ポーズ

猫又大統領

ポーズ

 ショーウィンドウの中には、普段の生活では絶対にするこのないポーズを決めた、何色ものペンキを一度にかけられたような半袖半ズボンの白いマネキン。こんなポーズをする奴がいるのかよ。

 そもそもこのマネキン、身に着けている半ズボンの値段だけで、俺の全身の総額よりも高い。布が少ないのに値段は高額。布を削った手間賃だとでもいうのか。

 ポッケの中で小銭をジャラリと遊ぶ。どうせに似合わない。こういう考え方は僻みか。

 ため息をついて、空を仰ぐ。

 悪態をついているうちに、余光が空を染めはじめていた。

 しばらく歩いて、人と通りが少ない道にでる。

 すぐそこには指示された年季の入った建物があった。

 店の頭上には店名の『三角』と大きく掲げられている。

 一軒の八百屋。

 店主と思わしき五十代後半くらいの男性は、今にも足が折れそうなスツールに腰かけ、目が合ってもニコリとも微笑まない。

 俺の足元から頭のてっぺんまでを値踏みするようにじっくりと見ている。

 息をのみ、俺は店先の青いプラスチックカゴに入った。見事に熟した3つのトマトを指さす。

「こ、これをひとつください……」

 男性は深く息をするとゆくっくりと立ち上がり、こちらに来た。

「さあ、どれを選ぶこの中にはとてもいいものがある」

「え、な、なら選んでもらえませんか俺には……全く分からなくて」

「そうかい、でも、いいのを選ぶことができたら残りのふたつをおまけでつけよう」

 思わず声が出た。ポッケに入っている小銭が全財産。子供が生まれ、育児に勤しむ妻のためにバースデーケーキを予約したので金欠だった。まさか、予約した日に支払う仕組みだったとは。ケーキのグレードを下げてくれとは、妻の喜ぶ顔が浮かんで俺には言えなかった。

 俺は答えた。

「正解だ。ここにあるものはすべてがいいものだがね」

 男はそういうと不敵に笑い、左腕は腰に当て、真っすぐに右腕を伸ばし、指はタンジェントの法則。

 これは。マネキンのポーズ。

 いるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ポーズ 猫又大統領 @arigatou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