幻想か?幽霊か?
雨が降った日、電車に乗った日、朝早く起きれなかった日、兄さんの命日、君が死んだ日。僕はただ君のことを見ていた。電車に轢かれた君の血だけがその場のただの日常を破滅に向かわせた。君の血は水だった――透明だったんだ。すぐに雨水に混じる君の血、不思議と冷静だった車掌に乗客にギャラリー。君は人間ではなかった――
「早く来いよ、学校遅れるぞ?……だから起きろって!」
慣れ親しんだ声が聞こえてくる――そうだ、僕の親友兼家族の声だ。
「はぁ……流石に駅のベンチで横になって寝るのは理解できない。お前の脳はどうなってんだ?」
昨日の夜、夜更かししちゃってさ……僕にしては珍しく23時に寝たんだ。まあ、理由はわかるだろ親友。兄さんのことさ。
「ごめん、ごめん。」
「早く乗るぞ」
雨が降る中、電車に揺られながら学校に行く。雨水が窓に鬱陶しいほど当たっている。春が来る前の雨、希望と幸せ、青春の準備だ。
「高校って楽しいかな?どんな奴が居んのかな?高校生だよ?もう」
「そうだな。まっ!お前よりも面白い奴はいないだろうな!」
「僕が面白い奴ならお前は天才だよ」
「んなことわかってんだよ。問題は俺に釣り合う奴がいるかどうかだ。まあ、お前しか釣り合わないってオチだろうけど(名字はお前と同じだし、血液型だってお前と同じだからな)」
「そっか……!」
僕たちが行く高校に近い駅に降りて、そこから徒歩で23分。偏差値は高くも低くもない、至って平凡な学校だ。だが、悪くない――僕たちにはお似合いだ。この高校は俺にとってベストだったが、今日の天気は予想外。でも……
「でも、及第点……」
「……!何でわかった!?僕が思ってること」
「お前の顔見たらわかるだろ。顔に出やすいんだよお前は」
「そう?」
「そうだ――ほら、駅着いたぞ。降りよう!」
クラス発表――結果、90点?理由、親友の名前が何故かなかった。先生方のミスだろう。
席の配置――結果、60点。理由、窓際の端っこなのは良かったが周りの席が全て空席。どうやら不登校とか病気だとかなんとか。俺の親友はというと……そもそも席がなかったみたい。俺以下だ。
担任――結果、80点。理由、自己紹介から考えるにどうやら期待できそうな先生だった。
合計――230点。うん、悪くない高校生活のスタートを切れた!
「もう帰るらしいぞ」
「もう?早いな……というか傘持ってきた?ないと困るだろ、お前」
「……そっか!ごめん!相合傘して!」
「しょうがないなぁ……」
「ありがと!俺の親友!」
帰る――家に帰る。がたがたぽつぽつ電車の中は好きだ。電車の中は……。
僕と親友はベンチで電車が来るのを待っていた。適当に自販機で買ったジュースを片手にスマホをいじる。ふと、今何分か見てみるともうすぐ電車が来る時間だとわかる。
「そろそろかぁー、短かったようで長かったけどお前と一緒だったから楽しかったよ」
そう言いながら微笑む親友。
「そうだな!明日もバカやってふざけてこうぜ」
「……じゃあな。また今度!」
「……?何か用事でもあるのか?」
「いや……正確に言うと用事が"終わった"のほうが正しいかな?――バイバイ親友!」
「ああ、バイバイ親友……!」
そんな会話をしてそいつは……駅のホームから飛び出した――僕の隣にはペットボトルと缶ジュースが2本。片方は兄さんが好きだった缶ジュース。
――衝撃!一家殺害事件の被害者の自殺が判明
2003年4月8日に起こった██県██町での一家4人中、3人が殺害された事件の被害者、次男である██ ██さんの遺体が翌年2004年4月8日に自宅から首を吊った姿で発見された。警察は自殺の可能性が高いと発表。また、現場近くには遺書が残されていた。以下は発見された遺書から抜粋――
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雨が降った日、電車に乗った日、朝早く起きれなかった日、兄さんの命日、君が死んだ日。僕はただ君のことを見ていた。電車に轢かれた君の血だけがその場のただの日常を破滅に向かわせた。君の血は水だった――透明だったんだ。すぐに雨水に混じる君の血、不思議と冷静だった車掌に乗客にギャラリー。君は人間ではなかった――僕の幽霊だった。あの日兄さんは天国から俺の元まで戻ってきた。僕と一緒に高校に行ってくれた。嬉しかった、頼もしかった、ずっと一緒に居たかったと思ってしまったんだ。だから、だから僕は死ぬことにした。義兄だった兄さんと僕は"親友"のようだったと母さんは嬉しそうに言っていたよ。今からそっちに行くよ兄さん――
なあ、兄さん。天国は楽しいかな?
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