遷延性ブラックアウト

北路 さうす

遷延性ブラックアウト

 猪川組は敵対する組の襲撃を受け、事務所半壊、死者3名の大きな被害を受けた。死んだ舎弟が身を挺して守ったおかげで、猪川組長はグレネードの爆風に吹き飛ばされたものの一命をとりとめた。

 翌日はどの新聞も今回の抗争を派手に書き立てていた。色とりどりの文字が躍るスポーツ紙を眺めながら渋い顔の男が一人。猪川組長である。

「しかし何度見てもこの紙面、灰色にしか見えないな」

 猪川は目頭を揉みながら、若頭の上浦に持っていたスポーツ紙を手渡す。猪川は、事務所が半壊する大爆発の中でもほぼ無傷で生き残っていた。しかし、なぜか視界がモノクロになっていたのだ。

「医者を呼べ」

 やってきた医者は、やくざ1本でここまでのし上がってきた男の鋭い眼光に、しどろもどろになりながら話す。

「昨日、猪川組長が運ばれてきて色々検査をしましたが、全身に擦り傷があるだけで大きなけがはありません。脳や目の検査もしましたが、異常ありませんでした」

「じゃあこの視界はなんだ」

「猪川組長は現在、受けたダメージを徐々に回復している途中にあります。端的に言うと、今の猪川組長は、ちょっとした攻撃で死んでしまいます」

「は?」

 突拍子もなく死を宣告され、猪川は間抜けな声を上げた。

「猪川組長の視界が回復するまで、ちょっとした攻撃を受けると、今回の抗争で受けたであろう衝撃が一気に体に降りかかってきます。あの爆発をうけてここまで無傷なはずないんですよ。あなたをかばった組員たち、ひき肉になってたでしょう?」

 医者の仮説を一通り聞いた猪川はショックのあまり言葉が出なくなっていた。見た目に反して、かなり神経質で繊細な男なのだ。そしてそのまま、ゆっくりとベッドに倒れこんだ。

「組長、組長!」

静かになった猪川を心配した医者と上浦は、彼の顔をのぞき込んで慌て始めた。攻撃はなにも直接的じゃなくてもよかったようだ。ショックを受けた猪川は、そのまま視界が真っ暗になり死んでしまった。

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