17 難病を治そう

 フォレルーク町冒険者ギルドのお姉さんが町長の家まで案内してくれる。

 ちょっと道を奥に行った、他の家よりは豪華に見える家だった。

 でも道が入り組んでいて、たしかに案内は必須っぽい。


「ここですか」

「はい」


 ドアをノックすると、中からメイドさんが出てきた。

 それもメイド服のだ。


 こんなところまで、俺のメイド服が伝染してるとは。ははは。


「あの、奥さんがライーナ黒点病だと伺いまして。上級ハイポーションの在庫があるのですが」

「上級ハイポーションでございますか? それならたしかに治るかもしれませんね。すぐ町長を呼んできます」


 メイドさんは俺たちに深く頭を下げると、涙目になって町長を呼びに行く。

 泣きそうなほど、上級ハイポーションというのは希望の光だ。


 立派なジャケットを着て、まだ30代くらいの若くてできるベンチャー企業の社長みたいな人が出てきて、びっくりした。

 ということは、奥さんもまだ30代ぐらいだろう。


 この若さで死病を患うとは、かなりのショックだろうな。


「本当に、上級ハイポーションがあるのか? いくらだ。私はいくら出したらいい?」

「ああ、そうですね。普通、こういうのって町から町に転売に次ぐ転売を経て、それでめちゃくちゃ高くなるんです。俺は作って直接持ってきたので、値段は手頃なんですよ」

「そんなことが。ああ、神は私をお許しになったのだろうか。これは神の奇跡に違いない。ありがとうございます。ありがとうございます」

「まあ、はあ」


 実はいくらなら、この辺で適正価格なのか、よく知らないというね。


「テリア、いくらだと思う?」

「そうね。転売価格だと白金貨とかだけど、金貨10枚ぐらいじゃない?」

「そうか」


 この辺一帯の国の硬貨は共通で、10枚ずつで次の硬貨になり、銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、金貨で、金貨100枚が白金貨となっている。

 銅貨が10円くらいで、誤差や揺れ幅がめちゃくちゃ大きいけど、金貨10枚は100万円くらいだと思う。


「金貨10枚でよろしいのですか? 本当に? 白金貨なんて無理だと思っていたのに、金貨なら買えます。ぜひ買わせてください」


「俺なら金貨10枚とか、偽物を疑って、疑心暗鬼になりそうだけどな」

「いえ、それは。テリア様と先ほどおっしゃったので。エルフなのも含め、それはテリア・ポルポルンボン様に間違いないと。ポルポルンボン錬金術工房なら、当然知っております」

「たしかに」

「以前、商人経由で上級ハイポーションの注文を出したのですが、ポルポルンボン錬金術工房では在庫切れであると言われてしまい、梨のつぶてだったのです……他から入手するにも見積金額が、白金貨で目玉が飛び出るほど高価だったため、諦めたのです」


「すみません。それは悪徳の中間業者だと思いますよ。その商人、出入り禁止にしたほうがいいです。それ暴利をむさぼる気、まんまんですね」


 たしかにテリアの名にいて、偽物とかあり得ない。

 テリアが悲しそうにしつつ、憤慨して忠告する。


 そして、ポーションと金貨10枚を交換する。

 町長は手が震えている。

 落としそうなので、メイドさんが受け取って、なんとか保持している。


「では、奥様はこちらです」


 個室に奥様は寝ていた。

 黒い点以外にも、弱ってしまいとても起き上がれるような状態ではないのだろう。

 しかし意識そのものははっきしりしていて、会話もできた。


「奥様、上級ハイポーションでございますよ。ポルポルンボン錬金術工房のテリア様がきてくれたのです」

「そうなのですね、もう苦しい思いをしなくて、済むんですね」

「さあ、お飲みください」


 上級ハイポーションがどんな味なのだろうか、とか変なことを考えてしまう。

 めちゃくちゃ美味しいなら、飲んでみたい。

 しかし死ぬ思いはしたくない。


 上級ハイポーションは綺麗な水色をしている。

 下級ポーションは薄い緑色、中級は緑色、上級は濃い緑色だ。

 下級ハイポーションは濃い青、中級は青という、なぜか上級のほうが色が薄い。


 ポーションを飲んだ奥様の周りには、精霊たちが飛び回っているのが、俺の目には見える。

 ポーション自体が回復効果があるというだけでなく、そのエネルギーを精霊が健康な体に変換してくれる、らしい。


 顔にも出ていた、黒い点が急速に小さくなり、顔色も土色だったのが、ほんのり赤みが差して、健康的な肌艶になっていた。

 さっきは50代ぐらいに見えたのに、今では20代だと言われても納得する、美人だった。


「マーガレット、すごい。見違えた。これが本物の上級ハイポーション。テリア様、旦那さん、ありがとうございます。妻がこんなに回復するなんて」


 町長は泣きながら、地面に伏せて、俺たちに感謝したあと、神に祈っている。

 ちなみに俺は旦那ではないが、いちいち指摘するほど空気が読めなくはない。


「ありがとう……本当に、ありがとうございます。なんだか眠いわ」


 奥さんは疲れたようで、眠ってしまった。

 急な回復は、回復自体はするんだけど、疲れも出てくるらしく、眠くなるらしい。


「よかった」


 テリアもほっと息を吐いた。

 俺もその顔を見て、安心した。テリアが大丈夫だと判断したなら、大丈夫だろう。

 本当にハイルン草の栽培を研究していて、よかった。


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