第3話 エスコート、成功したら……
「ついたー……」
「大丈夫? 長距離移動、お疲れ様だよ? はいこれ飲んで」
手のひらの上に水玉を浮かせたミオは、飲ませるためか魔力が枯渇しかけてる私の口元に近づかせてくる。
「ごく、ごく、んぐぐ」
「飲めて偉いよ? 魔力ザコなのにここまで運べられたのも偉いー。 こぼさずしっかり飲むんだよ?」
「んぐ、んんっ、んはぁ!」
「よしよし、全部飲めたの偉い」
一回り身長が大きい彼女によしよしされてるから、母親にあやされる子供になった気分。
知らんけどね。
「ありがとうミオ。 それとごめん、魔力がザコすぎて気ぃ使わせちゃって」
「ううん、いいよー。 やっとあたしも調子戻し、それに……」
「それに?」
「“魔力”はザコだけど“他の”はザコじゃないからいいんじゃない? 人間向き不向き、ひいてはなから合わないやつ一つや二つはあるんだから、謝ることないよ?」
「魔王のあたしがモノ言うのもおかしいかー」って隣で陰キャ芸を広げ始めたバカミオ。
姫様抱っこのまま城下町近くまで運ぶのは別段つらくもなんともない。
問題は飛んでくる際、魔法を発動し続けるしかないこと。
私の魔力量は“こっち”の世界でいう冒険者の半分足らずである。
異世界転生特典みんな大好きチート能力はもらったものの、そっち系みたく仰々しい魔力量があるかアナザークラスのバカみたいな固有魔法が使えるとかの脳筋系ではなかったため、こうして飛んでくるだけでへとへとである。
“飛ぶ”というワードだけ切り取ってみればまぁありえない使え方ではあるけど、魔王城からここまで十キロメートルにも満たさない短さ。
ザコ乙である。泣くぞ。
それに魔力量は薬物を含めた外部的なやつでは決して大きくはなれたいので、ガチで生まれ変われるしか方法がない。
「魔力量自体は拡大させられるけど、それやったらカナデの場合は死んじゃうから」
「わかってる、でも城から出るのがやっとってちょっとナイーブにもなるでしょ?」
「まぁまぁ。その分、あたしが世話してあげられるからラッキーだよ?」
「される側が偉そうに言うな」
「ひどっ!? これでも三食提供にお小遣いに広々でおしゃれな部屋に綺麗な服にあたしまでついてるんだよ? 偉そうに言える立場はしてるくないかなー」
「拉致、および魔界から出るの禁止された以外ではそうだけど、その二つだけで台無しどころか立場逆転だから」
「うぐっ」
「イキり陰キャ魔王w」
「もー!」
偉そうにしてる魔王(実際偉い)をいじりながら城下街に足並み揃えて歩いていく私。
口喧嘩してるっぽく見えるかも知れないし、はたから見たら事実そうだけど、どっちも笑顔を浮かばせたまま手を繋いで歩いている。
私たちの通常運転。
慈しむ気持ちがいつの間にか胸を占めつつあるその時、ミオが手にぎゅうっと力を込めてきた。
何か言いたいことがあるとき、私たちだけの合図である。
「ねぇ、カナデ」
「うん」
ゆっくり顔を声がする方へ。
「き、今日はあたしがエスコート、してみるからさ」
「うん」
「成功したら、その……」
「一日だけ! か、カナデをもらって、いいかな……?」
「っ……!」
「ちなみにきょ、拒否権は、認めないから、魔王命令、です……」
しどろもどろながらの、はっきりとした意思を伝えるミオから、目が離せない。
魔王命令なんてバカな言い訳をネタにする隙を与えないと言わんばかりに、いつの間にか魔法を発動させた彼女は、驚いている私の気持ちごと連れて城下街に飛ぶのだった……
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