5 新しい旅券がほしい

 昔話をたくさんして、二人でまったり過ごした。

 ワインを飲んだ後は、エールだった。

 これは領主のおごりだ。


 領主館の美少女メイドさんが、料理やお酒を持ってきてくれる。

 目の保養にたいへんよろしい。

 俺だって肉体は15歳なので、まだまだいけるんだ。たぶん。使ったことがないからわからないが。


「お前も好きだな」

「領主様だって」


 何がってメイド服のことである。

 俺が前世の記憶を頼りに、適当にデザインしたものをここでは採用していた。

 他の領主も、このデザインをとても気に入り、今やメルベーレ王国では、貴族のメイドと言えば、メイド服一択だった。

 フリフリのミニスカート。おっぱいを強調した白いシャツと胸を避けるエプロン。

 白と黒のコントラスト。そしてガーターベルトとニーソックス。ヘッドドレス。


 いやあ、思い付きで適当に描いたメイドの絵が、こんなにウケるとは、思わなかった。


 変な文化を広めて、正直、すまんかった。


「それで、アラン。どうだ、うちにしばらく滞在しないか?」

「え、俺がですか」

「他にいないだろう」

「そうですが」


 ニヤリと領主は笑う。


「今、俺の孫が10歳、8歳、6歳だ」

「そうですね。可愛い盛りでしょうね。俺、ロリコンだから小さい子は好きですよ」

「そりゃ、ヤバイな。一番上が男の子、下二人は女の子だ? 嫁にするか?」

「やだなあ、さすがに冗談ですよ。自分がこの先、どうなるかもわからんのに、そんな無責任な」

「そういう責任感はあるんだな」

「そりゃあ、ありますよ」

「それで真面目な話、家庭教師をしてほしい」

「あ、そっちですか。嫁じゃなくて」

「そうだ。家庭教師だ。手は出すなよ。いや、手は出してもいいが、その時は責任を取れ」

「はい。手は出しませんが」

「そうか」

「はい」

「家庭教師は……」

「そうだな、いいですよ。ただし一か月を上限に」

「それでもいい。アランはモノを知っているからな」

「うれしい評価です」


 こうして、俺は子供たちの家庭教師をすることになった。


「ああ、そうそう。ご褒美に、美味しい食事と、15歳という偽の旅券、領主発行のちゃんとしたやつ、ください」

「ああいいぞ。偽の旅券か、本当に、旅に出る気か。まあ、いいだろう」


 前領主の名前が書かれている大変ありがたい、今の旅券、身分証だが、この周辺の領では通じるものの、遠くではその効力が著しく落ちる。


『ヒューマンの95歳で、15歳の見た目です。領主が保証します』


 とかどう見ても、偽造にしか見えない。

 遠くでは、領主の名が書いてあっても、真偽判定が難しい。

 そういうのを判別する魔法はこの世界にはない。


 だから安全に旅をするには『偽造の本物の旅券』なんか矛盾しているが、そういうものが、どうしても必要だった。

 もちろんこの領主のことだから、家庭教師を引き受けなくても、旅券くらいくれるだろう。

 俺にも、等価交換とか、恩には恩を返す、みたいな精神もないわけではない。


 ぶっちゃけ95年も生きると、一か月ぐらいなら、誤差の範囲だった。




 翌日。どうせ暇なので、さっそく御子様たちの相手をする。


 まだそこそこショタい10歳のイケメン。

 可愛い8歳の金髪ロングちゃん。

 めっちゃ可愛い可愛い6歳の金髪ロングちゃんそのニ。


「ドミニオン・ドゥラン・ナレリーナです」

「フェリーナ・ドゥラン・ナレリーナですわ」

「オリビア・ドゥラン・ナレリーナでしゅ」


「はい。よく挨拶できました。俺はアランです。よろしく」


 たしかに襲いたくなっちゃうくらい可愛い。

 あのおっさんの孫とは思えない。すごい。貴族の血ってやつはこれだから。


「まず自分の名前のこと、わかるかな?」

「ドミニオンが名前。ドゥランが国から授かった貴族名、ナレリーナが領名になる苗字ですよね」

「まあそうなんだけど、ドゥランってドラン、ドラン、ドラグーン、ドラゴンって感じで元はドラゴンなんだよ」

「それは初耳です」

「ちなみに俺のフルネームはアラン・グリフィン・スコット。グリフィンはまんまグリフォンだね」

「なるほど」

「小さい村だけど、ナレリーナ家の前の前の領主の家系の分家だね。その頃に村を新規開拓したんだ」

「へえ」


 まあ、古いことならおじいちゃんは詳しいぞ。


「ああ、剣とか魔法の基礎も教えるから、厳しくはしないけど、楽しく学んでほしい」

「「「はーい」」」


 みんな仲良く、手を上げる。

 こういう兄妹は、いきなり喧嘩したりすることもあるが、この子たちは仲が良い。


「それから、美味しい食べ物の授業もする」

「え、食べ物なら、毎日、それなりに美味しい物、いただいていますわ」


 さすがフェリちゃん。


「俺は行商の兄ちゃんたちと仲が良くてね。珍しい食べ物を持ってきてくれるように、いつも頼んでいて、色々持ってるんだ」

「ああいいなあ」

「だろ。だから色々ちょっとだけど、食べ物の紹介もするから」

「「「わーい」」」


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