第49話 紙の正体
「メタちゃん、どうしたの?」
私の顔が蒼白な事に気づいたのか、ロリンが覗き込むように聞いてきた。
私はグチャグチャの紙の塊を見せながら説明すると、ロリンは「えぇ?!」と声を上げていた。
そして、マジマジと塊を見た。
「うわぁ……ちょっと、職員に文句行ってくる」
ロリンが眉をひそめて来た道を戻ろうとしたので、私は腕を掴んで引き止めた。
「もういいよ! 過ぎた事はしょうがないし……出し忘れたのは私のミスだから……」
「でも、洗濯する前にポケットの中に何かに入っていないか確認してからするのが普通だと思うけど」
「今さらそんな事を言ったって、この紙が元通りになる訳ないじゃない! それよりも早く地図屋に行こうよ!
優先するべきなのは職員の文句じゃなくて、王子様の救出でしょ!」
私が必死に説得させると、ロリンは「確かに」と落ち着きを取り戻した。
でも、結局この紙が何だったのかも分からないままゴミ箱行きかぁ。
私が溜め息を吐いていると、ポーイが「ちょっとその塊をください」と要求してきた。
何に使うのだろうと思って言われるがままに渡してみると、ポーイはそれを受け取るや否や、口の中に入れて飲み込んでしまった。
「え?!」
私は呆気に取られていると、ポーイのお腹からチリリンと鈴の音が聞こえてきた。
カタッとお腹の引き出しが開いたので、覗き込んでみるとクシャクシャになっていた紙が元通りになっていた。
「おぉっ!」
私は二枚手に取って確認したが、まごう事なき紙だった。
「凄いわ! ありがとう!」
ポーイにお礼を言うと、彼は照れ臭そうに「いや、僕に搭載されている機能を使っただけですから……」とモジモジしていた。
あ、そうだ。
ついでにこの紙が何なのかポーイに調べてもらおう。
私はそう頼むと、ポーイは「おやすいごようです!」とポンと胸を叩くと、急に両眼を光り出した。
紫色っぽい光を紙にあててみると、文字が浮かび上がってきた。
「なるほど。ブラックライトを当てたら文字が出てくるタイプだったのか」
ロリンが興味津々に紙を見ていた。
ブラックライト……白い鎧達が使っていたのもそうなのかな。
「うーん、これは……ふむふむ……」
「ふむふむ……ふーむふむ」
ポーイとロリンはブツブツ言いながら観察した後、「これは!」とほぼ同時に声を張り上げた。
「チケットだ!」
「アイドルのチケットだ!」
声が重なってあまり聞きとりづらかったが、『チケット』という単語を言っていたのは分かった。
「で、チケットってなに?」
私が尋ねると、ポーイが「コンサートの招待状のことですよ!」と嬉しそうな顔をして答えてくれた。
あぁ、なるほど。
ムーニーが渡したのは、招待状だったのか。
だから、白い鎧はその紙を見て私達が入国したのが『観光』だと思ったのね。
「けど、なんでこんなワザワザ特殊な光であてないと分からないように細工してあるの?
招待状なら堂々と書けばいいじゃない」
これにポーイは「それだと大量に偽物のチケットを作られてしまう可能性があるからです。
こんな感じでライトの光でないと文字が浮かび上がらないようにすれば、本物と偽物のチケットを区別できるんです」と返した。
という事は、そのチケットは偽物が出回るくらい価値があるってこと?
「そもそもこれは何のコンサートのチケットなの?」
私の質問にポーイは鼻息を荒くしながら答えた。
「アイドル『オールシーズフェアリー』ですよ! ご存知ないんですか?」
「いえ、全く」
「ええええええ?! せ、世界中で人気のあるアイドルなのに?! ご、ご存知ない?! うぇぇぇ……遅れて……いえ、何でもないです」
ポーイの顔が引きつっていたので、私はロリンに「知ってる?」と聞いてみた。
ロリンは「名前くらいはね」と答えたので、私が疎いだけかと思った。
「まぁ、何はともあれこの謎の紙の正体が分かった事だし、地図屋に行きましょう!」
私がそう言うが、ポーイが「ちょっと待ってください」と再びチケットにライトをあてた。
「こ、これは……もうすぐ始まっちゃいます! 急がないと!」
ポーイはそう言って飛んでいこうとしたので、慌てて引き止めた。
「ちょっと! 地図屋はどうするの?!」
「今は地図よりもコンサートが優先です!
一枚10万ポイで取り引きされるくらい人気のコンサートなんですよ?!
行かなきゃ損ですよ! いや、行くべきです!」
えぇ?! そんなに価値のあるものだったんだ。
「じゃあ、これを誰かに売って資金に……」
「駄目です」
ポーイが睨んできた。
「この国ではチケットの転売は禁じられています。というか、このチケットをワザワザ売るという行為自体が愚かですよ。
本当に売る気なら、あなたの事を心の底から軽蔑します。
排泄物より軽蔑します」
ポーイがこれでもかというくらいかなりの圧力で訴えてきたので、私はしぶしぶ「分かったわ。コンサートに行ったら絶対に地図屋に案内して」と承諾した。
これにポーイは「いやっほう!」とスキップするかのように喜んでいた。
でも、まぁ、せっかくの機会だし行ってみるか。
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