第54話 いよいよ始まるぞ……あー、緊張する

 私はミーヨに手伝ってもらいながら制服に着替えた。

 うん、バッチリ。

「似合ってるよ、メタ」

 ミーヨは私に親しげな話し方で褒めてくれた。

 ここ数日一緒の部屋にいるので、色々と話をしているうちに、私とミーヨはすっかり打ち解けていた。

 私も「ありがとう」とお礼を言うと、彼女と一緒に部屋を出た。

 階段を降りると、マーセフとポイー婆さんが伝票を見ながらあれこれ言っていた。

 私は二人に「いってきます」と挨拶をした。

 その声でようやく私達がいる事に気づいたのだろう、一斉にこっちを見てきた。

「おぉ、ミーヨ、メタ! 行ってらっしゃい!」

「なんとまぁ、可愛らしくなったこと。行ってらっしゃいまし」

 二人に手を振って見送られながら私達は外に出た。

 色々話しながら学校を目指す。

「本当に制服似合っているね」

 ミーヨが私の格好を見ながらそう言った。

「そう? 初めて着たけど」

「うん。まるで元から生徒みたいだよ……そういえば、一日体験入学した後はどうするの? そのまま永住して通うの?」

「いや、世界地図を手に入れたらそのまま旅立つ」

「そっか……」

 ミーヨは一瞬寂しそうな顔をしていたが、すぐに「じゃあ、何か困った事があったら私に聞いてね!」と笑顔になった。

 私は「うん! ありがとう!」とお礼を言った。

 そんなやり取りをしているうちに、正門が見えてきた。

 私達以外にも制服を着た男女が門を通っていく。

 はぁ、いよいよ始まるのか。

 私の地図探しタイムが。

「皆様、おどきなさーーーい!!」

 すると、突然背後から耳鳴りをしてしまいそうなくらい高い声が聞こえてきた。

「まずい! メタ!」

 ミーヨが慌てて私の腕を引っ張って、そのまま道の端まで連れて行った。

 一体何だろうと思っていると、他の生徒も急いで脇道に逃げていた。

 チラッと見てみると、金髪の女の子が黄金の馬車の屋根の上に仁王立ちになりながらこっちに向かっていた。

「お金持ちのお通りですわ〜〜〜〜!!!」

 彼女はそう叫びながら金色の馬二頭を走らせて、勢い良く門の中を通っていった。

 あの喋り方、どこかで聞いた事があるな。

 えーと、誰だったっけ。

 私が首を傾げていると、隣にいたミーヨの呼吸が突然荒くなった。

「はぁはぁはぁ、カール様は今日もお麗しいおカールをなびかせながら黄金のお馬車をお馬さんに走らせてお登校なさるなんて、なんてお優雅なんでしょう! はぁはぁはぁ、朝一番からおカール様のお声を聞けるなんて、最高ですわ!」

 単語の前に『お』を付けすぎじゃない?

 いや、それよりもあの金髪の子の名前……えっと、確かカールって呼ばれていたな……あぁ、そうだ。

 アイドルグループの『オールシーズフェアリー』のメンバー……そうだった。

 いつもミーヨのアイドルの話はほとんど耳から垂れ流していたから、彼女を見てもすぐに思い出せなかった。

「おぉっ! ルピー様だ!」

「セミノール様もパーカちゃんもいる!」

「きゃーーー!!! オギン様〜〜〜!!」

 すると、さっきまで道に逸れていた生徒達が正門の方を見るや否や、我先にと走り出していった。

 おそるおそる覗き込んでみると、校舎近くで黄金の馬車に大勢の生徒が群がっていた。

 その群衆の中にルピー達がいた。

 彼女達は舞台上と同じように笑顔で対応していた。

「はぁあ……いつ見ても素敵♡」

 ミーヨの両眼がハートマークになっていたので、私は「行って挨拶したら?」と提案していた。

 が、ミーヨは「何を言っているの?!」と急に目をクワッと見開きながら私を凝視していた。

「彼女達はそんなおいそれと近づいていい人達じゃないの! というか、近づいたら私の心臓が止まるわ!」

「そ、そう……じゃあ、私は学園長室に用があるから、先に行ってて」

 私はそう言って、裏口の方に向かった。

 ミーヨは私を呼んでいたが、あえて聞こえないフリをして歩いていった。

 何はともあれ、彼女達が本当に学園に通っている事が分かった。

 後は見つからないように地図を探すだけだが……そう簡単にいかないかもしれない。

 ルピー達が馬車の周辺にいたという事は恐らく彼女達はあの馬車に乗ってきたはずだ。

 つまり、走行中に脇道に立っていた私を車内から見たかもしれない。

 何かしらの邪魔をしてくる可能性があるから、警戒しないと。

 そう意気込んでいると、裏門に着いた。

 白い鎧に仮の学生証を見せて学園長室に向かった。

 彼女は私を見るや、「おはよう。昨日はよく眠れた?」と挨拶してきた。

 ハイと頷くと、彼女は「行きましょう」と言って歩き出した。

 私は学園長の背中に付いていくがまま階段を降りていった。

 途中、何人か生徒と出会ったが、みんな学園長を見るや否や、「おはようございます!」と元気に挨拶をしていた。

 そして、私の方をチラッと見た後、教室に向かっていった。

 ジロジロと見られているような気がするが、それもそうか。

 学園長の後ろをカルガモみたいに付いていくなんて、特殊な事情でもない限り、ありえない光景のはずだ。

 これ、かえって目立ってない?

 まぁ、もういいや。

 腹をくくろう。

 

 そうこうしていると、案内されたのは巨大なホールだった。

 椅子とかはなく、馬鹿に高い天井と舞台がある事から、どことなくコンサート会場を思い出した。

 学園長に舞台袖に待つように言われ、そのままどこかに行ってしまった。

 職員らしき人が忙しなさそうに動いている中、私はどうしたらいいか分からず、指先をモジモジさせながら立っていた。

 すると、段々騒がしくなってきた。

 どうやら生徒達が続々と集まってきたらしい。

 彼らの騒がしい声を聞いていると、心臓がバクバクと高鳴っていった。

 はぁ、これから大勢の前で挨拶しないといけないのかぁ。

 思いっきり噛んで嗤われたらどうしよう。

 そんな事を思っていると、職員達が一斉に「ルピーさん!」と駆け出していた。

 ……え? ルピー?

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