第55話 裏の顔
私はチラッと見て見ると、職員達に囲まれているルピーがいた。
「ルピーさん、どうぞ椅子です!」
「ルピーさん、あなたの好きなピンクグレープフルーツジュースです! 搾りたてなのでとても美味しいですよ!」
「ルピーさん、暑くないですか? 良かったら扇ぎますよ?」
職員達がまるでルピーの
ルピーは一人一人に天使のような笑みであざとい声でお礼を言っていた。
ゆっくり腰をかけて、ジュースを飲むルピー。
目と鼻の先に彼女がいる。
今すぐにでも姿を消してしまいたかったが、もう手遅れだ。
すると、ルピーはチラッと私の方を見ると「彼女に椅子は?」と聞いていた。
職員達はハッとした感じで私の方を見ると、「ただいまお持ちします!」と言って飛んでいった。
数分もかからないうちに私に椅子が用意され、あろう事か彼女の隣に置かれてしまった。
すると、ルピーが「ちょっと彼女とお話したいので、二人っきりにしてくれませんか?」と丁寧な口調でお願いしていた。
これに職員達は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに「かしこまりました」と返して出ていってしまった。
そして、私とルピーだけ取り残された。
無論、沈黙。
あまりにも静か過ぎて、彼女がジュースをストローですする音が無駄に響き渡り、外からの喧騒が余計に聞こえていた。
私はどうしたらいいか分からなかった。
声をかけるべきなのだろうか。
「久しぶりね」
すると、突然ルピーの方から声をかけてきた。
思わず「うひゃっ?!」としゃっくりみたいな悲鳴を上げてしまったが、すぐに毅然とした態度に変えた。
「え、えぇ……ルピー」
「ルピー"お姉様"でしょ?」
さっきまでのあざとさは消え、素の意地悪な彼女に戻っていた。
だが、ここで屈する訳にはいかない。
昔の私ではないんだ。
「王子様を返して」
私がそう言うと、ルピーは「はぁ?」と睨みつけてきた。
「誰がお前みたいな奴に王子様なんか渡すもんですか。それにチャーム王子とは私と結婚するのよ」
はぁ? なぜお前が王子様と結婚するんだよ。
そう暴言をぶつけたい衝動に駆られたが、グッと引っ込めて、「どうして?」と震える声で聞いた。
すると、あざとい声を出しながら嬉々とした表情で語った。
「だって、私は気絶するほど可愛いし、スタイル良いし、人気あるし、王子様にピッタリだと思うんだよね!
それに比べて、あなたは死ぬほどダサイし、つるぺったんだし、存在感
ルピーの心無い言葉の槍に何回も刺されてしまった。
確かに当たっている所はあるけど、王子様が私にプロポーズをしてくれた事は事実だ。
私はそう彼女に訴えたが、ルピーは「夢でも見てたんじゃないの?」と
「それはそうと、メタ。あなたがここにいるという事はロリンお姉様も来ているのよね?
さっさと居場所を教えてあげれば、王子様を返さなくはないけど……もし断れば、分かるよね?」
桃色と黄色のオッドアイの瞳がギラリと光り、私を睨んでいた。
彼女の言いたい事は分かる。
きっとメタリーナ主催のお茶会でロリンを捕まえるように言われたのだろう。
もし私がノーといえば、ルピーと一戦交えなければならなくなるかもしれない。
ルピーの実力は不明……正直怖いけど、ロリンを裏切りたくない。
だったら逆に煽ってやろう。
「そっちこそ、早く王子様を引き渡してくれたら、痛い目見ずに済むけど?」
この一言にルピーの顔が険しくなった。
「なっ……あなた、誰にむか……」
「ルピーさーーん、そろそろ出番です!」
ルピーが
「ハーーイ♡」
すると、さっきまでとは別人みたいに表情や声が代わり、満面の笑みで応えていた。
そして、「ヨイショ♪」とこれまたあざとさ満点の声を出して、残りのジュースを全部飲んだ。
空のコップを「ありがとう♪ 美味しかった♪」とキチンとお礼を言った後、舞台の方に向かった。
彼女が出てくるや否や、一斉に歓喜の声が上がり、けたたましいくらいの拍手が鳴り響いていた。
「全校生徒の皆さーーん! 生徒会長のルピーでーーす!
今日は我が校に体験入学してくれる子がきました!
メタちゃんでーす!」
パチパチと拍手の音が聞こえた。
職員が「どうぞ」と舞台の方に手を向けたので、私は色んな意味で胸がキュウとなった。
おぼつかない足取りで舞台の方に向かうと、ルピーがニッコリと微笑みながら拍手で出迎えてくれた。
チラッと観客側の方を見ると、大勢の人達が拍手しながら私を見ていた。
「さぁ、一言挨拶して」
生徒達の前だからか、ルピーは気味が悪いくらい優しく台に置いてある黒い棒みたいなものを指差した。
私は感でその前に立つと、「め」と発音したタイミングでブォーーンみたいな音が出た。
クスクスと笑い出す生徒達。
今の音の何が面白いのか分からないが、声のボリュームに注意して話しだした。
「ど、どうも! め、メタです! えっと……たった一日ですけど、よろしくおねがいします!」
何とも幼稚な挨拶だったが、生徒達は我が事のように拍手をして祝福してくれた。
「よろしくね、メタちゃん!」
そして、なぜかルピーがいきなり私に抱きついてきた。
いくら何でもやりすぎでは――と思ったが。
「生きて出られると思わないで」
拍手の音で聞こえないと踏んだのか、素の声でそう脅すと、すぐさま距離を置いて、なんて事なかったかのように手を叩いていた。
私は苦笑いしながら一礼した。
まずい、放課後までに見つけないと殺される。
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