第59話 速報

 さて、激しめの運動を終えた後はようやく昼ご飯タイムだ。

 シュババっと着替えを済ませた後、私とミーヨは食堂に向かった。

 一階に着く頃には早くも行列ができていた。

 それを並びながら私はミーヨにオススメは何かと聞いてみた。

 パーカからカレーを進められたが、他にもあるかもしれない。

 ミーヨは「一番人気はカレーだけど、私はコロッケ定食かな」と答えた。

「コロッケ? コロッケってなに?」

「ええぇ?! 知らないの?」

「うん。私の国にはない」

「そうなんだ……コロッケはすり潰したじゃがいもと挽き肉を混ぜて塊にした後、パン粉などを付けて揚げた食べ物だよ」

 なるほど、じゃがいものフライか。

「へー! ちなみにカレーは甘いのある?」 

「カレーは知っているんだ。うん、あるよ。ちなみにトッピングとしてコロッケを乗せる事もできるよ」

「あ、それいいじゃん! じゃあ、私はコロッケカレーにしよう!」

 なんて会話をしていると、私達の番になった。

 白いエプロンを着たおばさんに注文を聞かれたので、ミーヨはコロッケ定食、私は甘口カレーにコロッケをトッピングをお願いした。

 ちなみにカレーは量が選べるらしく、一口サイズの『レ』からパーカがお勧めした『バクバクモリモリヤマモリモリカレー』まで幅広かった。

 私は普通サイズを選んでおぼんを持って流れるように歩いていると、早くもミーヨの上にキツネ色の揚げ物二つとサラダ、茶色のスープ、白い何かが置かれていた。

「じゃあ、先に席取っておくね」

 ミーヨはそう言うと、料理が乗っかったおぼんを持って歩いていった。

 私の方もカレーが置かれたが、ミーヨの所にあった白い何かと一緒に添えられていた。

 これが何か気になったが、忙しい時に質問するのは失礼だと思い、サラダとスプーンを置かれたらすぐにカウンターから離れた。

 さて、ミーヨを探そう。

 私は辺りを見渡したが端から端まで大勢の生徒達が集っていたので、どこにいるか分からなかった。

「メタちゃーん! こっちこっち!」

 すると、私の方に向かって手を振っている子を見つけた。

 ミーヨだ。

 私は落とさないように慎重に運びながら彼女の向かい側に座った。

「ここ大盛況だね」

「うん、どれも美味しいから……いただきまーーす!」

 ミーヨはそう言って二本の細長い棒を器用に使って、コロッケを切り分けた。

 断面を見てみると、じゃがいものクリーム色の中に挽き肉がチョコチップみたいに転々と入っているのが見えた。

 それをパクリと食べると、「うーん、美味しい!」と言って白いものを少しだけ掴んで食べた。

「その白いの何?」

 私が聞いてみると、ミーヨは「え?」と一瞬戸惑った顔をしたが、すぐに質問の意図を理解して「あぁっ! これ? ご飯っていうお米を炊いたものだけど……もしかして知らない?」と首を傾げた。

 オコメ……あぁ、思い出した!

