第58話 究極(?)の武術

 でも、待っている間はミーヨ以外の女子達とも喋る事ができたので、ある意味充実した時間となった。

 そういえば、今まで女子と話すのはロリンミーヨ(ちなみにティーナは同い年かどうかも分からないしそもそも人形だから)ぐらいで、こんなに大勢の同年代と会話するなんて初めてかもしれない。

 彼女達の会話は実に興味深かった。

 ミーヨだとアイドルの話が多かったけど、彼女達は好きな食べ物、好きな人、嫌いな先生、親が口うるさくてウザい、最近正義のヒーローと名乗る五人組の美少女達が悪者を倒している、カレー食べたい、その他当たり障りのないこと……勉強は捗らないけど、聞いているだけでも面白かった。

 特にカールがこの国の支配者の孫である事が分かっただけでも大きな収穫だった。

 だからといって、世界地図が手に入る訳でもないけど。


 さて、図書館での自習という名のおしゃべりが終わり、教室に戻ってみると、先生はとっくに帰っていた。

 男子達はさっきまでとは別人みたいに痩せ細っていて、ヨボヨボと老人みたいに歩きながら次の準備をしていた。

 一体私達がいない間に何があったんだ。

 それも気になったが、ミーヨが次は体育だから着替えてと言われてしまったので、真相を確かめられずにそのまま更衣室へと向かった。

 ちなみに私の運動用の服はミーヨが用意してくれた。

 どうやら動きやすい服と露出の激しいものでなければ格好は自由らしく、それぞれオリジナルの可愛さのあるデザインの服を着ていた。

 大体統一しているのは、長袖と長ズボンだった。

 中には半ズボン、半袖を着た生徒もいた。

 しかし、飛び抜けて凄かったのはカールだった。

 上下共に金色に輝く格好をしていたので、あまりの眩しさに直視できないほどだった。

 これはかえって運動の妨げになるのでは?

 私はそう思っていると、カールは「ちょっと眩し過ぎですわ」と黄色の上下に変えていた。

 じゃあ、なぜ金色に着替えたんだ。

 そんなツッコミをしようとしたが、体験入学の分際で言える立場ではないので、サッサと着替えた。

 私のは可愛いイチゴミルク色の長袖と長ズボンだった。

 うん、好みをちゃんと分かってる。

「ありがと、ミーヨ!」

 私がお礼を言うと、栗色のジャージを着たミーヨは「どういたしまして!」と微笑んだ。


 体育はさきほど全校集会を行ったホールで行うらしい。

 ゾロゾロと中に入ると、二人の女性の先生が待っていた。

 一人は金髪のポニーテールの格好をした華奢な身体をしていて、もう一人は黒髪の短髪で両腕を組んでいた。

「おーい、ちんたら歩くな! 走れ〜!」

 黒髪の女性が大声で叫ぶと、女子達は急にシャンと引き締まって小走りした。

(あの先生はビシバシ生徒に教えるタイプだな)

 そう思った私は優等生みたいな雰囲気を出すために、真面目な顔をして二人の前に立った。

「ちょっと近い。少し離れろ」

 黒髪の先生が眉間に皺を寄せながら注意されてしまった。

 一歩二歩下がって、一列に並んでいる女子の間に入った。

 偶然にもカールとミーヨの間だった。

「積極的なのはいいけど、距離感考えないと」

 ミーヨに小声で注意されてしまったので、私は「ごめん」と舌を出して謝った。

「は〜〜い! 皆さ〜〜〜ん! 今日は体験入学の子がいるので、特別授業でーーす!」

 ポニーテールの先生がややテンション高めにそう言うと、周りは「なんだろ?」「楽しいやつかな?」と期待の声が上がった。

「嫌な予感がしますわ」

 しかし、カールだけ浮かない顔をしていた。

 私はなぜ彼女がそんな反応をするのか不思議だったので、聞いてみようとした。

 が、ポニーテールの先生は「まずは先生がお手本を見せるから後からやってね!」と言うと数歩下がった。

 そして、何回か深呼吸した後、両脚を開いた。

「筋肉乙女拳法第一筋……極限筋肉膨張!!!!」

 聞き慣れない単語を叫んだかと思えば、彼女は「ウォオオオオオ……」と獣みたいに唸りだした。

 これにさっきまでキャピキャピムードだった空気が一転し、騒然となった。

 ポニーテールの先生が唸っている間、彼女の腕や脚、ボディ、首が筋肉が異常なまでに発達し、身長も倍ぐらいになった。

 華奢な所は顔だけになり、後はゴリマッチョ先生みたいに筋肉パンパンの肉体になっていた。

 彼女の変貌した姿にこの場にいる全女子が引いているのは言うまでもなかった。

 皆、空いた口が塞がらなかった。

「さぁっ! みんなもやって!」

 ポニーテールの先生が満面の笑みでそう言うと、黒髪の先生が「はい。今日はみんなでドッチボールします。 はい、班分けして!」と何事もなかったかのように女子達に指示していた。

 生徒達も「私とチームになりたい人ー!」「今日こそは勝つぞ!」とポニーテール先生を完全に無視していた。

「そ、そんな……」

 みんなの反応に金髪マッチョ先生は四つん這いになって落ち込んでいた。

 そりゃそうだろと言いたい所だけど、ちょっと興味がある。

 私は先生の所に行こうとしたが、ミーヨに声をかけられた。

 なぜか鼻息を荒くしている。

「め、メタちゃん! な、ななななんと! お、おおおおカール様が私とメタちゃんと一緒のチームに組んでくれるって!」

 そう熱心に語ってくれていたが、私は「ごめん。私はあの人と話がしたい」と金髪マッチョの方に指差した。

 これにミーヨは「えぇ?! やめた方がいいよー!」と目を丸くしていた。

「ごめん! 私抜きで楽しんでね!」

 私は無理やり彼女の会話を切って、先生の元へ走っていった。

 金髪マッチョはまだ落ち込んでいた。

「あの……先程の技? 技はどうやったんですか?」

 私がそう質問すると、金髪マッチョは急に立ち上がった。

「なになになに?! もしかして、興味あるの?!」

 目をランランと輝かせながら聞いてきたので、私は「え、えぇ」と答えた。

 すると、金髪マッチョは「やったーー!」と屈強な肉体で踊った後、「君、名前は?」と聞いてきた。

「えっと……メタです」

「メタ……あぁっ! 体験入学の子か! いいねぇ! 何事にも臆せず興味を持つ事はいいことね!

 私はラッシー! よろしくね!」

 満面の笑みでゴツゴツした手で握手を求めてきたので、若干戸惑ったが、おそるおそる握った。

 思ったよりも痛くはなかった。


 それからラッシー先生に筋肉乙女拳法と呼ばれる武術を教わったが思うように難しく、丁寧に教えてくれたが、彼女みたいにムキムキにはならずに授業が終わってしまった。

 まぁ、そう簡単に習得できる訳ないか。

 覚えておいたら何か役に立つかなと思ったけど。

 私はハァと溜め息をつくと、ラッシー先生は「初めてにしてはセンスがあるよ!」と慰めてくれた。

「もし入学したら、『筋肉乙女拳法部』っていう部活に入らない?

 部員一人もいないから即部長に就任だよ?」

「あ、はい。考えておきます」

 私は軽くあしらうと、ドッチボールの対戦を終えた女子達と合流した。

「大丈夫だった?」

 ミーヨが心配そうに聞いてきたが、私は「いい先生だったよ」と親指を立てた。

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