第3話
先生と別れた後、俺がやってきたのは自宅…ではなく屋上である。
何故かと言えばそれは、帰ろうとしていた時に斎藤さんに無理やり引き留められここに連れてこられたからである。
連れてこられた理由は既に悟っている。出来れば何事もなくあの場を去れればよかったのだが、世の中はそんなに甘くないようで無事回避できなかったわけだが。
「一体どういうことですか涌井くん?」
何と答えればよいのだろう。馬鹿正直に話すのは違うと思うし、だからといってなんとなくで乗り切れるとは思えない。
ここは上手く理由を繕うしかないな。
「実はな、斎藤さんが転ぶ前に俺はあなたのことを目にしていたんだ。それで重そうだな、って思ったんだけど見て見ぬふりをして帰ろうとしたんだ」
「はい。それがどうあのことに繋がるのでしょうか?」
「そして玄関を出ようとしたときに斎藤さんが転んでしまったんだ」
斎藤さんが苦笑いを浮かべて俺の話を聞いている。転んだ件について少し思うところがあったのだろう。
「だから俺が見て見ぬふりなんてしないで、手を貸しに行っていれば斎藤さんは転ばずに済んだ」
「…なるほど、なんとなく貴方の言いたいことは分かりました…でも、それでもあなたが責任を取るようなことをする必要はないはずです」
まあその通りだな、と心の中で深く共感するも態度には出さない。出せばすべてが水の泡だし。
「転んだのは私の不注意です。だから私が悪いのですよ。あなたが謝る理由は一ミクロンもありません」
「そうかもしれないが、もう済んだことだしいいじゃないか。俺が勝手に取った行動だ。このことも俺に責任があるし許してくれないか?」
「許しませんよ。でも確かにあなたの言う通りこの行動はあなたが独断で行ったことです。段ボールの中身を壊してしまったことは私が責任を取りますが、先生に謝ったのはあなたの責任です。これで大丈夫でしょうか?」
「ああ」
「では、また…」
斎藤さんはそう言うと手を小さく振りながら屋上を去っていった。
「ふぅ~」
どうにか問題は解決したらしい。
俺は安堵の息を吐くとスマートフォンを取り出し、ある人にラインを送る。その人物は俺にとって命よりも大事な存在と躊躇いなしに言えるほどだ。
返事が返ってくると、俺は軽く返事を返し屋上を出て下校した。
下校している途中、俺はある発言を思い出した。そういえば斎藤さんと話している時に違和感を感じたのを覚えている。
特に最後の発言だ。
確か…『では、また…』だったよな。
この言葉の意味は、まっすぐ捉えると『また会いましょう』になるわけだが。
それだとまた今度俺と話すことがあるみたいな言い方だ。俺はクラスの陰キャ代表でいつも教室の端っこで本を読みながらたまに美少女たちを瞳に映すだけの男だ。
そんな俺にクラスの陽キャで、あの美少女軍団の一員である斎藤さんが俺に話しかける?
いやいや、あり得ない。馬鹿な想像をやめるとしよう。
~~~~~~~~~~
「不思議な人ですね。あの人。すごく面白そうです」
斎藤さんこと、斎藤瞳は一人下校しながら可愛らしい顔をして微笑んでいた。スマホの中には自動追跡アプリがダウンロードされていた。
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