赤色を塗る

@aqualord

第1話

「ひとまずそれは横に置いておくとして。」


兼田の前に立った男は事情聴取を続けた。


「なぜ、あなたはこの看板を赤色に塗り替えたの?所有者に頼まれたわけじゃないでしょ。」


兼田は、改めて看板を見た。

赤色だった。

もとは黄色だったその看板は、兼田によって、赤色に塗り直されていた。


「黄色が嫌いだったの?それとも赤が好きとか?」


男がたたみかけてくる。


「いえそうじゃないんです。色の好き嫌いじゃありません。」

「だったら何なの。」


不機嫌さを隠そうともせずに、男は質問を重ねる。


「きのう、夢を見ましてね。」


さっき男に横に置いておけと言われた話を兼田はまた始めた。


「だから、その話はあなたがこの看板に色を塗ったのと関係がないってさっき言ったじゃない。」

「ええそうです。でも、そうなんです。」

「何がそうなんですなんだよ。」


目の前の男がいらつきを増していくがありありと感じ取れる。


「昨日、夢を見ましてね。」

「どうしても、その話をしたいのか?」

「はい。とても大切なんです。」

「わかった、じゃあ聞いてやる。」

「ありがとうございます。」


兼田は話を続けた。


「昨日の夢なんですが、私、どこかの家にお邪魔していたみたいなんですよ。」

「それで。」


男は、さっさと兼田の話を終わらせたいという気持ちをはっきりと出しながら合いの手を入れた。


「はい。それで、その家の人が騒ぎましてね。」

「それ、たしかに夢の話なんだな?」

「ええ。夢です。それで、おまえは誰だ、なんでここにいる、なんて聞くんですよ。」

「・・・」

「それで、よくわからない、って答えるとね、その家の人が何かわめきながら襲ってきたんですよ。それで、とっさにその家の玄関に置いてあったゴルフのクラブで襲いかかってきた人を殴ったんです。」

「おいちょっと待て。おまえそれどこでやったんだ。」


兼田の話を聞いていた男の顔色が変わった。


「ですから、夢ですって。それで、ついつい気が大きくなって、何度も何度も殴りつけたんです。そしたら、どばーって何か赤いものが吹き出して。その家の壁がね、丁度この看板みたいな黄色だったんですが真っ赤に塗り替えられて。それで、この看板も赤く塗らないとと思って。」


兼田はようやく最後まで話が出来て満足した。

だが、もう一つ話し忘れたことがあったのに気がついた。

大事な話だった。

それで、兼田はもう一つのものを赤く塗りながら、話を続けた。


「そうそう、壁だけじゃなく、その家の人もね、こんな風に赤い色になってたんですよ。面白い夢でしょ。」


兼田の話を聞いていた男は兼田から逃げようとしてかなわず、首から赤い色を吹き出しながら倒れた。






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