15 ボアと戦おう

 川沿いの街道を歩いていく。


 川沿いといっても、増水などを考慮して、少し離れた高いところに道が通っていた。

 あれからテリアの周りには、ときおり光が飛んでいるのを目にする。

 光といっても、大きなものではなく、とても小さな光の粒がキラキラと舞っている感じだった。


 さて、俺の気配察知、およびテリアの精霊にも、モンスターの気配が引っかかったようだ。


「なんかくるね」

「そこそこ大きいね。恐らくワイルドボア系だと思うんだけど」


 ワイルドボアっていうのはイノシシちゃんのことだ。


「数は十頭以上ってところか」

「ええ、約十五頭ね」


 地鳴りのような足音が聞こえてくる。

 ボアはイノシシであるからして雑食性だ。もちろんこいつらはモンスターなので人間も食べる。


 ぐわあああ。


 イノシシが吠える。

 目の前に迫ってきていた。


 俺はドレイク・ソルジャーを取り出して、構える。


「水の精霊よ」

「アイス・ランス」


 精霊はテリア、氷魔法は俺だ。

 先制攻撃を仕掛ける。いちいち接近するまで待ってやる義理はない。


 ぐわああああ。


 再び咆哮ほうこうが聞こえる。


 先頭集団のうちすでに四頭は魔法の餌食になり、倒れて動かなくなった。

 その後ろの個体がそれを避けて、近付いてくる。


 ワイルドボアは魔法は使ってこないはずだ。


「アイス・ランス」

「水の精霊よ」


 再び魔法を放つ。さらに何頭かのボアが致命的なダメージを受けて、倒れる。


 攻撃は一方的だった。イノシシの牙が俺たちに迫る前に、魔法で蹴散らされていった。


 何回か魔法を放ち、決着はついていた。

 剣はおまけだった。非常用に出してはいたけど、出番はない。


「はい、終わりかな」

「おつかれさま」


 ハイタッチを交わして、お互いをねぎらう。


 本来なら大変なのはむしろ、ここからだった。

 全部で数えてみると十五頭。順番に解体していくとしても、非常に大変だ。


 しかし俺は死体をアイテムボックスに放り込んでおく。

 一頭だけ取り出して、先に血と内臓を処理する。

 皮、肉、骨などに分けて、再度収納した。


 解体処理するのは取りあえず食料にする一体だけでいい。


 アイテムボックスがあるといっても、中身は有限だ。

 だからなるべく現地調達を心がけている。


 ここで取れたものは、優先して使う。少しは念のため保存しておくけど。


「じゃあ、焼き肉パーティーしようか」

「わーい。おにくうううう」


 エルフいやハイエルフゆえ草食を好む、なんてことは全くなかった。

 お肉大好きらしい。


 野外用鉄板を出して、焼き肉用に食べやすい厚さに切った豚肉が並べられていく。

 もちろん野菜も隅のほうに並べるけれど、圧倒的に肉だ。


 肉、肉、肉。


「あふあふ、お肉、おいしい」

「ああ。お肉だよな」


 エルフ爆食い。


 肉、肉、肉。


 食べまくる。すごい食欲だ。

 焼き肉パーティーは夕方、日が暮れるまで続いた。




 またちょっと歩いた。

 街道沿いの宿場町、フォレルーク町に到着した。


 町ではあるが、規模としては村と大差ない。

 城壁とかもなく、長閑のどかな田舎町といった感じ。


 ベルード村とかとは違い、宿屋と冒険者ギルド、商業組合がちゃんとあるという点が違う。


 城壁はないが、木の柵と、土塁どるいはあった。

 土塁っていうのは、土がこんもり高くなっていて壁みたいになっているやつ。

 河川敷の土の堤防に似ている。


 木製の町門もあり、そこに門番もちゃんといた。


「身分証を出してください」

「はいはーい」

「あいよ」


「15歳の青年と、え、エルフのお嬢さんっと」

「やだわ、お嬢さんだなんて」

「はあ」


 まあたぶん75歳ぐらいだからな。ヒューマンならおばあちゃんだけど、心も身体もぴちぴちの女子高生とか思ってそう。高校とか異世界にはないけど。


 冒険者ギルドに寄る。


「ナレリーナ町から街道を来て、ワイルドボアの群れにあったよ」

「本当ですか。大丈夫ですか?」

「ああ、退治はしたけど、一頭ここで処理してもらっていいかい?」

「はい。あの肉はどこに? 外、馬車ですか?」

「いや、収納してある」


 大量に入るアイテムボックスは珍しいけど、そこそこの容量で時間停止なしならマジックバッグはまあまあ出回っているので、ごまかしはいくらでも利く。

 アイテムボックスも別にバレても禁句というほどではない。


「では裏へどうぞ」


 裏にある解体場といわれる施設に行った。

 そこでワイルドボアを一頭出す。大きさは人の倍ぐらいの身長はある。

 推定体重は、人間の何倍かな、ちょっとわからない。


「「「でかい」」」


 ギルドの職員たちが、固唾を飲む。


「まあね。向こうから襲ってきたから、しょうがない」

「これをお二人で? あれ倒したのは全部で十五頭も?」

「おう」

「「「すごい」」」


 後ろで何食わぬ顔で聞いてるテリアも、ほんのり頬を赤くして照れていた。

 耳がぴくぴく動いている。

 褒められれば、うれしいことはうれしいんだろう。

 可愛いところもある。


 エルフ耳ってなぜかぴくぴく動くよね。

 人間の耳も中には動かせる人もいると聞いたことがある。


 こんな感じで、今日はべた褒めされて、いい気分で、町の宿屋で寝た。

 なぜかテリアはツインではなくダブルの部屋を取りやがって、一つのベッドでくっついて寝たのは、余談である。


 ちなみに野営では、マントを羽織ってそれぞれ普通に寝ていた。

 火は消して、周囲の警戒は、便利な結界の魔道具と、風邪の精霊任せで大丈夫だ。


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