第22話:決めた今日の獲物はキミ

 そして翌日出発前。普段は馬車乗り場に集合だったが、今朝は三人を宿まで迎えに来てみた。


「や、おはよ。眠れた?」


 三人が頷く様子を見る。……まぁ、当たり前だけど完調、という感じではないよね。たぶん、色々と想いはあるだろう。うなされたり、夜中目を覚ましたりしたかもしれない。でも、誰も何も言わなかった。


「そか。ちょっとさ、行く前にさ、少しだけ、お願い。そこ三人並んで。そうそう。あ、そうだ宿の人にお願いしないとならないんだ。ちょっと待ってて」


 宿の方を強引に連れてきて、カメラのシャッターを押してもらう。四人の並んだ写真。カメラを向けられた経験がないらしく、三人は不思議そうな、ぎこちない顔をしていた。まぁ、魔導具だから中々その辺には流通してないしね。


 何枚か自分たちで追加撮影した後、私は魔導具屋にカメラを預け、現像をお願いした。――万が一、私たちが取りに来なかったら、カイルさんに渡すように依頼して。


「さて、行こうか」


 私たちは、町を出て、馬車に乗り込む。みんな、口数は少ない。色々思うことがあるのだろう。――最後に、小さくなっていく街の様子を目に焼き付けた。


◆◇◆◇◆◇


 道中の馬車でワイバーンとの戦闘に向けた作戦の概要を説明する。


「なるほど。囮やね」


「確かに……魔物同士は別に友好関係ではないんですもんね。あの広場に魔物を放って、その隙に走り抜ければ……」


「作戦としてはいけそうだけど……そんなに魔物捕まる? 結構大変だと思うよ」


 うん。ぺリラの考えは正しい。たぶん……今回は時間ぎりぎりまで、魔物を捕獲することになるだろう。


「とりあえず見つけたのは片っ端から捕まえたいね……できれば檻とか柵を準備したいところだけど……」


「木ぃ切って準備するんでもええけど……そんな時間あるか? 魔物相手やとちゃんと作らんと突破されてまうで」


 カエデの言う通りだ。簡素な柵を用意することはできても壊されてしまう用なら意味はない。


「ウチらも獲物を生け捕りにする経験はあるけどーうーん。手足縛るとか、気絶させるとか、動けないようにするとか方法はあるけどねー。今回は元気な状態にしておかないとならないじゃん。ワイバーンから逃げてもらいたいわけだし」


 そう。縛っておくくらいならまぁ良いのだが、怪我をさせてしまうとワイバーンの気を引けるほど元気に動いてくれない可能性もある。


「そうですよね……冒険者向けの依頼で、魔物の生け捕りを頼まれることはないんですか?」


「調査とか飼育用の捕獲が似たような感じだよね。そういう場合は……魔術とか薬で眠らせるとか、弱い雷の術で麻痺させるとか、罠で捕獲してそのまま檻に入れて運ぶとか、かなぁ」


 魔術で眠らせるとなると実はかなり高度なものになる。それに特化した魔術師か、精霊の力を借りるなどしないと私には難しい。今の私にできるのは弱い雷を使った麻痺になるだろう。魔力の消費は激しそうだけど。


「ワイバーンの広場の一つ前の部屋に、魔物を貯めておく場所を造って、そこに集めるのが良さそうだね……柵とか檻をどうするかは考えないとな……もし捕まえても逃げられたら意味がないし」


「通路を柵で遮っとけばええんちゃう。部屋自体を檻と見立てれば柵の強度だけ気にすりゃええやろ」


「うーん……部屋、と言っても実質広場なんですよね……。天井もないし、周囲も木々に覆われてるから人の出入りは難しいですが、魔物が通ること自体は不可能ではない気がします」


「ウチでもやろうとすりゃ通路以外から抜けられるからねぇ。ワイバーンのとこは単なる木の壁だけじゃなくて、結界みたいになってるから出入り不可だけど他の部屋は別に抜けられると思う」


 うーん。やっぱり檻が必要か……。まぁでも、それは後で考えよう。


「はい、そろそろ着くよ。そのことはいったん後で考えよう。まずは……蟷螂の通路を突破しないとね。ルートを抑えた上じゃないと、魔物を捕獲しても意味ないから」


 そして、そもそも蟷螂にやられる可能性だって十分にあるのだ。……私はためらわず、前回と同じ作戦を使うつもりではあるけれど。


「……せやな。まずは、目の前のことから、か」


「はい。……ここからは、ミス一つが命取りですもんね」


「蟷螂の気配はたぶんわかるようになったから、前よりは楽に突破できると思うよー」

 

 ぺリラの言葉が心強い。まずは、ワイバーンの部屋まで辿り着くところからだ。


◆◇◆◇◆◇


 結論から言うと、私の手足を切断して餌にするという地獄のような作戦は必要なかった。ぺリラが蟷螂の気配を察知できるようになっていたので、そこを一匹ずつ釣りだし、仕留めていったのだ。蟷螂は凄まじい攻撃力と速度を誇るが、同時に虫であり、臨機応変な対応はできない。行動パターンと位置を把握さえできれば対応自体は難しくなかった。


 それ以外の魔物はあえて倒さず、先頭になっても気絶させ、ロープで手足を縛るに留めた。歩きキノコや大ネズミのような小型の魔物は捕獲したうえで運搬している。


 そして――無事、ワイバーン手前の部屋まで到達した。


「ワイバーン広場までの通路の安全確保もかんりょー。あとは魔物をここに放てば勝手に広場に行ってくれるはず」


「今捕まえたのは歩きキノコが一体に大ネズミが二体。……全然足らんな。パッと見た感じ十五から二十はおった」


「そもそもこのサイズの魔物、放ったところでワイバーンが狙ってくれるんでしょうか……」


「途中に転がしてあるイノシシと鹿、回収しないとねー」


 大物はとりあえず縛って放置してあるのだ。……連れてくるの大変だな。


「あ、そうそう、檻なんだけど。アタシ、天才的な案を思いついたからセンセに相談したいんだ」


 ぺリラが手を上げている。尻尾がピン、と立っているからたぶん機嫌がいいんだろうな。なんだろ。


「ん? なになに?」


「センセ、穴、掘るの得意?」


「……穴?」


◆◇◆◇◆◇


「とりあえず、こんなもんかなー」


 私は魔術を用いて、広場に二十ほどの深い穴を造っていた。ここに、獲物を放り込むのだ。


「猪とかは穴掘り得意だから、穴の中は固めたほうが良いかもねー」


「おっけ。そのくらいならできる。しかし、なんというか発想の転換だねー。檻を造る、じゃなくて、穴を掘ってそれを檻にすればいいのか」


 ぺリラの案はシンプルだが、効率的だった。最初私は魔力で檻を造ることも考えていたが、維持が大変だし非効率だ。彼女の発想力にはいつも驚かされる。


「飛びそうなやつおったら蓋作ったほうが良さそうやけど、まぁそんな大変とちゃうな」


「周りが土なら、激突して体を傷つけたりすることもなさそうですし。長時間だとストレスは心配ですが、まぁ一日くらいなら、大丈夫でしょう」


 カエデとミレットも太鼓判の作戦だ。――あとは、捕獲さえうまくいけば、突破の目はある。


 すっかり暗くなった空を見上げながら、私たちは前と同じように交代で眠りにつく。うん。大丈夫。みんなも冷静だし、良い感じだ。このまま――ワイバーンの広場を、突破してやろう。



 





 


 

 




 

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