第61話 妖精たちの尋問

 目が覚めると、身体の自由が効かなくなっていた。

 両手首にローブが巻かれていて足がプラーンと浮かんでいるのを見ると、どうやら宙吊りにされているらしい。

「おっ、目が覚めたみたいだぞ!」

 どこから声が聞こえてきたので、辺りを見渡してみると、そこには蝶みたいな羽根を持った小人が飛んでいた。

 全部で五体いて、羽や髪の色はオレンジ、黄色、青、紫とアイドルグループの色合いを彷彿とさせた。

「あなた達は誰なの?」

「見れば分かるだろ。妖精だ!」

 オレンジ色の子が強めの口調で言った。

「えっと……妖精さんがなぜこんな所にいるの?」

「そんなのあなたの知った事じゃないでしょ」

 黄色の子は初対面の私にそう冷たくあしらった。

 ムカッとしたので何かキツめの言葉をぶつけたかったが、フゥと呼吸して落ち着かせた。

 すると、青色の子が私の顔付近まで近づいてきた。

「それよりもロリンはどこにいるか教えてもらえないですか」

 やはり、お前らはルピーの仲間だったか。

「誰が教えるもんですか」

 私は奴らに舌を出して拒否した。

「なっ……こいつ! 死にたいのか!」

 すると、オレンジの子が顔を真っ赤にして向かってきた。

「チューセ! やめるんだ!」

「離せ、フォーサル! 一発殴らせろ!」

 暴れるオレンジの子に紫の子が止めていた。

 なるほど。

 オレンジ色はチューセ、紫はフォーサルっていう名前なのか。

 ひとまずここを抜け出す方法は後にして、とにかく今は彼らの事について知らないと。

「ねぇ、まず名を名乗ってから質問するべきなんじゃない?

 どうやら私の事を知っているみたいだし……もしあなた達の事を教えてくれたらロリンの居場所を教えなくはないよ」

 私がそう誘導させると、妖精達は顔を見合わせてひと塊で集まり、ヒソヒソと話し出した。

「どうする?」

「話して怒られないかな?」

「大丈夫じゃない? どっちにしろ、殺されると思うし」

「そうだね。うん、冥土の土産に教えてやるか」

 なんか物騒な会話が聞こえた後、私の方を向いた。

「私はフェレーワ」

 黄色の妖精がペコリとお辞儀をした。

「僕はフォーサル」

 紫の妖精が改めて挨拶した。

「俺はチューセ」

 オレンジ色の妖精が腕を組んでムッとした顔をしながら言った。

「ファーナスです。どうぞよろしく」

 青色の妖精は丁寧な口調でそう挨拶した。

 ふむふむ、とりあえず、彼らの名前は分かった。

「で、あなた達の目的は?」

 私がそう聞くと、ファーナスが答えた。

「我々はルピーの命令で、ロリンの捜索とメタの抹殺を命じられているんです」

 はぁ、やっぱりか。

 さすが『妖精』ルピー。

 自分の手を汚さずに彼らに私を始末させるのか。

 クソッ、この腹黒い所をファンの奴らに教えてあげたい。

 そう思っていると、チューセが近づいてきた。

「さぁ、言うこと言ったんだ。お前もロリンの居場所を教えろ」

 うーん、どうしよう。

 私も分からないから教えるもへったくれもないけど……そうか。

 適当に言えばいいじゃない。

「ロリンは関所近くにある施設にいるわ」

 私がそう言うと、皆困ったような顔をしていた。

「施設って……もしかしてアイツらがいる所?」

「えー、あそこ苦手なんだよな……どうする?」

「いやいや、行くしかないだろ」

「よしっ! フェレーワ! 一緒に行こう!」

「えー、なんで私が……」

 どうやら妖精達はあの温泉施設に入るのに抵抗があるらしい。

 これは都合がいいのかもしれない。

「じゃあ、私が呼んで連れてってあげようか?」

 そう提案したが、フェレーワに「駄目よ。絶対に逃げ出すでしょ」と睨まれてしまった。

 さすがにそこまで甘くはないか。

「どう? 聞き出せた?」

 すると、ドアの方に誰かいるのが見えた。

 彼らと似たような姿をしたピンク色の妖精とフードを被った女の子だ。

「チュチュ!」

 皆、彼女を見るや否や一斉に整列していた。

 チュチュと呼ばれていた彼女はジッと私を見ると、「これがルピーの妹? 全然似てないじゃない」といやみったらしく言った。

 こいつ、両腕が開放されたら覚えておけよ。

 そう心に誓ったちょうどに、チューセがロリンの居場所を教えていた。

 すると、フードを被った女の子が「はぁ?! ふざけんなよ!」と急に声を上げたかと思えば、ガッと私の喉を掴んできた。

 かなり強くて、あっという間に呼吸するのが困難になった。

「もしデタラメを言っていたら殺すからな」

 そう呟くと手を離した。

 激しく呼吸していると、彼女のフードの中に潜む目があった。

 顔はハッキリとは見えなかったが、猫みたいに楕円形の黒い瞳をしていた。

「じゃあ、私達がそこに向かっている間、見張りをしていてね」

 チュチュはファーナスとフォーサルにそう言うと、残りの妖精とフードの女の子を連れて出ていった。

 よし、見張りが手薄になったし、隙を見て逃げよう。

 そう思った私はどうすればこの窮地から抜け出せるか考えた。

 が、予想だにしない事が起きた。

 思っていたよりも……というか、出ていってすぐに戻ってきた。

「てめぇ! やっぱり嘘つきじゃねぇか!」

 フードの女の子が怒声を浴びせると、彼女の手から鋭い爪が出てきた。

 その長さは20センチ以上はありそうだった。

「どうしたんですか?」

 フィーナスがそう聞くと、フェレーワが「チュチュが施設に連絡したら、『そのような者は現在館内にいません』って返されたって」

「なっ……この嘘つき小娘!」

 嘘でしょ。

 まさか遠隔で連絡できる手段があるだなんて知らなかった。

 妖精達口々に私を嘘つきと呼ぶと、フードの子が長い爪を私の喉元へ近づけた。

「今度は気絶するレベルじゃないくらい毒を喰らわせてやる」

 あぁ、終わった。

 私、死ぬんだ。

 今までうまい事生き延びてきたけど、今度こそ死ぬんだ。

 あぁ、チャーム王子……。

 私は死を覚悟して視界が真っ白になった――その時だった。

「ちょっと待った」

 いきなり声がしたので、皆一斉に振り向いた。

 私も彼女達と同じ方を向くと、ドアの近くに鳥の羽根が付いた帽子を被った青年が立っていた。

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