同日、数分前、近場にて

2050年 4月3日 午前1時30分

廃立体駐車場のすぐそばに2人の男女が佇んでいた

何やら言い争いをしているようだ

「だーかーらー!」

「さっさとしないと目標を取り逃がすでしょ!」

黒衣を来た白髪の女は、まるで駄々をこねる子供のようだ

「落ち着けツクヨミ」

標的ヤツらは逃走用の車をこの立体駐車場に置いてる」

「乗り換えてここを出発したら追跡し、本拠地を割り当てる」

ツクヨミと呼ばれた女は不満たっぷりに答えた

「それはまたの機会で良いでしょ!」

「今は敵の殲滅、及び尋問拷問が最優先!」

「それに!陽真が慎重すぎて、この前依頼も危うく失敗するところだったじゃん!」

陽真と呼ばれた少年は呆れながら

「あの時は万が一逃げられても大丈夫なように策があったからだ」

「それと、あの時はお前が突っ込んだから失敗仕掛けたんだろ?」

「ぐ、ぐぬぬ!」

陽真が反論するとツクヨミはぐうの音も出なかった

「もういい!私一人でやる!」

そう言って廃立体駐車場へと飛び入った

「お、おい!待て!」

陽真の静止を振り切り飛び出したツクヨミにため息を吐きながらも追いかけた




2050年 4月3日 午前1時38分

陽真が現場に到着した時には既に男2人を追いかけていた

ツクヨミは子分らしき男を追いかけ回していた

「(俺はこの向かってくるやつをやればいいか)」

後ろで転けた子分をまるで見捨てるような形相で陽真の元へ突っ込む

「ガキが!どけ!」

「……………」

「聞いてんの」

「か!」

陽真が何も言わず立っていると男は殴りかかってきた

「お望み通りどいてやるよ」

スカッ

男の拳は宙を穿つ

陽真は完全に伸びきった腕を両手で掴んで

「よっと!」

ゴキッ!

関節とは逆の方向にへし折った

「っがァァァァ!」

「腕がッ!腕がァァァ!」

ヒューヒューと呼吸音を立てもがく男の姿はまるで裏返った虫のようだ

陽真は横目にツクヨミの方向を見た

陽真の目に映ったのは横になっているツクヨミの姿と慌てふためいている子分の姿だった

「チッ、面倒臭い」

「い、今のうちに!」

「(逃げる気か)」

陽真は子分の方に目を向けた

「物理系統魔法 見えない箱スクエア

「痛っ!これは……結界!」

「逃がした訳じゃねーぞ

この馬鹿を叩き起したらお前の番だ」

「(さて……)」

そういうなり、陽真は手を挙げ

パァン!

頬に平手打ちをした

鋭い音がした

「……ったぁ!」

「何すんのよ!」

ツクヨミは言うなりぶたれた頬を抑え転がり回った

「何する?突入した上に敵の攻撃をモロに食らって、昼寝した馬鹿に制裁を与えただけだが?」

「そうじゃなくて!レディの顔に何してくれてんのよ!」

「レデ……ィ?」

「誰が?」

「わ・た・し!」

「あーはいはい、そうですねうるさいうるさい」

「それよりも、アレどーすんだ?」

数回の言い合いを一通り済まして陽真は閉じ込めた子分を指さした

「えー、陽真やってよー」

「自分が目に付けた獲物くらい自分でやれ」

「はァー」

ツクヨミは子分の方へと歩み寄った

「ごぉめんねぇー、すぐに終わらすからねー」

そう呼びかけ、ツクヨミは子分の額に指を当てて唱えた

「雷系統魔法静かな雷スパーク

パチパチ……

ドサッ

子分は意識が消えたのか、重力に身を任せ倒れた

「ふぅー、一件落着ー!」

「何が一件落着だ」

「勝手に突っ込んどいて、いざ追いかけて見たら寝ていやがる」

「こっちからすれば面倒極まりねーよ」

ため息を吐きながらツクヨミに言った

「所で陽真」

「なんだ」

「呪術、使った?」

「いや?式神なら使うが、呪術アレはよっぽどのことが無い限り使わない」

呪術……呪術系統魔法

古来より、呪いと言うのは人の感情により招かれるものであった

しかし、魔法という技術が発達してからは感情など関係なく効力が発揮する

言わば、魔法と呪いのハイブリット

魔法の使える覚醒者が使える魔法のひとつとして、呪いが加わった

「どうした?相手に呪術系統を使うやつはいないはずだが?」

「いやぁね?さっき敵の攻撃食らったでしょ?」

「あの瞬間に、呪術と同じ気配があったの」

呪術系統魔法には、少なからず呪いも含まれている

呪いには人の怨念が入っている

それは魔法でも同じのこと、魔法の技術と人を恨む気持ちさえあればほぼ誰でも使える

しかし……

「呪術には代償コストがかかる」

「安易に使う手札では無いぞ?」

「……もし仮にさ、代償コストを無視して呪術が使えたら?」

「……異能か」

「あくまで妄想の範囲だけどね」

異能系統魔法

個人に宿る特殊な力

待機中の魔素と人体内にある魔力が共鳴し合い発生する人の想像力の具現化

それを一律して異能系統魔法異能と呼ぶ

「呪術に長けた異能……ねぇ」

陽真はそう言って考え込むと任された任務に取り掛かる


「ふぅ、終わった」

陽真は与えられた任務を無事遂行すると一息

任務の内容は奪われた黒い物体、魔力感知式起爆機……爆弾だ

特定の魔力を流した物体は、半径15mの障害物を跡形もなく塵にすることが出来る

目的は不明

どこでこんなものを作ったのか不明、どう作ったかも不明

ただ分かることは悪意を持ってして生まれた産物であると言うこと

陽真はそんな悪意を取り除く手伝いをしている

「ツクヨミ、帰るぞ」

「おぉ!やっと終わった!」

「スマホ触っててよくいうな」

陽真の作業が終わるまでスマホを弄っていたツクヨミ

「スマホ触ってても暇なものは暇なの!」

「こちとらミスったら塵になるってのに」

「陽真なら防げるでしょ?」

「……はァ」

陽真は呆れたようにため息をつく

「まぁいい、回収して帰るぞ」

「わーい!ねーねー帰りに月見大福買って〜!」

「働かないニートに食わすデザートはない」

「ちぇー」



同時刻 立体駐車場から三kmほど離れた廃病院にて

「あーあ爆弾魔力感知識起爆機、解かれちゃったかー」

「だーからいざとなった時の遠隔操作システムも作ればよかったぢゃん!」

白のインナーを着た黒マントの男と、厚化粧にピアスを空けた金髪の女が何やら会話をしていた

「遠隔操作ねぇ

まだ実験してないから、今度試してみようかな?」

「えー?試すったってあと実験用の被検体マウスも少なくなって来たよ?」

「足りなくなったらまた足せばいいだけじゃないか」

「……それもそっか!」

「それに、あんたの異能ならすぐに集まるか」

「そーそ」

「俺の異能は便利だからねー」

「えーっと?なんだっけ?」

「確か……」

「憎悪を持つ人間を操作できる、呪術を使用する際に代償コストを無視出来る」

「だっけ?」

「おぉ、すっげえ覚えてる」

「ふっふーん!アタシの記憶力を舐めんじゃないよ!」

「そうだね、そー言えば君の記憶力に惹かれたんだった」

「ところで、あのけーかくってどーなってるの?」

「あぁ、あれかい?」

「それじゃ、そろそろ始めようかな」

死の道標ファナトゥスを」

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