都立魔法学科専門高等学校及魔法研究所
4月3日 午前7時25分
陽真は半ば強制的に制服に袖を通した
「はァ.....それじゃ行ってきます」
「はーい、私の分まで楽しんで来てねー!」
「楽しむ場所じゃないと思うんですが」
ツクヨミが心無しか残念そうな顔を浮かべるのに対し、陽真は心から嫌そうな顔をしている
話は遡り、昨夜26時
「それで?何をすればいいんですか?」
「行く気になってくれたのね。具体的には、一つの資料を持ってきてくれれば良いわ」
「資料?何処にあるんです?」
「場所は研究棟の図書館」
魔法学科専門校等学校には学校棟と研究棟の二つの建物が存在する
「それで?その研究棟に行くための条件は?」
「学期末考査での上位五位以上、総合得点実技95点以上、座学800点以上の成績を残す、三人以上いる場合は特別試験にて研究員を決める」
「うっわ、聞いた事を後悔するレベルだ……」
「とにかくこれを在学中、一番早くて今年中に完了して」
「あのー、侵入して盗むと言う選択肢は?」
「あら?研究員が常駐してて、尚且つ魔法を使えば一発で居場所が特定される施設に侵入できるのかしら?」
「それもう研究員と言うか警備員なんじゃ……」
「つべこべ言わずにお願いねー」
現在、陽真登校中
「はァ……憂鬱だ」
陽真がブツブツ文句を言ったその時
キィィィィ!
「わぁぁぁぁぁ!!止まってぇぇぇぇ!!」
「は?」
陽真の前に走行中の自転車が正面から突っ込んできた
「(やっべ!どうしよ……とりま受け身は取れない、結界なら間に合うかな?)」
「防御系統魔法
ガシャーン!
ギリギリで結界を張ったが衝撃で吹っ飛ぶ
「(あーこれどーしよー……流石にこのままじゃ無事じゃ済まないよなー……はぁ、めんどくせ…とりあえず地面に)」
「水系統魔法
陽真は地面に魔法をかけて衝撃を殺した
「ふぅ……危ねー」
一息つくと目の前から
「あ、あの!本当に申し訳ありませんできた!」
自転車の持ち主であろう少女が全力で謝ってきた
「え、あぁ、大丈夫ですけど……そちらこそ……」
そう言って自転車に目をやると
主に前面が凹んでおり、ハンドルはあらぬ方向に曲がり、後輪も円形を保ってない等々、挙げればキリが無いほどの損傷を負っていた
少女はそれを見るなり
「あぁ!そんな!せっかく一昨日新調したのに!」
「(元気な子だなぁ)」
そこで陽真はある事に気が付いた
「あの、もしかして魔法学校に行きますか?」
「え、あ、ほんとだ!制服同じ!」
元気にはしゃぐ少女はキラキラと目を輝かせる
「てことは、行き先は同じでしょ?一緒に行かない?」
仲間を見つけた事が余程嬉しかったのかウキウキで少女は聞いた
「あー、ごめんなさい。外せない用事がありまして……」
「そっか残念、あ、連絡先でも交換しない?自転車の件もあるし!」
「それは良いんですが……」
視線を自転車だったものに向ける
「あー……どうしよう……」
「……あの、もし良ければなんですが知人にこう言うのに詳しいのがいるのでそちらに聞いてみましょうか?」
「本当に!?お願いします!!!」
「分かりました。では、これが僕の連絡先です」
そう言って2人は連絡先を交換し、陽真は少し急ぎめに学校へと足を運ぶ
7時50分頃 魔法学校職員室前廊下
陽真の外せない用事
それは任務の協力者との接触である
加奈から聞いた話だと既に話を通してあるとの事だが……
陽真が職員室の扉をノックしようとしたその時
「君が柊の言ってた子かい?」
横から声がした
「はい、貴方が加奈さんの言ってた協力者ですか?」
すぐに身体を横に向け、正面を向き合う形にした
性別は男、体格は標準よりやや良さげで顔はキリッとして整っている
世間からすればイケメンの部類だろう
「ああ、望月の馬鹿に頼まれてここに突っ込まれたよ」
面倒くさそうな表情を浮かべながら頭を掻きむしる男はその姿さえも格好よく見える
「んで?俺に何か用かな?」
「いえ、特にこれと言った用事はありませんが加奈さんに『一応顔と名前は覚えてこい』との命令が下りましたので」
陽真がそう言うと男は不機嫌そうに
「あぁ?自分はよく忘れる癖に部下には覚えてこいとか言うのかよ……相変わらずだなホント」
男はため息をついた後に一呼吸置いて自己紹介をした
「名前は
「分かりました、それでは僕の方はこれで」
「おう、また後でな」
「(後で……?)」
陽真は疑問を浮かべながら別れを告げ体育館へと向かった
8時26分 魔法学校体育館
始業式が始まるまで後4分程ある
始業式と言っても、各クラス担任の発表と話を聞くだけだ
「(えぇっと……席は受験番号順か……え、俺何番?)」
陽真は心の中でそう思った
何故なら入学試験なるものを受けた記憶が無いからだ
「あ、そう言えばなんか貰ったな」
何かを思い出した陽真はポーチの中から1枚の紙を取り出した
「あ、書いてあったわ」
その紙には『受験番号152468番』と書かれていた
どんだけ受験者いるんだよと思いながら自分の席を探す陽真
始業式開始数分前
何とか席を見つけた頃にはもうすぐに式が始まりそうだった
結局、陽真は1番端にある椅子に座った
「(はぁ、これから始まるのは地獄か、少し苦しい地獄か……)」
式が始まると同時にそんな事を考える
「これより、第3回都立魔法学科専門高等学校入学式を始める一同、起立!」
マイクロフォンを通した声は体育館中に響き渡ると同時に、体育館にいる全ての人間を動かした
