第2話 早速

 突如、言い渡された新世界を作れと言う依頼。ただでさえむちゃぶりだと言うのに、それをたった一週間でやれと言う。

 ふざけている。ていうか、なんだ? 叩いて被ってじゃんけんぽんでガチになって死んだ?

 頭おかしいのか俺たちは⁉︎

 いや、おかしいか……。

 ちなみに、後々神らしき声から聞いたのだが、天界での一週間は現世の一週間とほとんど変わらないみたいだ。

 最初はこんな無茶振り誰がやるかと、放棄しかけたのだが、何もないただ広いだけの空間を見て、そんな意思も無くなった。

 まぁ、作った世界で暮らせるという報酬を出されて、少しやる気が出たのもあるのだが……。

 しかし、俺とは打って変わって、が前やる気の佐伯……。まぁ確かに、佐伯は現世をあまり満喫できていなかったし、自分で作って現世の分も挽回したいんだろう。

 やる気のある佐伯を見て、俺も一息吐いたあと気合いを入れて作業に取り掛かった。

 

 ——新世界を作るのは思っていたより簡単だったし、色んな数値とかも操れた。プログラミングの超簡易版みたいなものだ。

 分厚い書物をいちいち読まなくても、仕組みを理解すれば確かに俺たちでもなんとかなった。

 

「なぁ、絶対に人世代に一人、本気の俺たちを倒せる最強の人間作ろうぜ!」

 

 と佐伯がノリノリで言った。俺は口角をあげ、ただ黙って頷いた。

 

「あ、なら最強の人種をつくって——」

 

 ——とまぁ、大体こんな感じで、新しい世界の制作は楽しく進んでいった。

 進んでいくごとに、この世界で暮らす期待も高まっていった。

 自分たちが一週間、ほとんど寝ずに作り続けた世界……!

 達成感、焦ったさ、期待、下心……。ぐちゃぐちゃな胸中を、純粋な笑顔で掻き消して、二人で遠くへ逃げたあの日のように、俺たちは俺たちの世界を作り上げていった。

 

 ——そうしてついに、その時がやってきた。

 

 突然視界が真っ白になり、俺たちは意識を失った。

 浮遊感と、全能感。力が増えていくのがわかる。筋肉も増え、不思議な感覚。自分の中に新たな手足が増えるような……、そんな感じだ。

 魔法だ。なんとなくわかる。

 あらゆるものを与えられ、そしてじんわりと世界と一体化していく気がした。世界に自分が浸透していったのか、世界が俺に馴染んでいったのか……。

 

 ——気を失っていると、過去の光景が脳裏に映る。褪せた色味。

 うずくまる佐伯。周りにはかきむしって抜けた髪。ぐちゃぐちゃに破られた卒業アルバム。朧げな目——。

 やり直そう。全て。馬鹿げた死も、前の世界が俺たちには狭すぎたからだ。

 

 手を伸ばすと、その先から木漏れ日が差し込んでいた。夢の中じゃないのに、夢心地。横たわる体から伝わる感触は、健やかに育った花草の柔らかな感触。

 体を起こすと視界に広がる草原……ん?

 遠くを眺めて見てみると、なんだか真っ黒に染まって……、いや、穴が空いている?

 手元に置いてあった禍々しい剣を手に持つ。俺の肩ぐらいまであるようなその剣は、鍔の部分に赤と金色の入り乱れた、これまた禍々しい目が埋め込まれていた。

 そんな剣を軽々と片手で持ち上げ、奇妙な穴へと駆け寄る。

「綺麗に分断されている」

 まるでレーザーでカットされたようだ。穴には何もなく、ダンジョンとかそう言う感じではない。

 そもそも、そんなもの作った覚えがない。

「ゴクリ」息を飲んだ。

 しかし、どこかで見たような……。

 記憶の奥底にある光景をぼんやりと思い出す。その正体を思い出そうと頭を回すが、思い出せない。

 しばらく考えていると、

「ゲームで見たことあるな〜」と、いつのまにか俺の隣にいた佐伯がつぶやいた。

 言われて思い出した俺は、「チャンク抜け的なやつか」と言葉を付け加えた。

「俺が今言おうとしたんだけどな!」

 と、つまらない見栄を張る佐伯。

 無視して解決のためにできることをすることにした。

 何もないところに手をかざし、目を閉じる。すると空中にパソコンのモニターのような画面が浮かび上がる。

 しかし、いろいろやって見ても解決できそうになかった。

 だけど、分かったこともあった。バグの原因は形を成し、この世界にいると言うこと。そして、その座標も……。

「行くか」

 俺の作業を隣で眺めていた佐伯に提案する。しかし、佐伯は「えぇ〜……」と、嫌そうに顔を歪めた。

「せっかくなんだし、もうちょっと探索しようぜ?」

 呑気だなぁ〜……。でも確かに、一週間世界を作るのを頑張って、またすぐ仕事をするのも億劫だ。

 少しぐらいこの世界を楽しんでもいいだろう。幸い、「チャンク抜け」もそこまでひどくない。

 佐伯の言う通り、数日どこかで楽しむことにした。

 俺たちは近くにあった、木の生い茂った森に入ることにした。

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