6 家庭教師をしよう
三兄妹の家庭教師をしている。
「先生は、なんでそんなに色々なことを知っているんですか。辺境の村に住んでいるんですよね」
「そうだよ。これには、ちゃんと理由があるんだ」
「はい、なんだろうなあ」
「まず、一つ目。俺は今95歳だ。知識は年齢が上がるほど増える。だから俺は詳しい」
「そうですよね。お年寄りは知識豊富だから大切にしなさいってママが」
「そうだ。二つ目。俺は領主、おじいちゃんと仲が良くて上流階級の話も直接聞ける。あと月いちで情勢の報告書を村に貰ってたんだ」
「なるほどです。おじいちゃんのおかげ」
「そうだ。三つ目。俺は村で商人たちと情報交換をしている。だから各地の情報も入ってくる」
「へえ」
商人のネットワークは、周辺の地域の情報に詳しい。
俺は転生者なので、情報を持っているやつがえらいっていう前提知識があった。
村に来る商人は村長宅に泊まる以外にない。
だから若い頃から、商人に小銭や村の安酒をおごりまくって、情報を聞き出していた。
そのうち俺も詳しくなってきて、情報の対価は情報になり、経費も掛からなくなった。
そして歳を重ねるごとに情報通になり、今では長老と呼ばれるようになって、ものを知ってる商人は、俺に情報を求めてわざわざ辺境まで、みんな通ってくるようになった。
だから余計情報が集まった。
実質、俺は表の情報屋だったのだ。暗殺とかの裏稼業はやっていない。
「――ということなんだ」
「つまり、村で情報屋さんっていう仕事をしていたの?」
「うんにゃ。酒と食事のついでの会話だな。遊びさ。俺はニートだからね」
「へえ、ニートってお仕事大変なんだね」
「ま、まあな」
素直な良い子たちで、本当に感心する。
たしかに知識を授けることなら俺はできるが、歪んでしまった性格を直したりするのは無理難題なので、本当に助かる。
もともと親の教育がいいんだろうな。
領主がまともだと、次期領主夫婦もまともで、ここの世継ぎは当分のあいだ安泰だ。
「今日は剣をやります」
「「「はーい」」」
用意してもらった木刀をみんなで輪になって、相手を見ながら、剣を振る。
「一、二、三」
「「「一、二、三」」」
普通は四拍子かもしれんが、俺流は三拍だ。
これも子供の頃から、村に来ていた冒険者を掴まえて、夕方とかの空き時間に教えてもらった成果だった。
俺はニートなので空き時間が豊富にあった。
もちろん農作業の薬草干しとかはさっさと済ませている。
教えてくれた冒険者への報酬は、俺が商人から仕入れている珍しい食べ物とかだ。
クソ安い銅貨とかより、万倍よろこばれた。
冒険者はこういう珍しい食べ物がだいたい、ほぼ大好きだった。
商人に「珍しい物を買ってきてくれ、安いとなおうれしい」と注文を付けている。
商人が持ってきた物はほぼ必ず買っていたので、向こうも毎回何か仕入れてくれるようになった。
そうやって、信頼を積み重ねた。
俺のアイテムボックスには、まだ大量に集めた品々が眠っている。
「よし、次は魔法だね。魔力操作からだよ」
「魔力操作?」
「うん、魔力操作」
お腹の奥から魔力を集めて、指先に移動させたり、飛ばしたりするんだ。
これができるようになると、ただ魔法を唱えるのの数倍以上、まともに魔法が使える。
冒険者の中には、数は少ないけど魔法使いがいたので、目ざとく見つけては、頼み込んだ。
これには俺の一目惚れだった、マリーナ姉ちゃんの協力が大変重要だった。
「アラン君、魔力はね。心で感じるのよ」
そういうふうに優しく教えてくれた。
俺の手を取って、魔力を流して感じるようにしてもくれた。少しドキドキしたのはいい思い出だ。
マリーナ姉ちゃんは、俺たちの村に二か月くらい滞在した。
理由は、村周辺のモンスター狩りという名目だったが、俺が出す報酬の「ちょっと美味しいもの」の影響も大きい。
要するにマリーナ姉ちゃんたちパーティーは食いしん坊だったのだ。
報酬として出した中には、ここから遠い海魚の干物とかもある。
干物は、あるとき商人が大量に買ってきたものの、この辺で食べる習慣がまったくなくて、余らせていたのを、安く譲ってくれたのだ。
商人はほとんど儲からなかったと思うが、そこは俺との信頼関係だった。
そうやって、人から人へ、モノや情報が渡っていく。
俺はそれらを流しているだけにすぎない。
別に自分で、生み出したものなんて、ほとんどない。
俺はモノと情報を蓄積し流通させたのだ。村に居ながらにして。
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