第5話 専属メイド?
「調子に乗りましたごめんなさいもう出しゃばりませんから許してください……」
「でも頑張ったから。スタートラインに立てて偉い偉い」
ベットの上で土下座してこの世の終わり感を漂わせている我が陰キャ魔王によしよしーって感じで頭と立派な角をなでなでしてあげた。
デートという名のパンドラの箱に詰めたミオのコミュ力上昇訓練はかくも儚く霧散してしまった。
綺麗にまとめたら霧散、実情をというと、完全に終わってる。
魔王って偉い存在で崇められており、顔とかは認知されているのは配下の数人や敵国のみ。
ゆえに一般人の振りしたら案外バレなかったり、平和に主人公、またはヒロインとデートしたりするのは小説や漫画の中だけ。
拉致られた私の顔までとっくに広がっているのは当たり前、親しげに話しかけて来たり、屋台の前を通ろうとすると“結婚祝いに何か送らせて欲しい”とやたら何かくれたり、サインをねだって来たりなどなど……
とにかくミオが国民に物凄く愛されているの一点に尽きる一日だった。
理想の王様って感じで微笑ましい場面もいくつかあったなぁ。
しかしそれはミオからしたら地獄絵図にすぎない。
私のエスコートで手一杯なはずが、サインしてとかこっちに魔法飛ばしてとかわけわからん注文にうちのもん食ってけばサービス扱いで金とらんからとにかく食ってけとか。
重すぎる愛(笑)に耐えられず出鼻くじかれ卒倒エンド。
で、また限界まで魔力絞って魔王城に連れてきたのがついさっきで、目を覚ました途端、高階層から転落しかけてそれから少しでも高いところに昇ると反射的に身震いしちゃうネコみたいにプルプルしているのである。
ちなみにだけど、私の魔力は直してもらった後で今はベットで横になっている。一日二回の人体搬送出前サービスなんてチーターではない私には荷が重すぎるわ。本当に。
「ごめんね……情けない陰キャ嫁で」
「脳がバグったか……」
キャパオーバーしてる陽の気配(ミオ目線)に脳がやられて私を彼女だと誤認しはじめている。
震えも収まんなくてベットギシギシ揺れてるし。
今日はダメかー。
一回寝てリセットしないとなかなか治らないか。
子守役の仕事ってかこつけてミオを連れ回すのは今度にしよっかな。
「ミオ。顔上げて」
「で、でも……」
「いいから」
まだおっもい上半身を起こしていまだ隣で電気マッサージ機のごとくプルプルし続けている魔王を強引に抱き上げて、顔を上げさせる。
結果はどうあれだ。
ミオなりに頑張ったし、少しぐらいなら飴を与えてやってもいいかな。
「頑張ってエラい。今日は一緒に寝てもいいよ?」
「それってセから始まる行為にやっと頷いてくださると……」
「調子乗んな頭手すり女、犯すぞ」
「初めては、その……強引なのはちょっとハードかも……」
「いやそこは胸に手寄せてガードしつつこう、悪くないかも?って内心思ってる自分に自分でドン引きするシーンでしょ!? 風情がないなぁもう!」
「そうそう、魔王様はメインヒロインにふさわしくありません。わたしにするのはいかがですかカナデ?」
声がする方へ視線を向ける。
自称・私の専属メイド、エオカが当たり前かのように私が持ち込んだ秘宝(そういうゲーム)を片手にアピールしていた。
メインを主張するかのごとく豊満な乳房を包むミニスカメイド服から伸びるスラっとした足首、小悪魔を浮かばせる顔面筋の崩れた笑顔が似合う可愛げがある顔立ち、燃え盛る炎のごとく真っ赤な瞳とそれを際立たせるサイドテールにした金髪。
まぁ、要するに翼はない悪魔だ。
急に現れたのも、気配を完全に遮断する彼女の特技を使われたからなのだろう。
魔法ではなく固有……なんだっけ? らしい。
