第40話 宣戦布告

「じゃあ、そろそろ妹達とお茶会があるから帰るね」

 メタリーナは突然私にそう告げると、スタスタと歩き出した。

「え? あ、うん……いや、ちょっと待って!」

 危ない、危ない。

 メタリーナの揚げドーナッツ注文に気を取られて、本来の目的をすっかり忘れる所だった。

 私はメタリーナに王子を返すように頼んだが、長女は「嫌よ」と拒否した。

 一瞬諦めそうになったが、ここで怯んでしまったら、二度とチャンスはないかもしれない。

 私は引き下がらず、食ってかかった。

「じゃあ、力づくでも取り返してみせるから!」

 私がそう言うや否や、急に長女はクスッとしたかと思えば、声を上げて笑った。

「あなたが? 私がムーニーにお仕置きをしている時に小動物みたいに震えて見ている事しか出来なかったあなたが?

 口だけはご立派ね」

 メタリーナは完全に馬鹿にしていた。

 だが、私は屈しなかった。

「絶対に取り返してみせる! たとえ全ての姉と戦う事になったとしても!」

 この言葉に長女が急に笑うのを止め、静かに私を見ていた。

 言い過ぎたか――そう後悔したが、もう遅い。

 ここで目を逸らしたら負けてしまいそうだったので、キッと睨み続けた。

「……その言葉、妹達に報告しておくわ」

 メタリーナは今度はロリンの方を向いた。

 視線を感じたのだろう、フラスコから顔を上げて、血の気の引いた顔で見つめていた。

「今日は予定があるから引き下がるけど、あなたを諦めた訳じゃないから」

 メタリーナはそう言うと、ドレスのポケットから何かを取り出した。

 懐中時計だろうか。

 パカッとフタを開けて、人差し指で何かを押していた。

「私達も力づくであなたを奪ってみせるから、よろしく」

 長女はそう宣言した後、突然姿を消した。

 まるで蒸発したかのように姿形が無くなったのを目の当たりにした私は夢でも見ているのかと思ってほっぺたをつねってみた。

 うん、めっちゃ痛いから、今見たのは夢じゃない。

 おっと、こんな呑気な事をしている場合じゃなかった。

 一刻を争う状態だった。

「ムーニー! しっかりしてください!」

 ティーナ王女はムーニーの近くまで寄って、必死に呼びかけていた。

 王女の言葉に人形達は何だ何だと言ってワラワラと集まってきていた。

 ロリンはポーションが溶けたのを確認すると、すぐにムーニーの剥き出しになった骨部分にかけた。

「くはああああああああ!!!」

 ムーニーは苦悶とした表情を浮かべ、唇に血が出るくらい耐えていた。

 しかし、段々表情が和らいでいき、スヤスヤと眠ってしまった。

 私はすぐ近くまで寄って、ムーニーの負傷した箇所を確かめた。

 服は破れているものの長女に痛めつけられた肩は綺麗に治っていたので、ホッと一安心した。

 私と同じ気持ちなのだろう、人形達も嬉しそうな顔をして拍手をして喜んでいた。

 ロリンは汗だくになった額を拭って、長い溜め息をついた。

 ティーナは目に涙を浮かべながら「よかった。よかった……」と呟いていた。


 ムーニーは安静な場所で寝かす事にした。

 さて、馬なし馬車も完成し、危機も去った。

 王子の居場所も分かったので、名残惜しいけどピグマーリオを出よう。

 移動手段である馬なし馬車はロリンが乗って国の外まで運転する事になった。

 見たことないものが動いているからか、子供の人形達が興味津々に車の周囲に群がっていた。

 大人の人形も遠巻きに見ていた。

 ティーナとティーマスとティーロは私と一緒に付いていった。

 これからどうしていくかを話しながら歩いて、門の外まで出た。

 ロリンが乗車したまま待機していた。

 よく見ると、いつの間にかミニスカートの格好ではなく、ダボダボの長ズボンとバニラ色の長袖を着ていた。

 本当にいつ着替えたんだ。

 なんて事を思っていると、「乗らないの?」とロリンが窓らしき所から顔を出して聞いてきた。

「どうやって乗るの?」

「私の向かい側にドアがあるから、そこを開ければいいよ」

 ロリンにそう言われたので、反対側にまわると、確かにドアノブのようなものが付いていた。

 手に掛けて引いてみると、ガチャッと開いた。

 中は思ったよりも狭く、椅子と窓の距離が近かった。

「大丈夫なの? 暑くならない?」

「うん! 少しだけ運転したけど、快適だったよ!」

 本当かな。

 半信半疑で乗ってみるか……おぉ?

 涼しい。

 心地よい風がどこからともなくあたってくる。

 前方をよく見ると小さな隙間みたいなのがあった。

 手をあててみると、涼しい感覚がしたので、風はここから吹いているなと思った。

 私はドアを閉めると、いきなり縄みたいなのが出てきて、私の腰と背もたれをくっつけた。

「え? なにこれ?」

「身体を固定させるための縄」

「しないとどうなるの?」

「衝突した時に前にあるガラスに頭を突っ込む事になるよ」

 頭を突っ込む……想像しただけでゾッとした。

「メタさん、ロリンさん」

 窓の近くにティーナがいた。

「どうかお元気で」

 彼女は今にも泣きそうだったが、ニコッと微笑んでいた。

「あなたも頑張って」

 私は親指を立てたと同時に、馬なし馬車が発車された。

「ありがとう〜!」

「元気でな〜!」

「バイバ〜イ!」

 背後から人形達の声が聞こえてきた。

 車の前方に付いてある耳みたいに飛び出ている鏡を見てみると、人形達が手を降っているのが見えた。

 私はこれに応えようとしたが、自由に動けなかったので、片腕だけ出して手を降った。


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……み、皆さん、こんにちは。

チュピタンです……。


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……。

……あ、感想。


そうですね……うん、これからメタには様々な困難が待ち受けていると思いますけど、挫けずに立ち向かってほしいですね。


私も……はぁ。

一体どうなっているの。

なんで、分身が城のバルコニーに立って、国民に手を振っているの?

処刑されるはずじゃなかったの?


無事に脱出して、ローブに着替えて急いで国を出ようとしていた時に急にファンファーレが鳴り響いたから何だと思ったら……私が現れて。


しかも妖精王もいるし。

危篤してたんじゃなかったの?


あ、演説が始まる……え?

私の魔法のおかげで、王の病が治った?


私にそんな力……ハッ?!

まさか分身の魔法には、自分にはない能力を宿す力があるというの?


私にしてはやけに綺麗な性格……あ、まずい。

兵士がこっちに来た。


それじゃあ、ここで失礼します!

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