第4話 翡翠竜、助けたのに斬りつけられる
いやぁ、フォレストウルフは強敵でしたねぇ
まさか、俺の着地を失敗させるために大爆走で地面を凸凹にしてきて、まさか骨折させられるとは思わなかった。あのフォレストウルフ達の中に知能が高い特殊個体はいなかったから、そんなことはないか。
冗談はさておき、フォレストウルフの群れの脅威が去ったことで、姫騎士とその護衛と思われる騎士達は、何故か助けた俺に対して警戒し始めた。
強い魔物達が生息している大魔境であるこの大森林の奥から生きて出られる人間はそうそういないから、警戒したくなる気持ちはわからなくはないが、窮地を助けてあげた身としては少し傷つく。
そう内心がっかりしていると、フォレストウルフ達が消えて行った方角から、派手な爆発音と爆発の余波の爆風がここまで届いてきた。
どうやら、『ホネっこ』に辿り着いたフォレストウルフが『ホネっこ』に噛みついたみたいだ。局地的に上位火属性魔術の『インフェルノ』相当の破壊力で、効果範囲を絞った設定の内蔵爆弾が起爆したと思しき結果の余波の大きさから、哀れなフォレストウルフ達は残らず『ホネっこ』の
「こちらに敵意はないから、剣を納めてもらえないかな?」
両手をあげて、刺激しない様に俺はそう告げて、負傷者達に【
「怪しい奴め、信じられるか! この野郎!!」
俺がかけた回復魔術で傷が治ったにも関わらず、1人の恩知らずな若い騎士が両手持ちにした無駄に豪華な装飾がされた剣を大きく振りかぶって俺に斬りかかってきた。
まぁ、たしかに、こんな普通のヒトが生きていくのが難しい凶悪な魔物達が蠢めく大森林を自分達は死ぬ思いをしているのに散歩感覚で歩いて現れ、爆発という意味で、芸術的な魔導具を見せつけられたら、怪しく思われても仕方ないか。
スカッ
「このッ!」
スカッ、スカッ
俺は襲いかかってきた騎士(笑)の太刀筋を完全に見切っていた。首を傾けたり、半身ずらす等、最小限の動きで斬撃を回避し続ける。
ただでさえ、この半人前騎士が弱過ぎて剣速が遅く、蝿が止まるレベルに見える上、ミジンコと象レベル以上のレベル格差がある。今のこのヒトの姿でも、なんの付与もされていない無駄に豪華な装飾がされた剣では、俺に傷をつけるのはどうあっても、無理だ。剣を極めた達人が使っても、この剣の方が見事に折れる未来しか見えない。
「はぁ、はぁ、なんで当たらないんだよ」
スタミナが切れたのか、振り回していた剣の切っ先を地面に突き立て、肩を上下して息を荒げて不満を漏らす三流騎士。
敵を前にしたときにするべきではない、大きな隙を晒すそのあまりにもドアホウな行動に大きな嘆息しつつ、醜態を晒す目の前の見習い騎士に俺はお仕置きすることにした。
一息に間合いを詰めて、無防備なその両脚を【足払い】で、一気に薙ぎ払った。無駄に豪華な装飾を施された剣を持った騎士モドキは地面に顔面から華麗な着地を始める。その倒れ込む途中で、撃ってくれと言わんばかりの、完全にガラ空きのボディに自画自賛できる位見事で鮮やかな【ボディブロウ】がついつい綺麗に入ってしまった。
流石に全力でヤったら、土手っ腹に風穴が空くどころか、胴体が千切れて上半身が一瞬でぶっ飛んでいって見えなくなること(過去に人型系魔物で実体験済み)から、
加えて、一撃入った瞬間に自動で【極大回復魔術(エクストラヒール)】で回復する様にしているから、殴った衝撃が体を貫く瞬間に負うダメージを回復するから死ぬことはない。そう、シヌコトハナイノダ。
俺からいい一発をもらった騎士モドキはその手に持っていた長剣を手放して、地面への顔面からの着地を再開し、予想通りの着地音が辺りに響いた。
俺に襲いかかってきたキシは顔面着地でダメージを受けたのだが、目を覚まさない。呼吸は確認しているので、生きてはいるが、完全に気絶している。
判断に迷って、静観していたらしい姫騎士と他の騎士達は言いがかりをつけて、俺に斬りかかってきたものの、見事な返り討ちにあった騎士?(笑)を助けるべきか否かで意見がぶつかって結論がでない。だが、もう時間切れだ。
姫騎士達の前に姿を現す前から、スキル【
速度を落とし始めた騎士団の中から、1騎だけ、俺と俺の傍で相変わらず気絶しているキシを目にすると、その速度を緩めずに、更に加速させて接近してきた。そして、背の鞘から大剣を抜いて、騎乗したまま、俺に向けてその大剣を無言で振り下ろしてきた。
それまでのストレスで腹が立った俺は俺に向けて振り下ろされてきた大剣の刃を親指と人差し指の2指で挟んで完全に受けとめた。
「っ!?」
「ふんっ!」
そして、そのまま大剣を引っ張って、受け止められることを予想していなかった斬りかかってきた相手を馬上から引きずりおろして、地面に叩きつけた。
「ぐはぁっ」
地面に叩きつけた際にも、スキル【手加減】がきちんと丁寧な仕事をしてくれたため、地面に叩きつけられた辺境騎士(?)は瀕死ではあるが生きている。軽くみられがちだが、この世界でも落馬で簡単に死ねる。
盗賊や山賊に落ちぶれた元騎士や元傭兵、元冒険者が徒党を組んで騎乗した際には落馬させて、数を減らすのが常套手段。対騎馬兵相手でも落馬戦術は効果抜群の戦法だ。
「剣を抜いて斬りかかってきたのだから、当然、死ぬ覚悟はできているのだろうな?」
さて、無関係なのにフォレストウルフの群れから助けて、怪我も魔術で治療したのに実害がなくとも、2度も殺す気で攻撃をされたら、流石に看過する訳にはいかない。見た目はクールなのに、割と気が短いルベウスやルビーの2人ならば、たとえ1度目であっても、普通に抹殺案件にする。
落馬の衝撃で持ち主が手放した大剣の柄をきちんと握りしめて持って、一振りした。素材は量産重視の鋼鉄製だが、重心バランス等、丁寧な作りの業物だった。
背中から落ちて仰向けになったまま、未だに動かない本来の持ち主の首筋にその剣先を俺は向ける。
「待ってください! その者の無礼は私がお詫びしますから、どうかその手を止めてください!!」
騎兵を率いてきたこの場で一番身分が高い優男様が慌てて下馬し、醜態晒す無様な相手をぬっ殺す気満々の俺に対して謝罪してきた。
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