第4話 エスコート(笑)

「あばばばばば……」

「壊れた機械か?」

建物の隅っこにうずくまり、プルプルと震え始めたミオ。

「人、多いって、聞いて……ない」

「あのね魔王様? 城下街って私が勝手に読んでるけど一応、君の王国の深部だから人多いのは当然すぎるよ?」

「プルプルプルプル」

「即落ち二コマ漫画すぎて萎えるー」

さっきまでの威勢は何処へやら。

卑屈陰キャモードが発動してしまった。

デートに誘って二人きりの時間を設けたら絶対イキると踏まえた上で、それが原動力となりほんの少しでいいからこういう人の行き来が活発してる場に慣れて欲しいって気持ちで来てみたけど、早計が過ぎた。

おそらくどころか完全に裏目に出てる。

まぁ、魔王って仕事柄、人と接する機会は多いものの、そのほとんどが昔ながらの家族並みの知り合いor仕事仲間に偏りがちな上に知らない人がごった返している都会は地獄も当然なのだろう。

これだけ切り取ってみると完全に承知の上であえてこういうところに連れて来て辛そうにしているミオを見て楽しんでるいじめっ子にしか見えないけど、むしろ心配してるし呆れている。

呆れの方が強いか。

たかだかエスコートごときに要求がでかすぎるって思いやすいが、彼女にとってはそれぐらいハードルが高いからこそ要求の内容がとんでもないのだ。

ここで遠慮して城に連れ戻したりしたら当面はホッとするけど夜中またひとりで泣きながら私のベットで後悔の呪詛唱えが始まるだろう。

しゃーない。

未だプルプルしまくってる陰キャ魔王の前にしゃがみ込み頬を人差し指でつつきながら話しかける。

「ミオ」

「プルプルプルプル……」

「私はもっとミオと楽しいことがしたいと思ってるよ?」

「あた……あたし、も……。でも、人が多すぎて無理……」

「人見知り陰キャ魔王でごめんなさい……」

「さっきは『エスコートしたら襲う』ってイキってたのに?」

「うぐっ……」

「まあ、子守役(建前上)だけどこのままほっとくのは鬼すぎるし?」

「とりあえず見て回ろ? ダメそうなら私がエスコートしてあげるから」

俯いたまま未だプルプル震えてる彼女へ手を伸ばす。

まぁ、そうなるよねー。ってあっけない拍子でミオは私の手を握り返してきた。

「て、手、離したら、大声で泣いちゃうから」

「もう泣きそうな声してるのに?」

「察して、よ」

「私メンヘラは無理なんだよねー」

「いつもよりはヘラってないよ!? それにそれ聞いたらがんばるしかないじゃん、もうー!」

これが百合ものの漫画だったら繋いだ手に力がこもり、立ち上がっては感極まって抱きしめあうシーンの描写があるところなのだろう。

しかし予想の遥か斜め上を行く陰キャ様は魔法を使ったのか、気づいたら建物の隅っこから露店やらカフェや食堂を含む飲食店が立ち並ぶこの街が誇る有名観光名所へ飛んでいた。

「でたらめ魔法の使い先がこんなとこに飛ぶためか……」

こいつの魔法に意思がなくてよかったー。

万が一あったりしたら愚痴を聞く回数が少なくとも四倍以上は上がってた。

「便宜を図らっただけだから。雇い主の責任だよ」

「加害者は黙って」

のほほんとイキる彼女に義務的にツッコミを入れつつ、歩く手間が省けた分を楽しむため一歩踏み込もうとしたら繋いでる左手が軽く引っ張られる。

振り返ると言いたげな顔をして私を見つめていたので、ごくっと頭を縦に振ると彼女が口を開いた。

「が、頑張るから。今度こそエスコートしてみるから」

「はいはい」

「また滑ってプルプルしてたらその、お願い」

「りょー。その時はいつも通りにするし」

「まずはごはん!!」

「はいはい。お願いするね魔王様」

今度こそは、という言葉を小いさく唱えたミオが私の手を引っ張って宿命を果たすかごとくの勢いで屋台に向かうのだった……。

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