第3話 翡翠竜は人里を目指す

ジェイド視点


赤竜の里を出て早20日。暦はこの世界も前世の地球と同じく、基本的に1月30日で閏年あり。


俺はヒトの姿で赤竜の里のある所謂いわゆる、一般的なヒト種や魔物が住むのには適さない火山の麓から、多くの魔物が生息している大森林の中を進んでいる。


竜の姿で大森林の上空を通過することはできるのだが、それをやってしまうと大森林に生息している魔物共が大混乱して、魔物大氾濫スタンピードが発生してしまう。そうなると、とてつもなく面倒な後始末をする羽目になる。以前、やらかしてそれを経験しているので、俺は大人しくヒトの姿で道なき道を進み、必要に応じて、木を伐採しながら歩を進めている。


時間は当然かかってしまうが、特に急ぐ理由もない。食料と魔導具の素材となる魔物が向こうから来てくれるので、これはこれでよしとしている。現在位置は森の中層位だから、ヒトの姿を侮った身の程知らず共がちらほらと襲いかかってきている。


ちなみに、異世界転生ものでよくあるチートの空間収納はこの世界でもスキル、魔術、アイテム(魔導具)、全てあるし、苦労させられたが俺は全て持っている。


空間収納のスキルは冒険者時代にスキルが取得できるスキルオーブ、魔術は掘り出し物の魔術書、魔導具は付与魔術を使って自分で作った。いづれも容量、温度設定、時間設定も自由に設定と変更ができるから重宝している。


他にも冒険者時代に家電を参考に作った魔導具完備、インフラ完備、ゴーレム警備付きの家や森林では使えないが、馬の代わりに馬型ゴーレムが引くゴーレム馬車などいろいろ作って収納している。


今日も邪魔な木を伐採して木材にし、魔導具完備のこの家で食事をとって、疲れをとる予定だ。


※※※


稀だった日の光も徐々に目立つ様になり、深かった森の緑も疎になってきて、最初の目的地である石造りの建築物がまだかなり遠くにあるようだが、目に入る様になった。


この付近に生息している魔物レベルであれば、俺が知る時代の練度の騎士団なら、不覚をとらない限り、問題なく討伐できるはずだとフラグめいたことを考えつつ、俺は足を進めた。


しばらくすると、森の静寂に不釣り合いな戦闘音とヒトの声、魔獣の咆哮が耳へと届いてきた。ふむ、狼系統の魔物がいる様だな。俺は音がする方へ向けて、歩みを進めた。


案の定、樹木が途切れ開けた場所で予想通りの戦闘が展開していた。


森の“浅層”に広域に生息しているこの森では弱い部類に入るフォレストウルフ。

単体であればそれ程脅威ではない魔物だが、群れになると格段に危険度が増す厄介な魔物だ。見たところ、その数40匹と立派な群れだった。


対するは典型的な金属製のフルプレートの騎士達と彼等を率いていると思しき女性用のドレスアーマーを纏った姫騎士少女の合計10人。大森林に立ち入るには些か心許ない人数とメンバー構成の集団だ。


戦況は数の利もあって、徐々にウルフ達が押し始めている。劣勢の騎士団側は横転した馬車を盾になんとか応戦しているものの、軽快な動きのヒットアンドアウェイを繰り返すウルフ達の動きに翻弄されて負傷者が出て、確実に戦力を削がれている。


今の人間社会の貴重な情報源になると思しき姫騎士達に死なれては困るので、俺は戦闘に介入することを決めた。とはいえ、当然だが全力戦闘はできない。しかも、下手に戦うと、騎士達に面子を潰されたとか難癖をつけられて、敵視されかねない。あのときは本当に面倒だった。


そこで、こんなこともあろうかと、あらかじめ作っていた対犬……狼系魔物用使い捨て式誘引魔導具「ホネっこ」の出番だ。


見た目が完全にペット玩具の骨ガムの形状をしているが、性能はガチだ。

なにせ、この世界にもいる危険度と獰猛さに定評のある、あのケルベロスすら完全にひきつけた実績がある代物だ。


フォレストウルフ達に向けてホネっこを掲げて、中央部分にあるスイッチをオン!


『ホネっこ、た〜~べ〜て〜』


内蔵スピーカーから思わず脱力する声が周囲に流れるのとほぼ同時に、フォレストウルフ達の視線が、俺、いや、俺の掲げているホネっ子にグリッと音が聞こえてきたみたいに首を向け、一気に集中した。


それもそのはず、本来は鼻が曲がるレベルの強烈な悪臭だが、特殊加工してヒトには無臭、鼻の利く犬・狼系の魔物には効果抜群に研究して調整したミミズ系魔物のイヌマンの臭いが解き放たれたからだ。


たくさんの獰猛な狼共が口から涎を垂らしながら、目を血走らせて一斉に送ってくる圧倒的な目力めぢからのソレは異次元レベルのレベル差があっても、俺の動きを一瞬だけ止めるには十分なインパクトがあった。あっ、ヤバいなコレ。そう瞬時に直感した俺は


「そおおおおい! とおっ!!」


急いで来た道に振り返って、深い森の中へ、足を大きく上げて全身のバネを使って、手に持つホネっこを全力投球、直後に地面を蹴って、ひらけた青い空へ舞った。


複数の地を蹴る大爆音と共に森の奥に消えたホネっこを追って、その場にいた全てのフォレストウルフ達が深い森の中へ姿を消し、後には事態の急展開に置いてきぼりにされて呆然としているーー程度の差はあれ負傷しているーー姫騎士と騎士達。そして、突進してくるウルフ達を避けるために大ジャンプした俺が残った。


さぁ、姫騎士達と楽しいO・HA・NA・SHIの時間だ!

……グォキィッ

いてっ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る