第23話:まだ足止める時間じゃない
全員で丸一日を費やし、魔物を何とか大小合わせて二十体捕獲することに成功した。後半は魔物を見つけることすら困難だったので残り時間を考えるとそろそろ限界だろう。
くたくたになった私たちは食事をとり、眠りに着こうとした――その瞬間。
「ねぇ。そういえば、ワイバーンて夜目利くのかな?」
ぺリラがとんでもないことを言い出した。
「……確かに。もし夜寝てるんやったら、その時間に通ったら簡単に行けるな」
「……盲点でした。確かにわざわざ昼間に行く必要はないですよね」
疲れてはいるが、今広場を安全に横断できるのであればその方が良い。私たちは、捕獲した歩きキノコを一体連れて、ワイバーンのいた広場へと向かう。
通路から見てみると、昼間とは全く違う雰囲気だ。月明かりが降り注ぎ、神秘的とさえいえる光景。夜目が利かないと行動はし辛いだろうが、少なくとも空を見る限りワイバーンの姿は見られない。
「……念のため、ね。――よし行けっ」
私達は捕まえてきた歩きキノコを広場に放った。これで特に何事も起こらなければ、このまま夜間に突破するのが良さそうだ。てくてくと自由を満喫するように歩くキノコ。空中には何もいない。これは――もしかしたら素晴らしい攻略法を見つけたかもしれない。そう、思った時のこと。
歩きキノコの姿が、掻き消えた。
「――え?」
何だろう。空を見上げていたし夜目はあまり効かないのでよくわからない。
「――ヤバい。ここから離れよう」
ぺリラは私たちの服を引っ張り撤退しようとする。……? どうしたんだろう。
「なんや。なんかおったか?」
「――蛇。めっっっちゃでかい」
「え? そんなに、ですか?」
私の視力だと良くわからない。何か動いているような気もするけど……。
「真っ黒い鱗だからいまいち見えないけど、たぶん太さだけでミレットくらいあるよーたぶんこっちに気づいてる。早く逃げよう」
ぺリラの言葉に思わず絶句する。なるほど……そう簡単に突破はさせない、ということなんだろう。おそらくは一階で言うバジリスクと同じ『戦わなくても良い魔物』のカテゴリだ。
「よし撤退! 寝て明日頑張ろう!」
とりあえず夜間の突破が不可能なことが分かっただけでも収穫だ。夜にこの大蛇が出てきてしまうのであれば、万一にでも接触しないよう、早めにこの広場を越えたほうが良い。
◆◇◆◇◆◇
気を取り直して翌日。完調とは言い難いがひとまず睡眠はしっかりとった。朝の食事をとりつつ、作戦を練る。
「獲物を巣に持って帰ったワイバーンが戻ってきちゃったらこの作戦は終了だから……さっさと突破したいよね。ルートはどうしようか」
「中央突破……はさすがに狙われるっしょ。壁際かなぁ。葉っぱとか枝とかで身体隠して、少しでも目立たないようにしたほうがいいねー」
「まどろっこしいけどしゃあないか……」
「どのくらいの速度で進みます?」
「急いだほうがいいと思う。獲物がいなくなったら見つかるリスク上がるし」
「そだねー。基本は走る。警戒されてたらなんとなく視線でわかるだろうから、アタシの方でその辺は調整するよ。先頭で進むからついてきて」
「了解。じゃあ枝とか葉っぱとかで身を隠す準備ができたら、行きますか……!」
いよいよだ。心臓がキュッと痛む。……大丈夫。何があっても、何とかしよう。
私たちは毛布に葉っぱや枝を大量に括りつけた。これを被って進めば、少なくとも視認はされづらくなったはず。
「じゃあまずは、猪と鹿を放とうか」
小物だと気づかれない可能性があるので、まずは大きめの魔物から。意図的に傷をつけ、血の匂いを撒いておく。
加えて意味があるかはわからないが、追い立てるようにゴーレムを数体走らせた。――さぁ、反応はどうかな……?
拘束を解かれた猪と鹿は、通路を抜け、広場を疾走する。それを追う形でゴーレムも走る。しばらくは、何の反応もなかったが、猪が広場の半分程度まで走り抜けた辺りで、上空に大きな影が現れた。
「――来た」
現れたワイバーンは凄まじい速度で効果すると、大イノシシを両足で掴み、そのまま空中へと飛び上がる。さすがに重いらしくフラフラしていたがおそらく巣があると思われる方向へ消えていった。鹿を狙ってか複数のワイバーンが続々と姿を現している。よし、このままどんどん放とう。
歩きキノコ、大ネズミ、オオトカゲ、大兎、大ガエル……。多様な魔物たちを一気に平原に放ち、ゴーレムに追い立てさせる。魔物たちはばらばらと様々な方向へ逃げていった。ワイバーンたちはその様子を上空から眺め、何匹かは降下姿勢に入っている。
「よし、行くよ!」
私たちはその期に乗じて、草木だらけの毛布をかぶり、広場の壁際を駆ける。今ワイバーンは完全に獲物に夢中なので、このタイミングで一気に進み、出口となる通路まで辿り着きたいところだ。
毛布をかぶっているので上の様子は良く見えない。ぺリラは様子を伺いつつも先頭を走っているので、完全に警戒は彼女任せだ。横目で見ると、放った魔物たちはどんどんと運ばれて行っているし、追い立て役のゴーレムは無残に破壊されていた。……ペースが速い。魔物はもうほとんど残っていない。でも、ということはワイバーンも皆巣に戻っているということ。
着実に私たちは歩を進める。もう少し。もう少しで通路に届く。
――その時。響いたのは、巨大な遠吠え。
思わず上を見上げると、明らかに他のワイバーンよりも巨大な飛竜。ソレが、明らかにこちらを見ていた。――まずい。アレは明らかに私たちを狙ってる。他の奴らとは違う、明確に侵入者を排除する役割を与えられた一体――!
「気づかれた! 全員走って!」
私たちは毛布を捨て、出口に全力疾走する。それを追うように飛竜は急降下してくる。まずい、通路を塞ぐつもりだ。戦って勝てるかもわからないし、その時間に他のワイバーンたちが戻ってきてしまう可能性がある。一か八か、戦うか? いや――それよりは。
「カエデ、ミレット、ぺリラ! 私が気を引くから走り抜けて!」
「はぁ!? そしたらセンセだけ抜けられんやろ!」
「大丈夫! 私には切り札がある! 呪いを防ぐ腕輪を、S級冒険者のアルメリアさんが作ってくれた! だから、大丈夫! とにかく行って! 時間ない! 大丈夫、必ず、また会える!」
正直、何の説明にもなっていないとは思う。でもここは押し通す。
「嘘ついたら許さんからな!」
三人が走る。飛竜が迫る。私は足を止め、魔術式を練った。
「――行かせない! 爆ぜろー!!!!!」
――大爆発。私の全力の魔力を込めた一撃が、高速で迫る飛竜を直撃した。さすがに怯んだか、飛竜は落下を止め、その場で私の方を睨む。その隙に三人は通路へと入っていった。私も続こうとするが――さすがにそれは阻まれた。落下してきた飛竜は私を巨大な足で掴むと、一気に空中へと戻っていく。通路から、心配そうにから顔を出す三人の姿が見えた。
「先へ進んで、糸玉を確保して! 必ず!」
私は大声で叫ぶ。少女たちが止まらぬように。強く掴まれて一気に空中に連れて行かれたせいで、私の意識は暗転した。――みんな、頼んだよ。
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