第2話 赤竜娘は翡翠竜を追う決意を固める
ジェイドが旅立つときに不在だった赤竜娘視点〜
「やっぱり……」
ジェイドから届いた連絡の通り、彼の魔力供給を失った結界は里全体を覆って残ってこそいるものの、徐々にその機能が停止していっているのが分かった。
ジェイドが墓守りをしていた墓標と彼が魔導具作りのために建て、ヒトに変身して使っていた工房もなくなっていた。
ジェイドから証拠の動画付きで届いたメッセージを読んだとき、わたしが里長の依頼で、里を離れている間に同世代の雄竜達が行ったあまりに酷い蛮行を知ると頭に血が昇って、わたしの周りにあった岩をはじめとしたものが全て消し飛んでいた。
赤竜であることに誇りをもつことは悪いことではないけれども、それが他の竜族を貶めていい理由にはならないとわたしは思う。
普段から里の恩人であるジェイドに対して、愚か者達は彼の隠している本当の実力を知らずに見下した言動を重ねていたし、奴等の父親達はそれを諌めるどころか、後押ししている節もあった。
その一方で、子育ての苦労を経験している母親達は必要に応じて子守りを手助けしたジェイドに感謝し、奴等に倣ってジェイドを見下そうとした子供達を叱っていた。多分、あの子達はこれから先も大丈夫だろう。
たしかにジェイドという、わたし達赤竜とは明確に異なる存在によって、里の考えが2つに割れていたのは事実。けれども、元はと言えば、雄竜達が緑竜とはいえ、最上位の宝石竜で、唯一の翡翠竜であるジェイドの存在を下に見る理解できない虚栄心の所為だ。
ジェイドの結界がなければ竜種の中で最強の赤竜とはいえ、幼竜ではこの付近に生息している魔物の恰好の餌食になる。また、ジェイドは
ジェイドに反発していた連中はジェイドの授業を受けなかったため、【竜魔術】がほとんど使えないばかりか、使える【竜魔術】でもジェイドに師事したわたし達が使う同じ【竜魔術】よりも威力が格段に劣っているのは明白だった。
※※※
里長の下に着いた。里長は周囲を母親竜達と、ジェイドに師事して親しくしていた雄竜達に囲まれて、責められていた。
その囲みの背後にはジェイドを見下していた雄竜達が、ジェイドがヒトの姿のときに見せた、使い古したボロ雑巾の様なズタボロの状態で、それぞれが異なる醜態を晒しながら気絶していた。
「里長、みなさん。無事に戻りましたが、この様子はどういう状況でしょうか?」
わたしとジェイドを嵌めようとした里長達への怒りを抑えつつ、わたしはみんなに問いかけた。
「おお! 戻ったかルビー……お前だけか?」
切羽詰まっていた表情を喜色に変えた直後に訝しんだ表情へ目まぐるしく表情を変えた里長がわたしに尋ね返してきた。
「ええ、それが何か? 指示された場所で目を血走らせて、訳が分からないことを言う同族の集団に遭遇して、襲われたので全て返り討ちにしました」
「「「訳が分からないこと?」」」
その場にいた気絶していないみんなが異口同音にそう返した。
「はい。初対面のわたしに対して、馴れ馴れしく『俺の嫁』だの騒いで、全員が襲いかかってきたので、全て返り討ちにしました」
武骨者なわたしにも
しかも、進化状態は
大半が里では駆け出しレベルの
他に見るべき点である性格も、初対面のわたしを勝手に嫁呼ばわりして襲いかかって来た時点で全員失格。里の同世代でも
里長が昔、ジェイドを嫌って里の外に出ていったらしい同じ赤竜の子孫達にわたしを売ったことをまわりから責められている傍らで、番について考えていると、不意にジェイドの顔が浮かんだ。なんでこんなときに?
ジェイドには紅玉竜に進化してからも模擬戦で勝てたことがまだない。竜種の中で最強と言われている赤竜の矜持として、このままではいけない。ジェイドを追いかけて勝たなくては!
その場での話し合いで、里長は引責で隠居が決まり、里の中でわたしに次ぐ実力者で、ジェイドがいなくなるときにわたしと同じく用事と称して外に出されていたシグが新しい里長に決まった。
ジェイドに角と爪と牙を剥がされた連中と愚行に加担した者達、それから、シグ達によって角と爪、牙を剥がされた元里長は剥されたものが生え変わるまでは里の結界内で過ごすことを許されているが、生え変わり次第、この里から追放することが満場一致で決定した。
また、新たに里長となったシグをはじめ、ジェイドを仲間、家族と思っている者も少なくはない。最後に生まれてきた幼竜達が旅に耐えられるレベルまで育ったら、ジェイドのいる場所へ里の皆で移住することも決まった。
そして、わたしはみんなより先立ってジェイドを追いかけて、彼の居場所を伝える役目を負い、馴れ親しんだ里から旅立つことが決まった。連絡方法はジェイド製の魔導具で、ジェイドを見つけ次第、シグにすることになった。
わたしの幼馴染で妹分のルウとルウを番にした里長のシグ、親しかった里のみんなに見送られて、わたしはジェイドを探し出すため、生まれ故郷の里から旅立った。
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