第6話
「棚が倒れてるのは見ればわかるが…それよりも怪我はなかったか?」
先生は優しい人なのだろうな、本棚の心配よりも先に俺たちの安否を確認してくれるなんて。
考えれば普通の行動なのかもしれないが、案外行動に移すのは難しかったりする。それを先生はなにのためらいもなくやってくれた。これ以上に最高の教員はいないのではないだろうか。
世の中にはびこる当たり前の行動が出来ない教員たちに見てもらいたいね。
「俺も霧花さんも無事です。それよりもすみません、本棚を倒してしまって」
「そんなことは別にどうでもいいんだよ…いや、どうでもよくはないんだけど、片づけを手伝ってもらえればいいから」
「言われなくてももちろん手伝います。原因は俺なんですし当たり前ですよ。逆に先生こそ余計な手間をとらせて申し訳ないです」
「あの…涌井くん?」
霧花は俺のことを変なものを見るような目で見つめている。まあ、突然倒した本人じゃない人間が自分が悪いと謝り倒ししてたら怪訝に思うだろう。
「霧花も手伝ってくれないか?俺と先生だったらちょっと大変だと思うからさ。力仕事は男の俺がするから本をまとめてくれると助かる」
「あ、うん。分かった」
「じゃあさっそく始まるぞ。昼休みだけじゃ終わらないだろうから二人は放課後にも図書室に足を運んでくれ」
「「分かりました」」
次の日の昼休み、俺は普段通り一人飯をしに空き教室へと向かおうとしているとある人に話しかけられた。
話しかけてきたのは斎藤さんである。
「こんにちは涌井くん。気分はどうですか?」
「気分?別に良くも悪くもないけど」
なぜこんな話を俺にするのだろうか。そもそも斎藤さんは美少女軍団の一員であり、昼休みはそのメンツで昼食をとっているはずだ。
「それは良かったです…」
「ああ、それで俺になんのようだ?」
「少しびっくりされるかもしれませんが、聞いてくださいますか?」
びっくりする話?学校生活で斎藤さんが関わっているびっくりすることなんて一度もない。いや、彼女たちの美貌に驚き倒れることはあったかもしれない、なんちゃって。
さむ。凍え死にそうだ。
「うん?」
「つい昨日、透歌との間で何かありませんでしたか?」
透歌…は霧花さんのことだろうか。たぶん透歌っていう名前の人はこのクラスでは霧花さんしかいないよな?
なにかあったのかと聞かれれば特になにもなかったと言えるだろう。だって昼休みに委員会の仕事をしただけだし、ちょっとアクシデントがあったりしたけど別になにかあったという程ではないよな。
「別になにもなかったぞ?」
「…」
ジト目で俺のことを見つめる斎藤さん。明らかに俺の言うことを信じていない様子だ。
そもそもなぜ斎藤さんが俺と霧花さんのことを聞いてくるんだ?
意味が分からないのだが。
「なるほど、涌井君はそういうことを秘密にしちゃうタイプなんですね。浮気性なんですかね?」
「ごめん、なんて言ったんだ?」
斎藤さんはぼそぼそと何か言っていたようだが声が小さかったせいか一言を聞き取ることが出来なかった。
「いいえ、なにも言っていませんよ。あ、いいこと思いつきました」
「なんだ?」
「涌井君、私と一緒にお昼を食べましょう?」
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