第2話

「申し訳ありません、秋葉先生」


 俺は職員室にやってくると俺のクラスの化学担当である秋葉先生のもとへとやってきた。なぜ秋葉先生のもとへとやってきたのかというと、段ボールの名札にビーカーと書いてあったからである。


 ビーカーを使うのであればそれは化学であろうと勝手に判断した。


「…?どうした涌井、お前が俺に謝ることなんかしたか?」


「えーっとですね。先生って先ほど斎藤に荷物運びを頼みましたよね?」


「ああ、頼んだな。新しいビーカーが届いたから教科連絡の斎藤に持ってきてもらうよう頼んだ」


「そのことで謝ることがありまして」


「どういうことだ?」


 秋葉先生は俺が何を言っているのか分からないようで首を傾げたまま俺のことを見つめている。まああれを運んでいるのは斎藤さんなわけだし、意味が分からないのは理解できるが。


「俺がその段ボールを運んでいた斎藤さんにぶつかってしまって、中の物を壊してしまったようです…」


「…本当か?」


「はい…」


 秋葉先生は俺の言葉を聞いて黙り込んでしまう。どうやら怒りを抑え込んでいるようだ。

 俺の目的のためにはもっと怒ってもらいたいところなのだが、先生は先生の事情があるんだろうな。


「まあ仕方ない。ビーカーが割れることはよくあることだしな。今回は見逃すよ」


「え、いいんですか?」


「ああ、それで斎藤は今どこにいるんだ?」


「生徒玄関前です。帰ろうとしていた時に俺が前を見てなくてぶつかっちゃって」


 先生は椅子から立ち上がると生徒玄関前に向かって歩き出す。既に怒っている様子はないようだが、もし斎藤さんに怒りをぶつけようとするならば全力で止めなければ。


 生徒玄関前にたどり着くと、そこには段ボールを端に置いたまま不安そうな顔を浮かべて待っていた。

 彼女は俺と秋葉先生の姿を確認すると慌てた様子で秋葉先生の前に立つ。


 そして…


「先生すみませんでした!」


 斎藤さんは腰を九十度にまげて秋葉先生に頭を下げた。

 まずい、斎藤さんに謝られてしまうと話のつじつまが合わなくなってしまう。どうにか誤魔化さないとまずいことになる。


「え、なぜ斎藤が謝るんだ」


「だって段ボールの中身が…」


「それは涌井がぶつかって落としてしまったんだろう。斎藤も周りを見てなかったのかもしれないが、ぶつかった本人の涌井が正直に謝ってくれたし大丈夫だぞ」


「え、どういうことですか。涌井くんが私にぶつかった?」


「ああ、正直に謝ってくれたんだ。もし黙ったままだったら厳しく叱っていたところだけどね」


「はは、先生怖い怖い」


 俺は誤魔化すように苦笑を浮かべると斎藤さんは黙ってしまった。


「段ボールは私が処分しておくから、二人はもう帰りなさい。斎藤はありがとうな。また今度手伝い頼むよ」

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