第2話 婚前デート、ふけんぜん

コンコンコン。

「し、失礼しまふ」

「面接かよ!」

「……?」

「や、ないよね。わかるよ? わかるけど……」

扉を三回叩いてオープンした後、丁寧にお辞儀&挨拶をする。

これ自体はまぁ、ミオの陰の部分が暴走したときにちょくちょく起こる奇行なので慣れてはいる。

だがそれをやってる側の肩書が重い分、面白すぎて条件反射のごとく毎回ツッコミを入れてしまうのだ。

ギュー。

「うぉ!? どしたん?」

思考の海に飲み込まれそうになる寸前、気がつくとさっきまで扉の前で(何いうてんねん)とでも言いたそうにしてたミオが、いつの間にか私の目の前にいた。

というか抱きしめていた。ガチもんの至近距離である。

「……なんか言って」

「なにがー?」

「あたし、綺麗?」

確めるように、不安めいた声色を発する彼女を見上げる。

ミント色のミニスカ、白いシャツの上に羽織ったピンクのカーディガン。

彼女の明るめの角と艶のある黒髪にマッチした服装に、スラっと心の声が漏れてしまった。

「綺麗よりは可愛いかなー」

私より身長高いけど。ってつけてたら、たわわな胸を揉まれた。

「は?」

「うん?」

何してんのこいつ。

もう一度言う。 揉むのではない。

揉まれている。

私の心の声を読んで当てつけのつもりかって疑いかけたものの、違うねと心がステイをかけてきた。

理由は至極当然。

この世で得られし何にも代えがたい黄金の果実を手に入れたかのような顔をしているからだ。

「婚前のあたしにこういうことさせて、ふけんぜん。だよ」

「いやさせてねーよ、脳みそどうなったの?」

「半分枯れたから、コミュ力死んでるのかも」

「コミュ力死んでるやつが拉致なんてする?!」

「モラル。と、コミュ力はイコールじゃないよ?」

残念……と言いたげな目線で私を見るな、ブーメランで正論を投げるな。

拉致もまぁ、コミュ力がないとできないはずだ。 相手と向き合って運ばなきゃいけないし、モノを運ぶものでもない。

決断力がより活かされるとは思うけど、根本はコミュ力……かな?

まあ、うちの魔王様(笑)は陰キャだけどコミュ力はある。

本人が気づいてないだけだ。

「んっ、んふっ、んんっ。 ねえ、気持ちいい?」

「いやいい加減おっぱい離せ」

「ごほっ??!」

無理矢理引き離したらその場に崩れ落ちたミオ。

恨みがましい目つきで、それはまるで一触即発の臨場感を彼女から醸し出す。

今にも襲い掛かりそうな体制で彼女からの一言。

「誘ったのそっちじゃない……!」

「エッチには誘ってない!」

「暇つぶし(将来込み)に付き合ってって言ったじゃない! あなたが欲しいってあたし気づいたもん!!」

「デートに付き合ってってことでしょ? 何その意味深な暇つぶしの解し方!?」

「だから婚前デートってつまりあたしとベットで過ごしてあなただけの女になりますの意じゃない!? 魔界では常識だよ?」

「いつから備わったそのメルヘン常識!? え、私聞いてないけど? 新手の人族イジメ!? 明日、妖精と出会えたりする?!」

「陽性には……させたいかも♡」

「脳が垂れてるよ? 気をつけよ?」

「それ失った陽気!」

ツッコミのつもりで入れた回転蹴りを華麗に躱したミオは、とにかく! と言わんばかりの態度のままハグしてきた。

どこか艶のある声色をした彼女の声。

「あたしを誘ったんだから、その意味、わかるよねぇ……?」

「まぁ、ね……。 でもね……」

「私は普通に、デートに誘っただけなの。 陰キャ盛り魔王様のエッチな意味ではなくて、普通の」

「外で遊ぶやつ!」

「それはダメ!!!!」

「えっ……」

「今日は陽気が切れてるから……嬉しいけど本当無理なの……」

悲痛な声が私の部屋にこだました。

儚くて、今にも折れそうな。 いや、今にも樹海の朝露のごとくすぐにでも消えてなくなりそうな、そんな声。

そっか。

だから婚前デートがどうか言ってたのか。

だから私が押し倒される寸前になってたのか。

「ううん、あわよくばこのまま既成事実を作れるかな?って狙ったけど?」

『ほんと純情~』と付け加えては私の身体をさすさすし始めたミオ。

このアマ……。

ガシッ。

「え、っと……?」

「今日のデート、城下都市に決定♫」

「メ、メスガキムーブ、ごめんなさいでした……」

だから……と、懇願しようとする彼女を無理矢理引き付けてはお姫様抱っこに体制強制変更。

「魔王ごときがデートを語るとは。 身の程をわきまえさせてやる」

「陰キャと魔王の字、入れ替わってるよ!? 降ろして! 許して!」

「楽しいデートの時間だー!」

「助けて―――――!!」

体当たりで窓を破る一昔前の怪盗の真似がしたかったものの、見事心を読まれたミオの魔法により透明化されたため叶わずじまい。

そんな私たちらしい騒々しさを出した何回目かわからないわからせ(陰キャ魔王とデート)が今、幕をあけた。



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