18 フォレルークを出よう

 フォレルークの町長に見送られて、屋敷を出る。

 屋敷というかちょっとだけ豪華な民家だな。

 メイドさんもさっきの一人しかいない。


「奥さんは今すぐ全回復とはいかないと思いますので、低級ポーションをいくつか置いていきます。調子悪いときとかに飲んでください」

「何から何まで、ありがとうございます」

「では、失礼します」

「町長、また町でハイポーションが必要なら、ポルポルンボン錬金術工房へ直接、信頼できる人を連絡人にしてくださいね。必ずやポーションをお届けしますので」

「はい、そのときは、そうさせてもらいます」


 敷地を出ようと歩き出したら、テリアがふらふらっと庭のほうに歩いていく。


「なんかいい匂いがする。嗅いだことあるやつ」

「ほーん」


 他人の家なのに、庭の道を奥まで進んでいくと、色々や植物が雑多に植わっているエリアに到着した。

 大きな木も植わっていて、ほどよい日陰を作っている。


「ほらこれこれ、月の雫草だよ。花が咲いてる、珍しい」


 白くて中央の雌シベと雄シベのところが黄色い、キクみたいな花だ。


「ああ、あれか。知識だけはあるよ。初級ハイポーションの代替品の原料になるっていう」

「そうなんだ。あとは精霊水があれば、それだけでできる」

「普通の人は精霊水のほうが無理なんだけど」

「まあね」


「はい、せめて効果があるかわからなくても初級ハイポーションだけでも、調達できないかと思い、ポーションの原料になる花は色々栽培してみたのです」

「なるほど。ところでちょっと錬金術のために家の空き部屋かどこかその辺でもいい、かしてくれないでしょうか。もしよければ初級ハイポーション、あるだけ調合できますよ」

「あるだけって、この花、かなり数がありますけど」

「そうですね、では花がないのも寂しいので半分ぐらいでどうでしょう。ビンは大丈夫です」

「なんと。では、お願いしようかな」


 ということで、急遽きゅうきょ、ポーションの合成をすることになった。

 工房を出てくるとき、器具一式も持ち出していたのだ。

 あと主要な材料とかも揃っている。


「水の精霊よ。我の元に。――テリア・ポルポルンボン、aues tour licre rai more becue」


 例の古代精霊語だ。

 なんとなく神秘的な響きがある。


 光が飛び回って、空きビンに精霊水が注がれていく。

 精霊水は無色透明だけど、わずかに光っているように見える。


「すごい……」


 まあね。俺も最初見たとき度肝を抜かれた。

 空きビン類の確保は俺の業績だ、ほめてくれ。


 月の雫草と精霊水を錬金釜に入れ、合成していく。

 この工程は説明しがたい。お湯を沸かして煮出しているといえば、そうかもしれないし、全然違うといえば違う。

 魔力的な作用を伴うので、地球世界的な説明をするのは、難しい。


 とにかくこうして、初級ハイポーションが十本、町長が感激とかしている間に、できあがった。


「では三本だけ、貰ってもいいですか?」

「もちろんですとも、テリア様。七本もうちで使えるなんて、こんな贅沢なことはないですから」

「そうですか、ではいただきますね」

「はい。ありがとうございました」




 今度こそ町長の家を後にして、冒険者ギルドによって、ことの顛末てんまつを説明した。


「では、町を出ましょうかね」

「おう」


 やい奇跡だ、英雄だと祭られる前に、逃げるに限る。

 テリアも十分理解しているようで、自分から提案してきたので、それに乗って、町を出る。


「昨日の青年と、エルフさんですね。確認しました。通っていいですよ。それにしても僕も同い年くらいの若い子の彼女ほしいですね。うらやましいです」

「ははは」


 適当に笑ってごまかしておく。

 テリアのほうは彼女扱いがうれしいらしくて、いつも以上に綺麗な笑顔だった。




 とぼとぼと呑気に街道沿いを歩いていく。

 けっこう暇なので、俺はちょくちょく道の左右を見て、何かないか探しながら歩いた。


「おお、リンゴの木だ」

「リンゴね」


 俺はささっと寄り道をして、たくさん実がなっているリンゴの木から、三分の一ぐらいを失敬する。

 野生の木なのに誰か物好きがいるのだろう、剪定されていた。そのため比較的、木の高さが低く、枝が左右に伸びている。

 だから木に登らなかったり、脚立を使わなくても、取りやすかった。


「ほら、落とすぞ」

「あ、うん」


 俺がぎりぎり届く高さで、リンゴをもいでいく。

 下ではテリアが待ち構えていて、落としたリンゴをキャッチしてマジックバッグにしまっていった。


 街道付近は領主の持ち物だけど、このへんはまだナレリーナ領なので、勝手に取ってもいいことになっている。

 これが他の領では場所によっては、取ってよくても半分は税金か現物で納めること、というふうになっているところもある。

 ロバルト・ナレリーナ子爵は、そういう面倒くさいことを嫌うので、税金はない。


「結構取れたな。儲かった」

「まったく、よく木を見つけるわね」

「テリアだって本当は風の妖精たちに聞けば、教えてくれるんでしょ」

「まあね、でも面倒くさいし」


 こうしてナレリーナ領を歩いて行った。


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