探偵、始めました?

前回のあらすじ

菫子が学校出る。同時刻、啓人が菫子を追いかける

菫子、見つかる

啓人、撒かれる

啓人、再度見つける

菫子、カフェに連れ込まれる

菫子、探偵に誘われる




カフェからの帰り道

菫子は啓人に付きまとわれていた

「ねーねー、探偵やってよー」

「楽しいよー?」

などと勧誘を受けながら

カフェでのその後と言うと、探偵の件は後日と言ったのだが

何故かつけられているのである

因みに、カフェの代金は啓人が払った


そして帰り道

「お願い!一生のお願い!」

「うわっ!」

そう言って菫子の正面を向きピッタリ90度垂直に頭を下げ、懇願していた

「はぁ、なんで私なんですか。そんなにやりたいんならご自分でやれば良いでしょう?」

とにかく菫子は何とかして断りたかった

探偵などと言う面倒な仕事を受けるのは無理に等しいのだから

「あぁ、その点はだいじょぶ」

「え?」

「俺、過去に一回やらかしてマークされてっから」

「えぇ……」

何が大丈夫なんだと思いながらも前に進む

「とりあえず、一旦事務所来て!」

「お願い!」

菫子は内心疲れていた

「……行くだけですよ」

「やっフォウ!」

「(これで着いてくることも無くなるか)」

啓人はウキウキで

「すぐそこに迎え呼んでるから!」

と言い、菫子の家とは反対方向に進んで行った


数分後

2人の前に一台の黒い車が止まった

「さ、乗って!」

「え……これにですか?」

菫子は言われるがままに車の後部座席に座った

中には運転席に一人、女が乗っていた

「おや、君がうちの探偵さんになってくれる子かい?」

女は菫子が車内に入ってくると振り返り、笑顔で言った

「ああ、それがまだ決まった訳じゃないんだ」

啓人が説明をした


「ほうほう……つまりまだこの子にやる気はないと」

「そーそ、とりあえず事務所連れてから詳しい内容を話そうと思って」

「資料もあるし」

2人で会話を進めている横でとてもとても帰りたそうにしてる菫子


2人が少し話し合った結果、女は車を走らせた

移動中、車内は基本無言であった

たまーに啓人に電話が来て、数十秒喋っては切る

切った後に女が「誰からの電話」と聞くと「今日知り合った友達からの誘い」

と答える

その作業の繰り返しだった


車が止まったのはそんな作業が4、5回程した後だった

黒い車が行き着いたのは1件の木造建築物だった

女は鍵を使い扉を開けた

扉を通り抜けるとその中にはいくつかの机とソファとテーブルが置いてあった

女は先にソファに腰掛けるとそっちに座ってと言わんばかりに向かいのソファに目を向けた

菫子は渋々ソファに座った

座って見ると案外ふかふかで快適だった

そして、女はなにか気がついたように菫子を見て

「あ、そういえば自己紹介がまだだったね」

「私の名前は篠川しのかわ香澄かすみ、よろしくね」

「は、はい。よろしくお願いします」

「さて、本題は啓人から聞いたようにあなたにこの事務所の探偵をやって欲しいの」

「……その、申し上げにくいのですが」

菫子は申し訳なさそうに声を出し

「私にそのようなお仕事は向いてないと思うのですが……」

「…………」

香澄は少し考えた顔でテーブルを見た

「啓人、アレを持ってきて」

ほんの少し考えてから啓人に指示を出した

「ほい、これだろ?」

そう言って木で出来た棚の中から出てきた小さなファイルを取り出した

「ありがとう」

そう言いながら香澄はファイルを開いた

開かれたファイルを見て、菫子はギョッとした

「これが、私が……私たちがあなたを誘う理由」

ファイルの中のプリントには1件の事件がまとめられていた

その事件の名前は

「……神奈川児童失踪事件」

菫子は震え気味に声を発した

「私たちはこの事件を追って

「追ってた?」

「前に、そこのバカがやらかしてね」

啓人の肩が跳ねた

どうやら心当たりがあるらしい

「この事件の内容は知ってる?」

香澄が聞くと

「…………当時五歳の女児が山ノ神峠で突然姿を消した。その期間は……2ヶ月」

菫子がスラスラと、震えながら答えた

何故、菫子が10年以上前の事件を知っているのか

何故、菫子は怯えるように震えているのか

それは

「失踪した女児の名前は……」

「宮川菫子……あなたと同じ名前ね?」

「………………」

宮川菫子、それは神奈川児童失踪事件の被害者だった

香澄は続けた

「あなたは、この事件を知りたい?」

「…………正直、もう関わりたく無いと言うのが本音です」

「ですが、真実を知りたいというのも本音ではあるみたいです」

「つまり?」

香澄が聞くと菫子は

「やります、私」

と答えた

その顔は、いつもの生気の失せた顔ではなく、どこか決心の着いた顔持ちだった

「ありがとう、それじゃあ」

香澄はファイルの1番後ろをめくった

「この紙にサインをしてくれる?」

「契約期間は菫子ちゃん、あなたの自由」

「途中でしんどくなったり少しでも気が変わったらやめても良い」

一枚の紙と共にボールペンを菫子の前に置いた


「これで良いですか?」

「うん!バッチリだよ」

香澄は紙を受け取ると菫子をデスクに案内した

「ここが今日から君の仕事場だよ」

案内されたデスクの上にはまだ何も無い

あるのは固定電話のみ

ここで働くのかと新鮮な気持ちになっていた菫子に一つの疑問が浮かんだ

「そういえば、神崎さんがやらかした事って?」

「あぁ、それ聞いちゃう?」

香澄は内心嬉しそうに聞き

「ちょっとこっち来て」

と菫子に耳打ちした

「実はね、あの事件を追ってる時に探偵をやってた啓人が警察関係の人にしつこく聞き回ったり現地取材を何百回も行ったせいで、探偵業届出証明書って言う探偵をやる上では必須のアイテムを取り上げられたの」

「つまり、聞き込みをしつこくしまくったせいで出禁を食らったと?」

「まぁ、そんな感じだね」

「うわぁ……」

菫子は啓人を少し、ほんの少しだけ軽蔑するような目で見た

「え、何、なんでそんな顔してんの!?」

「いやぁ、いくらなんでもそれは無いです」

「無いよねぇ」

菫子に同調するように香澄が言う

「え、は、なんの話?」

「まさか!お前あの事話したな!?」

「さぁ?なんのことでしょう」

それまで書類の整理をしていたであろう啓人が持っていた書類全てその場に置き、香澄を問いかけた

「いや、マジで!ほんとに誤解なんだよ!?」

必死に訴えかける啓人

「誤解?私は事実を菫子ちゃんに教えたまでだよ?」

それを煽るように答える香澄

賑やかな時間は20分ほど続いたそうだ





これは呪いに愛され、呪いを追いかける少女とその仲間たちによる、とても可笑しく不思議なお話です

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