第7話

 ふと違和感を感じた。なぜ斉藤さんが俺を昼食に誘うのだろうと。


 俺たちの関係を言えば、それはただのクラスメイトに過ぎない。ついこの前ちょっとしたことがあっただけでそれ以上でもそれ以下でもない関係。


 話しかけてきた意味も食事を誘ってくる意味も全く分からない。俺からすると憧れの美少女軍団の一員の人から話しかけられているのだから決して悪い気を感じているわけではないけど。


 でもなにか裏があるのではなんて考えてしまう。俺みたいにすぐネガティブ思考に入ってしまう人がモテないのだろうな。


 まあ、断るつもりだけどさ。


「もうし…」


 と断りを入れようとした瞬間、彼女の雰囲気が急劇に変わり空気が重くなった。


「まさか断ろうとはしていませんよね?」


「え?」


「私は知っています。涌井くんは毎日一人でどこかの空き教室を使って昼食を取っていますよね?」


 それはその通りなのだが…なぜそのことを斉藤さんが把握しているのか理解できない。俺は影が薄いことを自覚している。


 つまりは行動を把握されることなんてほとんどありえないということだ。

 実際今まで俺が昼休みに教室を出ていこうとも注目してくる人なんて一人もいなかった。


 俺が知っている斉藤さんではない?


「よく知ってるな」


「ええ、委員長ですから」


 クラスをまとめ上げる委員長とはいえクラスの日陰者である俺のお昼事情をすべて知っているというのは無理があると思うのは俺だけだろうか。


「それでさっきの発言はどういう意味だ?」


「断ろうとはしていませんよね、のことですか?それならばそのままの意味でとらえて頂いて構いません」


「その意図を聞いてるんだよ」


「意図…ですか。それは涌井くんと一緒にお昼を食べたいから、では駄目ですか?」


 斉藤さんは上目遣いで誘惑するように俺を見る。…正直言えばめちゃくちゃ可愛い。テレビに出ているそこらへんの美人アイドルたちよりも何倍も可愛い。


 そもそもこのクラスのレベルが桁違いなんだよな。日本中の美少女たち集めてもこのクラスの女子の顔面偏差値には適わないのではと思ってしまう。


「ダメじゃないけどさ…」


 負けだ、俺の負けだ。こんな言い方されて断ることが出来る男なんているはずがない。陰キャな俺も一応男ですがなにか?


 ここでふと俺たちがクラス中から視線を集めていることに気づいた。明らかに奇異の視線を送られている。

 男子からは嫉妬と殺意、女子たちからは誰あいつみたいな心情がこもっていそうな視線。

 

 非常に痛い。


「じゃあいいってことですね!では早速行きましょう!」


 斉藤さんは笑顔を俺に向けながら、無理やり俺の手を握るとすごい勢いで走り出した。

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