狂った世界にさよならを

タラかに

さよならと、

 さよならと、言う貴方。川のせせらぎがとても貴方によく似ていて素敵だと思う。花火が見たいと言った貴方。最後に見たのは自分の影だったんだね。私にはとてもそれが愛おしく思えた。


――トースターで食パンを焼いた。とても香ばしい匂いがキッチンに漂う。

「さあ、蜂蜜とバターを用意して食パンに塗っていこう。君の瞳と同じ匂いがするよ、ねえ」

 やはり、この甘くて自分の欲求を掻き立てる匂いは貴方によく似ていた。流石に、食パンの耳から食べ始めるのはおかしいと貴方は言っていた。何の脈絡のない会話を貴方と楽しんだなぁと今、私は追憶に浸っている。

「はぁ、何て愛おしく尊い存在なんだ。君の唇に蜂蜜がついてしまっているよ」

 私は自分の手を貴方の唇にかざす。キシキシとギシギシとミシミシと貴方は笑ってくれた。まるで犬みたいに縄を首につけてさ。犬のような愛らしい瞳を私に見せてくれる。

「ああ、嬉しいんだね。わかるよ、とてもわかるよ。……駄目じゃないか。涙を流したら、君の顔が台無しだ」

 貴方の真紅の涙は薔薇やもっと体の奥底にある血のようだ。深みがあって、それでいて美しく、私を惹きつける。体のどこを見てもそれはそれは彫刻のような正確さがあった。

 私は椅子に座り、貴方と朝食を食べる。貴方は花火を見たいと言っていたから、私はマッチをたくさん用意した。

「ついつい、買い過ぎてしまったよ、ごめんね。でもおかげで綺麗な花火を君に見せることが出来る」

 私はマッチを箱から床へと落とす。部屋中、マッチだらけの薔薇の庭園。ひゅっと指で摘んだマッチに火をつけた。マッチを落とす。ばちばちと音を立てて目の前が光り輝く。そう、この部屋には貴方と私だけ。薔薇はだんだん黒くなっていく――

 

「見れたね花火」


 犬の首輪で首を吊った貴方。私と別れた後、その罪悪感で死んでしまったんだね。父親には結婚を反対されていたらしいね。仕方なかったんだね。私を振ったことを罪だと思ってしまったんだね。しょうがないよ、全て悪いんだ。全員が全員君に幸せになって欲しいとは思わない――生きたい時に死ねと言われ、死にたい時に生きろと言われ、生き方がわからなくなってしまったんだね。

 天国ではどうですか?天使は居ますか?神は生きていますか?私も行ってもいいですか?駄目ですか、ああ、そうですか。

「酷いと思わないか?」

私は貴方に問う。

「今この瞬間、僕は生きろと言われたんだ」

 見知らぬ天井、包帯でぐるぐる巻きになってもまだ生きているんだよ。火傷で皮膚がボロボロ、右目が失明、右足と左腕の欠損。まだ、神は僕のことを愛しているみたいだ。

 腕を天井に翳しても、包帯の隙間から見えてくるのはコンクリート。


くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくにゃくちゃくにゃと僕は何かを噛んでいた。自分の舌で舐め回してみるとそれは貴方の耳だった。渦巻きの所が子供の頃舐めたぺろぺろキャンディーみたいでつい懐かしく感じてしまったよ。


「……ってるんですか!?」

 何やら騒がしいな。


いや、違うな。君はもっと滑らかで後味はミントのような爽やかさ、でもしっかり甘みがある。そんな味だったじゃないか!!!……僕としたことが自分の耳と貴方の耳を間違えてしまったようだ。

 

「ごめんなさいごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんなさい」

 

駄目だ駄目だと言い聞かせてくれ。しなきゃいけないんだ。僕は君に謝るけど、僕にも言いたいことを言わせてくれ。


 

「君ともっと思い出を一緒に作りたかったよ!!もっともっともっと!もっと!!!一緒に居たかったよ!!!何で死んだ!?生きてくれよ!!死ぬなよ!!生きなきゃいけないだろうが!この間抜けが!!」


 

 はあはあと息切れをする、僕は気づいたら天国にいた。































やあ








 




僕はこの狂った世界にさよならを言いに来たんだ


ちなみに言うと、今は天国に居るよ


天使の輪っかをつけたんだ


天国に神は居なかったよ

 

僕しか居なかったよ


僕がここ来た時に神は出て行ったんだ


出て行く前に神様は1つ僕に言ったんだ










 




 



 



「神様はもう人間には興味ないってさ」






 


 

 

 

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