第9話:コンボ炸裂 目指すはサクセス
「なんやあの牛ー!!!!」
目を覚ますとカエデが怒っていた。……まぁ、真っ二つだしなぁ。
「どうどう……あ、お二人も目覚めましたね」
ミレット、さすがに牛扱いはやめてあげて。
「マジあり得ないんだけど! あのトカゲ! なんなん!?」
あ、ぺリラもキレてる。……まぁ、わかる。まさかの厄介モンスター共演だもんな……アレはないよ。
「あれ? 私が心臓串刺しになった後、何かあったんです?」
壮絶な死の様子をサラっと語るミレット。この子もどっか壊れてるな。
「私たちが一旦部屋から逃げようとしたら……バジリスクが来てね」
「ええ……ボス戦にも乱入してくるんですか……」
「そー! 油断してたクッソー! ……まぁでも、魔物同士は別に仲良しではなさそうだったねー。私たちが石化した後、争ってたっぽいし」
私もそう記憶している。あの後どうなったんだろう。……というか、ダンジョンってどうやってリセットされてるんだ……? あれでミノタウロス負けたらボスがいなくなるのでは? うーん……謎は尽きない。
「腹立つけどしゃあない、戻るか……ミレットから聞いたけど、あの牛、手ぇ使って四つ足で走ってきたらしいやん? 片足潰したくらいじゃあかんなぁ……斧投げもされるし、作戦練らんとあかん」
カエデの言うとおりだ。思った以上に行動パターンが多彩だった。
「とりあえずご飯食べながら、相談しようか……ついでにまたなんか情報ないか、冒険者協会に聞いてみるよ」
「お願いします、私たちは先に宿行ってますね」
「あームカつくー! なんか好きなもの買ってから宿行こう!」
「ええな。新鮮な魚とワサビ探すわ」
結構悲惨な死にざまではあったけど、ひとまず三人が元気そうでよかった。――次こそ、勝つ手立てを考えなくては。
◆◇◆◇◆◇
「ただいまー。女将、今日もやってる?」
私は軽口を叩きながら宿に入り、ミレット、ぺリラが待つ席へと向かう。
「おいでやすー。新鮮なお刺身入っとるよ。ワサビも買うて来てん。試してみ」
カエデがエプロンを身に着け、お皿を持って席へとやってきた。独特な言い回しだが、私のノリに対応してくれたのは分かる。
「へぇ、どれどれ。あ、なんか小鉢もある」
「酢の物やね。脂身多めの魚やからさっぱりするようにな」
カエデ、すごいな。本当に女将さんみたいだ。――宿の主人もちゃっかり準備してもらっているらしく、カウンターで刺身を片手に酒を飲んでいた。……他に客が少ないとはいえ、いいんだろうか、アレ。
「すごいですね……カエデさん、料理うまいし、一見狂暴ですが所作もなんというか、柔らかいというか、すごく女性的ですよね。そういうの、習ったりしていたんですか?」
ミレットはこっそり口が悪いな。
「しばくで。……まぁ、別に隠すことでもないか。ウチはな、生まれたときから嫁ぎ先が決まっとって、そのために色々と覚えさせられたんや。料理とか、舞踊とか、お茶とか――いわゆる花嫁修業やな。全然やりたくなかったんやけど、早く終わらせればその分剣術に時間を使えたから、結構頑張っとった。……最終的には剣辞めろって言われて大喧嘩して……まぁ、色々あって追っ手を斬って逃げてきてしもたんやけどな」
「へぇー。剣術が好きだし、腕も立つのに、剣で生きていくのは許してもらえなかったの?」
ぺリラの質問にカエデは顔を顰める。
「ウチのいた辺りは何ちゅうか……男が仕事、女は家庭、みたいな感じなんよな。ましてや剣なんて以ての外、っちゅう考えが強かった。――もう少し、うまく立ち回れんかったかなぁと思うときもあるけど、でも、後悔はしとらん。せやから、頑張って働いて剣で生きていけるようならなあかんのや」
カエデの過去。詳細は端折られてるけど、実際はもっと厳しい状況だったし、人を斬ったというのも、そんなに簡単な決断ではなかったはずだ。
