第6話 似て非なる日常
「「三人で寝よ(ましょう)?」」
死ぬ前に言われてみたい憧れのセリフ№1男子部門をまさか女である私が享受することになるとは……。
長生きしてみないと人生わかんないーみたいなやつを前世では色んな人々が口にしてたのがふと脳裏によぎる。
要は“何が起こるかわかんないのが人生”が伝えたいんだろうなーだから何?ってひねくれた聞き方しかしてなかったけど、それを今、目の当たりにしてほんの少しはわかった気になったりなかったり。
……って言ったけどまだわからんすぎるね。 うん、転生してもわかんないやつはわかんないー。
「ちゃっちゃと夕飯食べて、寝室に移りましょう」というエオカの提案にしぶしぶ従う私とは違いミオは「それ採用」を全身で披露してた。
いつもは一秒でも長く私といたいからーって抜かしつつ箸を動かすスピードがものすごく遅いミオが、今日はもう吸引したか?ぐらいのスピードでたいらげていた。
風呂は今日はなしという暗黙の了承がすでに下っているかの如くエオカの魔法で綺麗にしてもらい、ベットが一番デカい私の部屋へ。
「……私ね、どうしても納得できないやつがあるの」
「説明まで三日三晩、激しい聖戦(エッチな意味)の末、性力(ちから)で四天王を名乗るエオカをねじ伏せ、口を割らせたのが四日後の朝焼けが差し込む頃になるなんて、この時の彼女が知る余地もないのは無理もない話であろう……」
「いらんナレーション入れないの! それにどちらかというとやられる側は私でしょ」
「四天王から始め魔王までをもエッチで制覇して新たな魔王に私はなる!って展開は好みではありませんか?」
「チートありの成り上がりもまぁ嫌いではないけどね。 力でならたぎる何かがあるけどエッチな意味でってなんか複雑なんだよね」
「……無限に再生する初めてって、ぐっとくるんですよ。カナデ」
「うげぇ……」
「あたしもそれはちょっと、そそるかも……」
「痛いって毎回毎回、涙を流しながらも返ってそれがいつの間にか癖になる……」
「「ありなのでは!?」
「アウトだよ! めっちゃ黒だし、そんな変態すぎる主人公エロゲーでもアウト!」
身の危険すごい感じるんだけど!?
変態しかないのか魔界には!? 一昔前のエロゲーでも見かけてないよそんな頭イかれた設定はね!
しかもこいつらぜーったい私で試す気だ、金髪陽キャヒロインのイケない扉開くシーンがどうしてもみたいとか言って私の情緒めちゃくちゃにしようとしてない?
そりゃまぁ、魔界にポンと連れ込まれた時からいつかはヤられるだろうなって覚悟はあったんだけど、なんならくっころの練習もしてたまではあるけど。
エンドレスバージン破りなんて聞いてない。 いつの間にか癖になって逆に食い散らかして成り上がるって発想なんてなおさらドン引き案件だ。
「ミオみたいに隅っこでプルプル震えたくなった……」
「あたしの上でなら……いいよ?」
「何もしないよね?」
「あたし陰キャだから多分きっと絶対大丈夫……だよ?」
「死ね色情魔王、泣かされにいくかー!」
「あくまで泣かされるのはこっちとおっしゃりたいのですね。 魔王様の前ってちょっと恥ずかしいのですが……」
「言ってない! も、私のせいだ。 こいつら脳がイカれちゃったの私の……」
そして顔面を覆い、シクシク泣くふりを始める私。
私とミオとエオカ。
三人でいる時、下ネタが飛び交うやばいノリがいつの間にか私たちの間では当たり前になった。
実現されるんじゃないかってたまに怖くなるけど幸い二人とも純愛系かハーレム系しか読まないから比較的安全……かな?
「本音が漏れちゃった。 んで? どうしたのカナデ」
「せめて冗談って言って欲しかった」
安全なんてありませんでした。
「うーん」
「また忘れたんですか?」
「ええ。 どっかの誰かさんたちのおかげで脳みそエンドレス再生しか浮かべなくなったわ」
「カナデがお嬢様口調……」
「妙に様になってる……」
「でしょ?」
一時期お嬢様って存在に憧れて口調から仕草まで必死で練習してた時期がある。
声のアクセントにまで気を使ってたっけ。
「思い出した!」
「なんでしょ!」
「なに!?」
両サイドから手をワキワキさせつつぐいっと顔を押し付けてくる二人を押し返し、疑問を声に乗せる。
「どうして拉致られた私のベットが一番デカいかって聞きたかった!」
「好き……だから?」
「魔王様の気持ち……ですね」
はいそうですかーって終わってたまるか!
