「こ、恋人!?」


 斎藤さんは俺をからかうようにして笑う。悔しいが少し可愛いと思ってしまった。いや、別に悔しくなる理由はないか。何をラブコメ主人公みたいな気持ち感じてるんだ偉そうに。


 俺は一生独身のネガティブくそ陰キャですよっと。まあネガティブくそ陰キャが昼休みにクラスの人気女子と二人で食事するようなイベントは訪れるわけがないはずだけど。


「冗談ですよ!結構いい反応しますね。案外満更じゃなかったりしますか?」


「満更だよ。斎藤さんは俺みたいな奴じゃなくてサッカー部とか野球部のキャプテンと付き合うのがお似合いだと思うよ」


 うちの学校の陽キャ部活のキャプテンたちは例外なくイケメンである。前に下校するときにサッカー部のキャプテンの顔をたまたま拝見したのだが男である俺でも惚れ惚れするくらいイケメンだったのを覚えている。


 真顔であれなんだからイケメンスマイルを見せられた女子たちは鼻血を出してぶっ倒れるのではないだろうか。もし生まれ変われるのであればイケメンにしてもらいたいものだ。


「私はそのような人たちには興味がありません。既に心に決めている殿方がいらっしゃいますので」


 へぇ、そうなのか。委員長は守りが固そうだと思ってたけどもう先に相手が決まっているのか。

 そんな話聞いたことないけど、あのグループ内では常識の話なのか。このご時世ほとんどないとは思うけど、許嫁がいたりする可能性もあるのか。


 ほとんど俺には関係ない話だし、正直言うと結構詳しく聞きたい気持ちもあったりするのだが触れないでおくことが得策だろう。


「じゃあそいつを幸せにしてやってくれよ」


「はい、もちろんです!」


 よく考えれば斎藤さんに既に殿方がいるということは俺と一緒に飯を食うのはまずいのでは?そもそも男子と二人っきりでいること自体深刻な問題なのでは?


 ここで俺が採るべき行動は………この場を離れることだ。


「じゃあ俺は失礼するよ」


「は?」


 ん、今斎藤さんらしくないどす低い声が聞こえた気がするけど気のせいだろうか。廊下を誰か通ったのかもしれないな。


「心配しなくても大丈夫ですよ。許可は得ていますからね」


 斎藤さんは笑みを浮かべながらそう話すと俺の座っている席の隣に腰を下ろし机をくっつけた。


「ふふ、いただきましょう」

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