「カエデさんも、色々あったんですね……」
ミレットは思いのほか深刻に受け止めているようだ。むしろ、自分と重ねているのかもしれない。きっと彼女にも、過去がある。――出会ってから、一度も外したことのない、頭巾の下と関係のある、何かが。
「せやね。でもそれはみんなも同じやろ? センセも前に話してくれたしな、昔のこと。……まぁ、辛気臭い話はここらにして、さっさと食事にしよや」
確かに。せっかくのお刺身が乾いてしまう。気を取り直すように、私たちはお刺身と、緑色の不思議な調味料に舌鼓を打った。――いや、ワサビに関しては舌に針を刺されたような感覚だったけれど。
◆◇◆◇◆◇
翌日、私たちは再びダンジョンを訪れていた。残念ながら冒険者協会にはあまり役に立つ情報はなく、ボスを倒して二階に降りると地上に戻ることができる、という倒した後の話だけが新情報だった。まぁ、とはいえボロボロでもなんでも、倒せば戻れる、ということが知れたのはありがたい。
仕方がないので今まで手に入れた情報を元に、どうしたらミノタウロスを倒せるか、を真剣に議論した。不確定要素はできるだけ排除し、可能性が高い攻略法を模索する。――最終的には、失敗してもまたやり直せばいい、という意識が生まれるので、ある意味議論は柔軟だし、リスクを取ることも検討できた。命のかかった状況下であれば、なかなか一か八かの作戦は取りづらいものだ。
「バジリスク、こっちにはいないよー」
前回同様ぺリラの指示に従いながら、一階を攻略し、レベルを上げていく。バジリスクが近づいてきたら逃走する、ということを前提に、ギリギリまでレベルを上げ、装備品やアイテムを手に入れることを目指した。できればカエデの刀の代替品が欲しかったが、今のところ残念ながら手に入っていない。
「……先生、あれを……」
レベルが4を超え、順調に進んでいるとき、とある部屋でミレットが何か落ちているものを示す。それは――。
「ゴブリンの、石像……の破片、かな」
手、足、顔の一部、など、恐ろしく精巧な石の欠片が落ちていた。――バジリスクだろう。
「んー……ボスだけじゃなく、こういう雑魚敵も石化させて食べちゃうんだね。本当に、仲間、ってわけじゃないのか。ま、そりゃそうか。――同じ場所に住んでいるだけで、同族ですらないもんね」
ぺリラの声が固い。思わず声を掛けた。
「ぺリラ、大丈夫?」
「あー、うん。ごめんごめん。……アタシはさ、前にも言ったかもだけど、同じ種族だけど見た目が違うからって、仲良くしてもらえなかったんだよね。――だからさ、異種族なら、当然だよね、って思って」
彼女の過去の話か。ぺリラは、確かに獣人としては珍しいくらい、人に近い。見た目で獣人とわかるのは耳と尾、それと目くらいなので、人間の仮装と言われたら信じてしまうくらいだ。……だからこそ、獣人の住む集落では、うまく溶け込めなかったのだろう。
「……そう、ですよね。異種族は、仲間になれない、それが、当たり前……」
ミレットも何か思うところがあるらしい。――きっと、彼女の過去に関わる内容なんだろう。
「――あの――」
ミレットが口を開こうとしたとき、部屋の外、通路の先の様子を伺っていたぺリラが手を上げた。
「――みんな、たぶん次が、ボスの部屋だと思う」
緊張が走る。ここからは時間との戦いだ。……ミレットの話は、また後で聞くことにしよう。
「ごめんミレット、話はあとにしよう。――さぁ、作戦開始だ」
「任せとき」
「……はい、大丈夫です!」
「ふぅー……緊張するー!」
三者三様のリアクション。最初は不安だったけど、今はそれが心地よい。
「よし、じゃあ行こう。ミノタウロス退治だ!」
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