第3話 バグの正体
森の中を進んでいると、木々がひらけた場所に着いた。
俺たちはここで少し休みがてら、魔法……いや、魔術を使ってみることにした。
なぜわざわざ言い換えたのかと言うと、魔法と魔術は明確に別のものとして扱っているからだ。
「じゃあ、俺から使ってみる」
佐伯が言いながら、それらしい杖をどこからともなく出現させた。
別に杖などなくとも、魔術を扱うことができるが、ものによっては魔術の効果を高めたり、特殊な魔術が組み込まれていることもある。
そう言った魔術に関する武具などを、魔具と呼び、それぞれの魔具には適性がないと磁石の斥力のように手元から離れてしまったり、血液が付着すると爆発を起こすことがある。
それはともかく、佐伯は誇らしげな笑みを浮かべて、杖を掴み中空に水塊を幾つも発生させる。
「おぉ!」
思わず感嘆の声が漏れる。
陽光を反射し、ただでさえ神秘的な光景に磨きがかかる。佐伯は無数の水塊を縦横無尽に操る。
すごい。多分自分じゃあこんなに自由に動かせないだろう。
佐伯はどうやら魔法の才能があるのだろう。
「次は樋口がやってみてよ」
佐伯は水塊を遊ばせながら促した。
魔術には、火、水、雷、土、樹の五つの属性がある。俺は緻密な作業が向いていないから、それ自体に威力のある火か雷が向いているはずだ。
俺は的になりそうな大木を指差し、雷を放った。
豪快な音で空気を揺らし、指差した大木は見るも無惨に抉られ焦げた。
「おぉ〜」と、佐伯が拍手をしながら唸った。
佐伯も負けじと、浮かばせていた無数の水をブレイド状に変化させ、あたり一体の木を切り刻んだ。
「俺の方が強い」
「……ま、魔術ではな! 剣術とか体術では俺の方が強いし」
つまらない見栄の張り合いだが、これが俺たちのコミュニケーションだ。そして時折それは、だんだんとマジになっていったりする。
「体術ねぇ〜? でも俺ら、叩いて被っての真剣勝負で死んだんだろ? つまり、体術も互角ってことだろ?」
「あれは……! 俺はそんなにガチじゃなかっただけだし? 本気出せばお前ぐらい」
「あぁん⁉︎」
こんな感じで、だんだんがちになっていくそして今回も、例外じゃないらしい。
俺は剣を取り、佐伯は杖を構えた。
——。
唐突に始まった俺たちの喧嘩は、十分もすると森をぐちゃぐちゃに焼き尽くした。
これでも事前にこうなることを予想して、相当リミッターをかけているんだが……。
そして、俺たちの小競り合いが続くなかで、佐伯が水刃を飛ばし、それをかわすと、『キィン!』と、何かが切断される音がした。
木を切っただけなら、こんな金属がぶつかったような音はしない。
そして何より異様な気配。
「なんか来た」と呑気な佐伯。
歪んだような奇怪な気配に、息を飲んだ。俺は佐伯の隣に下がり、気配の正体が姿を現すのを待った。
徐々に足音が近づく。ぐちゃぐちゃに焼き払われた森が呻き声をあげている。
「うるせぇなぁ〜」
荒々しい声。真紅の髪。鋭い目つき……。そしてその存在感。凄まじい人間がやってきたと、素直に思った。
そして、こっそりと今いる座標を確認すると、バグの原因が存在する座標にいつの間にかやってきていたことが分かった。
「お前が……!」
人間がバグの正体とは……。
「俺の眠りの邪魔をしやがって」
男は心底不機嫌な様子で、俺たちを睨みつける。
「お前ら何者だ?」
「俺は佐伯悠! 年齢は17! 趣味は……」
「そう言うことを聞いているんじゃない。どう言う立場の人間かって聞いてんだよ」
「神様」
あまりにもあっけなく、冗談みたいな、でも紛れもない事実を口にした佐伯は、即座に魔術を行使しようとするが——。
「半壊」
男がそう口にした途端、突如俺と佐伯の間に一本の線が現れ、金切音が鳴った。
「ぶびゃ⁉︎」
佐伯のふざけた声が聞こえたと同時に、佐伯は一気に吹き飛ばされた。
俺はそれを見て一歩、地面にのめり込むほどの力で踏み込み、一気に近づく。
剣を振り上げ首元めがけて弧を描くが、安安と弾かれてしまう。
リミッターを解除したいが、多分、解除した方が大きな被害を出してしまう。
男は数メートル下がり、こっちの様子を伺った。
一瞬狙いがわからなかったが、俺が遠距離攻撃を使えるのか、様子を見ていたのだろう。
男はニヤリと笑みを浮かべ、指揮棒を振るような動きをした。
咄嗟にバリアを展開する。
コレは魔術ではなく、俺が自分ように作った能力で、相当の威力がないと傷一つつかない。
「なぁあるほど? 俺の攻撃で傷一つないか……」
「っへ!」
余裕を見せつけたが、男は間髪入れず攻撃をしてくる。斬撃を二回。倒れた木をこちらに蹴って飛ばしてきた。
飛んできた木を剣で断ち、戦闘を続行しようと構えたが、男の姿はなかった。
「クソ!」
無双できると思ってたのに、こんな異常事態が起きるとか……。
「いたぁ〜」
背後から呑気な声が聞こえる。切り刻まれたはずの佐伯の声だ。
「大丈夫か?」
「まぁちょっと痛いけど、もう治した」
「そうか。なら追おう!」
「うい〜」
完全に計算外の事態なのに、どこまでも呑気な佐伯だった。
【あとがき】
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