すごいやつっぽいけど、私からしたらゲーム好きのバカしかない。
おまけに
「まぁ言いたいことはわかるけどね?」
「わかっちゃうんだ」
「常習的不法侵入はまずいよ? 訴えるよ?」
「拉致された側に人権がおありのお思いで?」
「あるからこうして快適な暮らしができるんでしょ。 それ使わないで普通に怖いから」
「堂々と入り浸ればいい……ってコト!?」
「ふざけたらもうゲーム貸してあげないよ? それ戻しといてまだやってないー」
「ちぇー」
しぶしぶといった様子で元あった場所に戻し、勢いのままミオを愛でている私の背中に突撃。
「んぁっ」
強めにハグ&ダイブしてきた。
「声、エロいですよ……このまま見せつけちゃいますか? わたしとの秘密のレ・ッ・ス・ン」
「人の女奪わないでよこの寝取り女。今はあたしの時間なの、もやっとするあたしにしびれを切らしたカナデの野蛮すぎる力技(性的な意味)に屈される美味しいとこだからあんたは休んでてよ。喘ぎ声綺麗にあげられなかったら殺すから」
「メンヘラ一歩手前、ご愁傷様です魔王様。妄想癖まで備わっちゃいましたか。毎日、業務時間と称してカナデに会ってるからって別に魔王様の恋人になったわけではありませんよ? むしろカナデのためを想い、毎日身の回りのお世話をしているわたしこそ正妻と言えるでしょう。 いい加減殺しますよ?」
「あんたは四天王の一人なのにいつカナデのメイドに転職したつもりなの?まだ承認どころか最初からアウトだから、むしろそれあたしがやりたいから」
「子守役させたのは魔王様ではありませんか? 我が儘が過ぎますよでしゃばらないでください殺しますよ?」
「二回言った! あーあ、陰キャでも魔王なのにそんなこと言っちゃうんだ?」
「散々罵声を浴びせられたことに比べれば二回殺されてもいいじゃありませんか。 ザコま・お・う・さ・ま?」
「よし。 月の物二度を来ないようにしてあげる。物理的に」
「今のセリフ、カナデにされてたら濡れてたって思うの無性に腹が立つんですよねー。 魔法回廊潰しますよ?」
「今日は漫画かな」
いがみ合う二人から離れるべくベットから抜け出して机近くの棚へ。
途中でめっちゃ不穏なワードが聞こえてた気がするけど無視だ無視。
睨み合い、殺意に満ちた言葉でけなし合うふたりは、傍から見ると一触即発に見えるものの、これも我が魔王城の日常のひとつでもある。
魔王城の雰囲気は、理想の家族みたいな職場……だと思っているってかそうでないと困る。
私がここに連れてこられたのも、子守役になったのも全部ミオ独断の判断ではあるけど、みんなが“それ採用”と合致した結果でもある。
基本、私はミオの子守(という名の補佐?)の肩書らしく、彼女の愚痴を聞いたり退屈だなぁと思った日は今日みたく強引に連れ出したりすることも仕事のひとつ。
ってか奨励されている。 主にミオによって。
しかしそこで、仕事が終わってからも今日みたいに一緒にいる時間が増えれば、仕事が終わり私と遊びたい子たちからしたらたまったもんじゃないらしい。
そこでどうしても口論に繋がってしまうのだ。
机に広げた百合漫画を読み進み、考える。
あ、これ結構エッチなやつだ。
正妻選定かこつけて三人で寝るのかー。主人公の本領が試されてるよ? 私だったらどっちも捨てるけど。
……じゃないな。現実逃避がすぎた。
こういう時は大体ろくでもない案が飛んできて、しぶしぶ飲み込むのまでがセオリーだ。
「「三人で寝よ(ましょう)?」」
「……へ?」
漫画みたいな展開キター!!!!!!!!
まさかエッチな意味の(寝る)ではないよね?
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