「礼、着席」
無機質な声に従う生徒達
あとは話を聞くだけである
「初めに新入生挨拶代表、
「はい」
聞き覚えのある声と同時に周りから小声が聞こえてきた
「代表挨拶って入試1位の人だよね」
「あの入試問題……時間ギリギリで埋め終わったってのに1位なんて無理無理」
「(そーいや入試なんて受けた記憶ねーな……あとで聞こう)」
長々とした挨拶が終わり、諸々の説明が済んだところで教室に案内された
配属先は一年三組
既にグループのようなものが出来ているようでクラスの中で数名が楽しそうに会話をしている
クラスに全員が着席した所で担任と思われる男が教室に入った
その男は……
「おはようございます。本日からこのクラスの担当をさせて頂きます美濃部 華夷と申します」
集会前に陽真と顔を合わせた美濃部だった
しかし、先程とは大きく変わって爽やかとした好青年のようなオーラを放っている
どちらかと言えば先程は、何もかも気だるげなだらしのない男という印象だったのだが……
「(やっぱ裏業界の人間って怖ぇー)」
そんな事を思っていると美濃部が
「それでは!クラスの親交を深めるために、全員お互いに自己紹介をしましょう!」
「(は!?おい?ちょっと待て!そんなの聞いてないぞ!?)」
入学初日の自己紹介、それ即ち今後のクラスでの自分の地位を位置づける重要な一時
それと同時に、コミュ障にとっては地獄のイベントでもある
「それじゃ最初は、出席番号一番の青木さんから」
そこから順に自己紹介を初め、終わったら着席する
特に何事もなく陽真の番に回ってきた
陽真は席を立ち、今の今まで考えていた文章を読み上げる
「つ、
心臓の音が耳から聞こえる大半の音を締めながらもなんとか言い切り席に着いた
「(あっぶねー何とかなったー)」
冷や汗をかきながら安堵の表情を浮かべる
そこからは普通の
「月浪くん、ちょっと良いかな?」
HRが終わりクラスのほとんどが帰宅しようとしている中、美濃部は陽真を呼び止めた
「どうかしましたか?」
「少しお話があるからこの階の一番西側にある空き教室まで来てくれるかな?」
「分かりました、荷物の整理が終わり次第そちらに向かいます」
「それじゃ、待ってるねー!」
爽やかな笑顔を向けながら去っていく美濃部に違和感を感じている陽真は配布された荷物を持ってきたリュックサックの中に詰めた
一通り詰め終わりいざ向かおうとすると、教室の真ん中より少し前側、ポツンと座っている女がいた
「(誰か待ってるのか?にしては準備不足過ぎるが……)」
見た所、彼女は荷物もまとめずに、ただ椅子に腰をかけているだけだった
「(と言うか、なんか見た事ある気が……)」
そんな事をぼんやりと思いながら黒板を見つめていたら
ガタンと音を立てて例の女が立った
すると次の瞬間、振り返りこちらに向かって来たと思うと……
「あの!もしかして今朝お会いした人ですか!」
「え……あ!自転車に乗ってた!」
「そうです!その説はお世話になりました!」
軽く頭を下げこちらに顔を向ける
「いえ、そんな大した事は何も……それよりもお怪我はありませんでしたか!?えぇっと……」
自己紹介の時間、自分の事で手一杯だった陽真はクラスメートの名前を全く覚えていなかった
「あ、私は鈴峰 冬華って言います!お好きに呼んでください!」
「あぁ、じゃあ鈴峰さん、お怪我は無かったですか?」
「はい!擦り傷はありましたが大した傷じゃありませんでしたのでお気になさらず!」
「それは良かったです。自転車の件ですが、修理出来次第ご連絡します」
「分かりました!あ、そういえば連絡先交換してましたね!ではお待ちしています!」
そう言って自分の机に戻った冬華を横目に陽真は教室を後にした
一年生の教室がある4階の一番西側の教室
そこの扉を三回ノックしてから開いた
「失礼します」
「おぉ、遅かったね!待ってたよ!」
そう言ってドアが閉まったことを確認すると
「要件だけ伝える、なるべく手短に済ませるぞ」
やはりと言うべきか表の顔と裏の顔がはっきりとしている
「要件?何か進展が?」
「いいや全くのゼロだ」
「えぇ……」
陽真は残念そうな顔を浮かべる
「だがな、一つだけ分かったことがある」
「ほう?聞かせてもらいましょうか」
目を輝かせながら美濃部の方を向く
陽真の内心はさっさと終わらせて惰眠を貪りたいと言う強大な欲求にかられているのだ
「分かったことは研究棟の奥にある部屋が限りなく黒に近いと言うこと」
「やはり研究棟ですか……」
「それと同時に、この学校で生活する上で気をつけた方がいい事もある」
「それは?」
「研究員には気をつけろ。特に魔法研究会にはな……」
「魔法研究会?そんなにやばいんですか?」
「基本的に出回る噂は良くないものの方が多いくらいにはやばい」
「なるほど……」
「おい、どうしてそんなに嫌そうな顔をしている?これでも頑張った方だぞ?」
「いやぁ……して無いですよそんな顔……」
分かったことと聞いて耳を立てて聞いていたが、実際は注意喚起だった事にガッカリした陽真は露骨に嫌な顔をした
「まぁ、普通に生活してれば関わることも無いから安心しとけ」
「分かりました。情報提供感謝します」
そう言い残して陽真は教室を後にした
魔法が使える現代社会で最強です ごーや @Goya3389
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