 施設の時に銀髪の女性からもらったおむすびに使われている食材のことか。

 なるほど、そういえばアレと似たような見た目をしていると思った。

「ううん、思い出せなかっただけ」

 私はそう言って、カレーをスプーンですくって一口食べた。

 おっ、ちゃんと甘い。

 私の知っているカレーは香辛料をふんだんに使っているやつだけど、これは玉ねぎや蜂蜜の甘みが出ている。

「一緒に食べると美味しいよ」

 ミーヨにそう言われたのでやってみると、相性抜群だった。

 次はコロッケだけをスプーンで切り分けて食べてみた。

 衣がサクッとしていて、中はクリーミーでこれまた絶品だった。

 オコメと一緒に合わせてみたら、予想通り美味しかった。

「オコメ、最高!」

 私はバクバク食べていると、ミーヨはフフッと笑っていた。

「そんなに気に入ったの?」

「うん!」

「そういえばうちの家にいた時の主食はパンしか出さなかったからお米を食べるのは初めてかな?」

「ううん、おむすび食べた」

「あ、おむすびは知ってるんだ」

 なんて会話をしていると、「ヨッでござる」と癖のある語尾が隣から聞こえてきた。

 ミーヨを見てみると、掴んでいたコロッケをポロッと皿の上に落としていた。

 顔を見なくても見当はついている。

 チラッと見てみると、オギンという名の紫髪の女の子がカレーを食べていた。

 ただその量が凄まじかった。

 天井ギリギリまであるのかと言わんばかりの高さのオコメとカレーの山がテーブル並の幅を持つ皿の上に乗っかっていた。

 それをオギンはスプーンでパクパクと食べていた。

 あれがもしかして『バクバクモリモリヤマモリモリカレー』か。

 よかった。あれにしなくて。

 もしアレを頼んでいたら、放課後まで食べているところだった。

 なんて思いながら食べ進めていた。

 ミーヨはチラチラとオギンを見ていたので、全然進んでいなかった。

 それとは対照的にオギンは休む暇もなく食べ続け、山をドンドン崩していった。

 私はミーヨの気を逸らすために質問を投げかけた。

「次は何の授業だっけ?」

 私の問いにミーヨはハッと我に返った顔をしていた。

「え? あ、あぁ……えっと、音楽だよ。確か特別講師を呼んでいるみたい」

「特別講師? それは誰……」

「ちゅうも〜〜〜〜く!!!」

 私が質問をしようとした時、隣から食堂に響き渡るぐらい声量が聞こえた。

 辺りは何だ何だとざわついていた。

 食事中も行列待ちも一斉に同じ方を向いていた。

 この光景に私とミーヨはすぐにオギンだと直感し、彼女の方を見た。

 オギンは椅子の上に立っていた。

 彼女の前にあった山盛りカレーはもうすでになかった。

 あの短い時間でよく完食できたな。

 そう思っていると、オギンは「校内放送に注目でござる!」と相変わらずの口調で言った。

 ピンポンパンポーンと鳴り響いた。

『皆さ〜〜〜ん! こんにちは〜〜〜!!

 生徒会長のルピーでーーーす!』

 アイツの声だ。

 彼女の声にミーヨだけではなく、周りの人達も興奮していた。

『今回は私以外にもいまーーす!』

『どうもだぜ! セミノールだぜ!』

『あ、あの……パーカです……』

『皆様、ごきげんようですわ〜〜!! カールですわ〜〜!!』

 どうやら勢揃いしているらしい。

 ルピー以外のアイドルメンバー達のファンが歓喜の声を上げていた。

 私はモクモクとカレーを食べ続けた。

 校内放送は続く。

『今日は皆さんに素敵なお知らせをもってきました!』

『なんとなんと……今日の五、六時間目の時間を使って』

『僕達の……ら、ライブを行いますです!』

『場所は体育館に集合ですわ〜〜〜!!』

 このお知らせにたちまち「ウォオオオオオ!!」と叫んでいた。

 ミーヨが半狂乱になっているのは言うまでもない。

「皆の衆、くれぐれも気をつけて譲り合いながら会場に向かうでござる!

 では、とっぴんぱらりのぷう!」

 オギンはそう言うと、一瞬で姿を消した。

「やべぇ! 『オールシーズフェアリー』のライブが学校で聞けるなんて!」

「この前のライブ、抽選外れたからめっちゃ嬉しい!」

「早く行かないと! 最前列で推しを見たい!」

 食堂にいる生徒達はゾロゾロと出口に向かっていった。

 食べていた人も並んでいた人も、さらには料理を作ったり配膳したり注文を取っていた人達も全員体育館へと向かっていった。

「私達も行こう!」

 ミーヨはそう誘うが、私は「これ食べてから行くよ」と首を振った。

 この反応にミーヨは目を丸くしていた。

「えーー?! そんなの後にしなよ! 最悪食べ残してもいいじゃん!」

「私は一番後ろでもいいから。ほら、私の事は構わずに行って」

 私がそう促すと、ミーヨは「う、うん……早めに食べてね!」と言って駆け出して行った。

 食べている間も生徒達は次々と出ていき、食堂内には私以外誰もいなくなった。

 スプーンとお皿のカンとぶつかる音が虚しく響き渡っていた。

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