いつの間にか獲物は絶対逃がさんと言わんばかりに両脇を掴まれていたことに気づく。
今まで幾度も夜を共に過ごしたから安全ってことくらい頭どころか身体が理解しているものの、先ほどのワードが強烈すぎたせいか初めて女性に触れる初心な男子主人公みたいにビクッとしてしまう。
とにかく話の軌道修正だ。
絶対すぐズレるに決まっているから、己のくっだんねー好奇心くらいは満たさせてもらいたい。
「や、違くて。 一応、私って拉致られた身でしょ? 理由はまぁ納得いくってしてもさ」
「拉致られた側の部屋があたしやその側近の部屋より広いのと、毎回あたしではなくカナデの部屋にお邪魔するのがおかしい。 といったところかな?」
「正解。 いくら一目惚れで拉致したって言ってもおかしいなぁって思うのは普通でしょ?」
「そこはまぁ、わかります。 なんか裏があるんじゃって勘ぐっちゃうのも無理はないでしょうけど……」
「ねぇ……」
エオカの補足に相槌を打ちながらも、困り顔でうねり始めたミオ。
その顔はいたずらのつもりで人のものを隠してたのがバレた顔ではなく、なにもしてないのに“お前が隠したろ”と断定された時の顔に近い。
要するにどう説明したら届くか悩む顔をしている。
こうして真剣に悩むミオと傍で神妙な顔つきで補足案を巡らせているっぽいエオカは魔王と幹部の雰囲気っていうかオーラみたいなのが溢れ出ているのでかなり気に入っている。というか好きだ。
「妙なところでフェチあるもんね。カナデは」
「……心読むんじゃない」
「それだけ通じ合えてるってことだね? もうじゅ、熟年夫婦になっちゃった?」
「正妻は狙ってませんけどわたしの方が普段“サポート”していますので、魔王様より通じ合ってる自身はあります」
「それもう“熟年夫婦はわたし”って言ってない? クーデターは殺すよ?」
「やだやだ。こういう権力を振りかざすような物言い、独裁者の鏡みたいなものですよ? わたしは優しいので動けない程度にさせていただきます。 そして魔王様の前でカナデと……うふふっ」
「それこそ死刑罪!! 脳が、想像しただけで脳が……!」
「え、変態魔王様最悪ぅー」
「モラハラだ! 上司に向かってモラハラでマウントとってあたしから奪おうとしてる! エロ漫画で見た!」
「どこで間違えた……」
天井を仰いで横になってる私の両サイドでまたギャーギャーとミオとエオカがまた騒ぎ始めた。
混じっていつものバカ乗りに混ざろうかなとも思ったけど、今だけはやめておこう。
NTRが少しでも含まれる会話に混ざりたくない。うっ、トラウマ……。
両サイドから響く喧騒をASMR代わりにすることに。
瞼をそっと閉じると待ってましたと言わんばかりに睡魔が押し寄せて……。
「カナデ! あしたもで、で、デート。 しよ? 明日はもっと、頑張るから……」
「カナデ。 仕事しかできず魔界をホワイトすぎる世界に変えたことくらい能のない魔王様よりわたしとお出かけしてください。 ケルベロスカフェ、一緒に行こうって言ってたじゃないですか」
「あ、あたしは、この前言ってた最上位魔法教えてあげるから、裏庭行こう……?」
「カナデは魔法があまり使えないのに何を……は!? まさか性魔法……」
?」
「こう見えても王様なの。 それぐらいのふ、分別がつかないと……」
「拉致犯のスピーチ、痛み入ります」
「きょ、共犯者のくせに」
「……正論パンチ反対します」
加害者どもの醜い泥沼が始まったか……。
「死んでも寝かさない体で起こさないでよ。マジ眠い、明日はいつも通り、以上」
「そんな……」と、残念気な声が両サイドから。
まぁラブコメみたいなセリフが飛んできて、いつもとは少し違う夜が過ごすことができた。
明日もきっと、いつも通りを装った一味違う日常が楽しめるんだろう。
おやすみ……と心の中で呟いて意識を手放そうとした刹那に先ほど質問の返事が送られてきた。
まだ私にはわかりそうにない感情だけど、それでも心地よく感じ取った私はきっと微笑みを浮かべていただろう。
そして私は睡魔に身を任せ、意識を手放した。
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