第39話 勇敢な王女

「ムーニー!」

 ロリンはすぐさまムーニーの所に駆け寄って、一目で危険な状況だと分かると、近くに置いてあったリュックへ向かった。

 が、その前にメタリーナが立ちはだかった。

「何をしているの? ロリン」

「決まっているでしょ。ムーニーを治療するのよ」

「なるほど……回復のポーションで治癒するつもりなのね……それじゃあ」

 メタリーナはロリンのリュックをぶ厚い手袋で持ち上げた。

 そして、空いている方の手袋を外して素手を見せびらかすようにリュックに近づけた。

 これにロリンは鬼のような顔をして「やめて!」と叫んだ。

 メタリーナはリュックを揺らしながら言った。

「付いていくっていうなら返してあげる。嫌って言ったら燃やす」

 何とも理不尽な選択にロリンは険しい顔をして睨んでいた。

 私は何かできないかとポケットを弄っていた時、コンと指に硬いものがあたった。

 取り出してみると、空の瓶だった。

 確かこれは回復のポーションが入っていたやつ。

 あぁ、あの時飲まなければこっそり救出できたのに……。

 数十分前の自分をこれほどまでに呪ったことはない。

 どうしよう。

 どうすればこの窮地を脱出できるの?

 私の視界が歪んできた。

 これほどまでに自分が無力だとは思わなかった。

 何もできない。

 あれだけポーションを駆使して国の危機を救ったのに。

 この絶望的な状況に私の心が今にも壊れそうになった――その時。

「何をしているんですか?」

 聞き覚えのある声が近くから耳に入ってきた。

 私もロリンもメタリーナも同じ方を向くと、ティーナが困惑した顔で立っていた。

「ティーナ、来ちゃだめ!」

 私はすぐに警告したが、王女はムーニーが悲惨な状態になっているのを見るや否や、「大変!」と言って駆け出した。

 さすがに彼女の登場は予想できなかったのだろう、メタリーナは首を傾げていた。

 ティーナは骨が剥き出しになった肩に悲鳴にも近い声を上げ、「どうすれば彼女を助けられますか?」とロリンに聞いてきた。

「回復のポーションがあれば治療できるけど……あの人が持っているの」

 ロリンはメタリーナの方を向いて言った。

 すると、ティーナが足早に彼女の方に向かっていった。

「ティーナ、やめて!」

「危ない! 危険よ!」

 私とロリンは彼女を止めようとしたが、ティーナは一切無視してメタリーナの側まで来た。

「返してください」

 ティーナは手を差し出して、リュックを返すように言った。

 が、そんな事を言って素直に聞く相手ではなかった。

「部外者は黙って」

 冷たくあしらわれたが、王女はひるまなかった。

「あなたこそ部外者ですよね?」

 これにメタリーナは「何ですって?」と王女を睨んだ。

「まずい! 逃げて!」

 私は必死に叫んだが、王女は一歩も動かず、堂々と屹立きつりつしていた。

「周りを見てください。今、この国はどういう状況なのかを」

「でも、やったのはムーニーでしょ?」

「ご存知なんですか?」

「知ってるも何も私はあの子の姉よ。妹の状況は常に把握しているのよ」

 この言葉にティーナの表情が険しくなった。

「じゃあ、なおさら返してください!

 大切な妹が大怪我をしているのに協力しないなんて、非情だとは思わないんですか?」

「あれは罰よ。国をメチャクチャにした罰。

 あなた達だって、ずっと彼女に苦しめられてきたんじゃないの?

 だったら、いいじゃない」

 メタリーナはピグマーリオの状況を既に知っていたらしく、まるで今自分がしている事を正当化しようと誘導していた。

 痛い所を突かれたティーナはさすがにすぐには反論できなかったが、「……違います」と首を振った。

「確かにムーニーさんは過ちを犯しました。ですが、彼女は反省して贖罪しょくざいとして、先頭に立ってこの国の復興に協力しようとしています。

 今、国民全員が前に進もうとしている時に、あなたが今やっている事は大勢の希望と未来を殺しているのと同じです。

 そんなの姉どころか、人間として失格ですよ」 

 何と勇敢な王女なのだろう。

 長女の恐ろしさを知らないからそういった言動ができるのか――いや、彼女の性格によるものだろう。

 メタリーナは黙って彼女を見ていたが、突然視線を動かしていた。

 私も釣られて辺りを見渡してみると、いつの間にか周りに大勢の人形や職人達が集まっていた。

 皆、メタリーナを睨んでいた。

 これにはさすがの彼女も圧倒されて――いる訳もなく、ジッと素手を見ていた。

 まずい、これから取り返しのつかないような大災害が起きる。

 そう予感したが、メタリーナはハァと溜め息をついた。

「分かったわ」

 そう言って、リュックをロリンに向かって投げた。

 ロリンは突然の事に一瞬驚いていたが、すぐに切り替えて、リュックの中から小さい箱をとフラスコ、ランプを取り出した。

 フタを開けて白いお菓子を手に取ると、フラスコの中に入れ、火の付いたランタンの上に置いた。

 なるほど、そうやって固形のポーションを溶かしているのか。

 そう思っていた時、私の視界にメタリーナがティーナのすぐ近くまでいる事に気づいた。

「な、何をしているの?!」

 私はすぐに王女の間に割って入って、メタリーナと対峙をした。

 長女は「何もしてないわよ。少しお願いをしただけ」とムッとした顔して私を見た。

 私はすぐに長女の手を確認した。

 両方とも手袋を付けていた。

 良かった、ティーナに腹を立てて油断した隙に攻撃した訳じゃないのね。

 王女が無事だと分かった私は「それならいいわ」とティーナの手を引いて少し長女と距離を取った。

「一体何をお願いされたの?」

 王女に小声で聞いてみると、ティーナは「特にこれといって難しい事は……次来る時はラズベリークリームの揚げドーナッツを作るようにお店の人に言っておいて……とだけ」と答えた。

 私は思わずズッコケそうになった。

 ただの注文かよ。

 てっきりおぞましい要求をされたかと思ったけど、そんなにこの国の揚げドーナッツが気に入ったのね。

 でも、まぁ、それで彼女の怒りが収まったのなら良かった。


↓宣伝の妖精からのお知らせ

皆さん、こんにちは。

チュピタンです。


あの、えっと……先に宣伝します。


まず、この作品のフォローはお済みでしょうか?

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またもし面白いと思ってくださったら、星とハートをください。


感想は……ティーナ王女の勇敢さには脱帽しました。

私もこんな勇気が欲しいものです。


そう、妖精の国の兵士に立ち向かう勇気があれば、今頃こんな薄暗い牢屋に囚われていなかった……。


うああああああああん!!!

処刑なんてやだよぉおおおおおお!!!


なんで私が妖精王を殺した犯人にされているのよ!

もしかしてあれ? 危篤した知らせを無視したから怪しまれて連行したってこと?


そんな……そんなの……あんまりよ。


誰かーー!! 弁護士を呼んでください!

冤罪の妖精が処刑されそうなんですーーー!


……はぁ、そもそも妖精の国に弁護士はいなかったわ。


あぁ、どうしたら……そうだ!


監視はいないみたいね……そーーれっ!


……よし、私と同じ分身ができた。

いい? あなたはここで大人しくするのよ。

分かった?……うん、よろしい。


それじゃあ、私は監視の隙を見て掘っておいたトンネルで地上から脱出するから。


皆さんも、次回にお会いする時までに私が無事王国から脱出できるように祈ってね!


バーーイ!

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