第56話 居眠りしちゃう
全校生徒の前での挨拶が終わると、私は先生に教室に案内された。
先生は服が密着するぐらいパンパンに膨れ上がった肉体を持っている男で、一瞬魔物かなと錯覚するぐらい怖い顔をしていた。
私はルピーの事が気になり探したが、彼女はすでにどこかに行ってしまったみたいだった。
ルピーの恐ろしい発言が何度も頭の中で繰り返されていく。
私がロリンを引き渡さないのなら、向こうが武力行使をするのは間違いない。
それまでに何としてでも世界地図を手に入れないと。
私は自分を鼓舞していると、教室に着いた。
ゴリマッチョ(勝手に名付けた)先生はバンッとビビってしまうほど強くドアを開けると、「ホームルームだごるあぁ!」と魔物みたいな声で叫んだ。
私はマモノノ巣窟に足を踏み入れるような感覚で中に入った。
教室はそこそこ広かった。
食堂みたいに机と椅子が綺麗に整列されていて、男女バラバラに座った生徒達がこっちを見ていた。
その中にミーヨがいたので、ホッと一安心した。
だが、金髪カールお嬢様もいる事に気づき、思わず「おう」と口から漏れそうになったが、堪えた。
「おら、挨拶せいやごるあぁ」
どうやら彼の語尾は「ごるあぁ」と付くらしい。
挨拶を促してきたので、私はハイと言ってなるべくミーヨ側の方を見ながら話した。
「あの……メタです! 今日一日よろしくお願いします!」
私がそう言って頭を下げると、たちまち拍手が沸き起こった。
ゆっくり顔を上げると、嬉しそうな顔をして拍手を叩くミーヨと真顔でジッと見ているカールと目が合った。
私の心が安心感と不安で満たされていった。
「お前の席はミーヨの隣だごるあぁ」
ゴリマッチョ先生がウインナー並に太い指で窓際にいるミーヨの席の方を指差した。
(良かったぁ、カールの隣じゃなくて)
内心ホッとしながら彼女の方に行った。
確かに席が空いていたので、椅子を引いて座ると、ミーヨが「一緒でよかったね」とボソッと言ってくれた。
「私も。安心した」
そう返すと、ふとなぜか背筋が寒くなった。
辺りを見渡してみると、廊下側の席に座っているカールがジッとこっちを見ていた。
「うほっ、おカールお嬢様が私達の方を見てる。お、お、おさいこぶっ! うっ! ふっ!」
ミーヨが鼻血を垂らしながら息を荒くしたおかげか、カールはすぐに正面を向いた。
よし、放課後まで彼女と一緒にいよう。
私は心の中でそう決めると、存在を忘れていたカバンからチリ紙を取り出して、ミーヨの鼻をケアした。
さて、ゴリマッチョ先生の話が終わると、授業までの休憩時間が設けられた。
皆、トイレに行ったりノートを取り出して勉強したり、友達と話したりで各々好きな事をしていた。
私は大勢の女子や男子に囲まれていた。
皆、好奇心の眼差しで向けていた。
「メタちゃん、好きな食べ物は?」
「どうしてこの学校に体験入学したの?」
「ミーヨとは幼馴染なの?」
「ルピー様に抱きしめられた時、どんな香りがした?」
怒涛の質問ラッシュに私はなるべく答えるようにした。
たまにミーヨに助けてもらいながら答えていたが、『姉や妹、兄や弟はいるのか』という質問に関しては「いないよ」と答えてしまった。
もしルピーと姉妹だなんて言ったら面倒くさくなりそうだからだ。
「メタさん」
すると、聞き覚えのある声が群衆の中から聞こえてきた。
その一声に私を取り巻いていた人達が一斉に隙間を作っていた。
現れたのはカールだった。
「う、ぐ、お、オカーぶっ!」
ミーヨは至近距離でアイドルメンバーを見てしまったからか、チリ紙を小さく丸めて鼻に突っ込んだものが新たな鮮血によりポンッと吹き出てしまった。
カールは「はじめまして、カールですわ。一日だけどよろしくですわ」と握手を求めてきた。
普段からも『ですわ』口調なんだ。
「え、えぇ」
私はおそるおそる彼女の手を握った。
これに周囲の人達は羨ましそうに見ていた。
その時、ちょうどチャイムが鳴り、先生が入ってきた。
もちろん、教科書もないので、ミーヨと一緒に見ながら受ける事にした。
先生はソフトクリームみたいな髪をした年配の女性だった。
彼女はコホンと咳払いすると、教壇の上に置いていた教科書を開いた。
「えー、では。体験入学の子もいますが、変わらずに授業を進めます。
前回は約1000年ぐらい前にエルフの国に侵攻してきた王族により、エルフは姿を消して、代わりに人とエルフの間にできた子供である妖精が誕生したという話をしましたが……カールさん、その侵攻を企てた人物は誰ですか?」
いきなり先生に尋ねられたカールだったが、ハイと背筋をピンと伸ばしていた。
「マルティーナ伯爵ですわ〜!」
上品な語尾を付けてそう答えると、ソフトクリーム頭の先生は「さすがね」と言って頷いた。
「マルティーナ伯爵は世界で初めて人型の兵器を開発しました。その圧倒的な力に不老不死のエルフはなす術無く……」
あぁ、長過ぎる話を聞いていたからか、眠くなってきた。
私はほんの少しだけ目をつむっている事にした。
が、あっという間に意識が飛んでしまった。
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