14 川で遊ぼう

 出発してから4日。

 ナレリーナ町から離れてしばらく進むと、トーラスレル川という大河に出る。

 ナレリーナ町のそばを含む街道沿いにはずっと、その支流が流れていてここで合流する。


 支流は浅くあまり太くもないが、合流点以降の本流はちょろっと大きい。


「わーい。トーラスレル川だよ。アラリン。アラリン」

「ああそうだな」


 テリアは俺の返事も待たず、川岸に走っていく。


「やれやれ」


 ちょ。テリアが川のすぐそばで、スカートとシャツを脱ぎ出した。

 あっという間に、すっぽんぽんになり水に入っていた。


 まあ、水浴びがしたいという欲求は、女の子ならわからんでもないが、つつしみは欲しい。

 信頼されているとはいえ、俺が見てるんだけどな。


「きーもちぃ。アランもどーよ」

「俺はいい」

「そっか、冷たくて、気持ちいいのに、残念」


 うれしそうに大声で言ってくる。


 というか、町を出るときに両手を広げたとき、そして今。

 最初は見間違いかと思っていたけど、テリアの周りに、何かきらきらしたものが飛んでいる。

 あ、あれ、精霊なのでは。


 俺にもかすかだけど、精霊の残滓ざんしが見えているということでは。

 俺は思わず目を凝らして、凝視する。


「あー。ちょっと、そんなに、凝視されると、さすがに恥ずかしい」

「ああ」


 そっと視線を逸らす。

 精霊が見えるというのは、かなりアレな感じであり、神聖であり、俺も、わずかにだが精霊たちに認められたということだ、と思う。


 テリアは、しばらくしたら満足したのか、水から出てきて服を着てくれた。


「あのさテリア。テリアの周りに光る粒子が飛んでたんだ。あれ精霊だろ」

「あ、うん。一緒に水浴びしたの。精霊は綺麗な水とか大好きだから」

「やっぱりか」

「本当に見えたの? すごいね。人間でちょっとでも見える人はすごく珍しいの」

「だろうな」

「もしかしたら、そのうちちゃんと見えるようになるかもね」

「だとうれしいな」

「私からも、よろしく言っておくね」

「頼んだよ」


 そっか、精霊か。

 こう、普段から身近に居るんだな。


「それでは、本日のお昼ご飯を調達します」

「わーい。釣りだ。釣りほうだい」

「そうです」


 アイテムボックスから釣り竿を出して、疑似餌の仕掛けをセットして、川に投げる。

 すぐそばでさっきまで全裸のテリアが水浴びしていたと思うと、ちょっと喉がなった。

 綺麗な白い背中がフラッシュバックする。


 集中だ。集中。


「わーい」


 テリアも声を掛けて、隣で同じように糸を投げる。


 数時間後。釣果はまあまあ。合計五匹の川魚が取れた。


「テリア、なんて魚かわかるか?」

「んーとね。たぶんメルベーレマスだと思う」

「俺もそう思う。以前、乾燥したものを食べたことがある」

「あーずるい」

「まあまあ」


 毒のある魚、というのもいると聞く。

 これは推定で、食べたことがある魚だ。


 アイテムボックスを探すと、乾燥メルベーレマスが残っていた。


「ほらこれ」

「一緒だね」

「ああ」


 串に刺して、たき火であぶることにする。


 ぱちぱちと火が爆ぜる音がする。

 いい匂いが漂っている。

 前世でもアユとかイワナとか存在は知っているものの、食べたことはなかった。


「美味しそう」

「ああ、うまそうだ」


 ちょっと冷ましてから、かぶりつく。

 皮はぱりぱりで中の身は、淡白だけどとても美味しい。


 魚はあまり食べないので、久しぶりだ。


「おいしー」

「うまい」


 テリアと二人、焼き魚を味わった。


 二匹ずつ食べて、一つ残っている。


「これどうしようか」

「私、貰っていい? 捧げものにしたい」

「神様か?」

「ううん。精霊たちと妖精たち、それから神様も」

「そっか」


 彼女が簡易的な祭壇みたいなものを石を組んで作っていく。

 すぐに完成した。


「ちょっと隣の後ろから見ててね」

「わかった」


 俺はテリアの後ろ隣で眺める。

 テリアは焼き魚をお供えする。


 頭を二回下げて、そして両手を上げる。

 俺も神妙に頭を下げつつ、見学する。


 何かテリアがぶつぶつ言っているけど、聞き取れなかった。


 周りにさっきよりもはっきりと、光の粒子が飛びまわりだした。

 その姿は、もはや神々しい。


「はい終わり」


 見とれていて、気が付いたら儀式は終わっていたらしい。

 魚は健在だった。


「お魚、天に昇って消えたりしないんだな」

「物体はね。でも生命力とかは、もう精霊たちのご飯になったから、ここにある魚は見た目だけで栄養とかなの」

「そういうもんか」

「うん」


 焼き魚は川へ流して返していた。

 エネルギーは精霊たちが吸収して、肉体は大地に返るんだそうだ。


「それじゃあ行こうか」

「うん」


 向かうは王都メルリードだ。


 先はまだだいぶある。しかし期限のない旅だ。

 気楽に行きたいし、気楽に生きたい。


 俺たちはどちらともなく、手をつないで、歩き出す。


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