第34話 あなたも被害者だったのね

 いや、あんたが助けてって言ってきたんでしょうか。

 そう突っ込もうとしたが、私が答える前にムーニーが話し続けた。

「普通見棄てるよね? だって、あなたに酷いこといっぱいしてきたじゃない。

 殺せばよかったのに。殺したいほど憎いんじゃないの?

 なんで……なんで助けたの?」

 ジッと見つめてくる彼女に私は口を開いた。

「それケホッ、ケホッ! ムーニゴホッ、ゴホッ! うへっ、ケハッ、ベッ!」

 駄目だ。

 色々言いたいけど、喉が惨憺さんたんたる状態で声を出す事すらままならない。

 これにムーニーは「本当にお前は馬鹿ね」と呆れたように溜め息をついて、レモン色の半ズボンのポケットから瓶を取り出した。

「回復のポーション。万が一の時に携帯していたやつだけど……これで借りはなしね」

 そう言って渡してきたので、私は素直に受け取った。


 だが、万が一私をはめるための罠かもしれないので、臭いを嗅いで確認してから飲んだ。

 すると、焼けるように熱かった口や喉が治まるだけでなく、身体の調子も良くなってきた。

 どうやら毒ではなく本物のポーションを渡したらしい。

「ありがとう」

 お礼を言うと、ムーニーが「で、さっきの質問の答えは?」と聞いてきた。

 私は顎を少しだけ掻いて考えた。

 本当は王子様のため――そう答えたいけど。

 ムーニーの今の様子からして、もしそういう事を言ったら、彼女はどういう気持ちになるのだろう。

 傷つくのかな。

 でも、仕返しをするならそうした方が……いや。

 それって立場が逆転しただけで、やっている事は何も変わってないじゃない。

 私が虐める側にまわるなんてまっぴらごめんよ。

 だから、あえて言わない。

「あなたが私のお姉ちゃんだから」

 私がそう言うや否や、突然ムーニーの眼が充血しだした。

 そして、ヒックヒックとしゃっくりをしたかと思えば、急に彼女の瞼から涙が溢れ出てきた。

「うああああああああん!!!」

 耳を塞ぎたくなるほど慟哭どうこくするムーニーに私はどうすればいいか、分からなかった。

「なんで……なんでそんな事が言えるの?

 私はずっと……ずっと憎んでいたのに」

 ムーニーは少しだけ鼻をすすった後、語り始めた。

「小さい頃、メタリーナお姉様に憧れて、技術を勉強したの。

 けど、お姉様は無愛想で、私の腕前を披露しても何の反応もしなかった。

 他のお姉様達も同様で、どんなに凄い発明品を作っても、みんな他の事に夢中になって、誰も見向きもしてくれなかった。

 ただ職人みたいにお姉様達に頼まれたものを渡してお小遣いを貰うだけ。

 私って都合のいい女なのかな……と思っていた時もあった。

 けど、ロリンお姉ちゃんだけは私を妹として見てくれた。

 私が作った発明品を褒めたり、技術のアドバイスをしてくれたり、一緒に作ってくれたりもした。

 私はロリンお姉ちゃんが大好きだった。

 けど……お前が生まれてから私を見てくれなくなった。

 発明品を見せても簡単な言葉で終わらせるだけだった。

 ロリンお姉ちゃんへの愛を独占していたのは私だったのに!

 私だったのに……だったのに。

 お前なんか消えてしまえと思った。

 そうすれば、また見てくれるから。

 またあの時みたいになれるかも……って。

 そして、私はお姉様達に命令されてチャーム王子を奪ったのに……。

 お前を……殺そうとしたのに……。

 なんでそんなこと、そんな言葉……言葉、ひっく、うあああああん!!!」

 また泣くんかい。

 長々と語ってくれたけど、つまり私が小さい頃にロリンに色々と面倒を見てくれているのを見て、ムーニーが嫉妬したという感じね。

 そして、姉達に命令されてチャーム王子をさらったと。

 あなたも姉達の被害者だったのね。

 そう思うと、何だか可哀想に思えてきた。

 ムーニーは赤ん坊みたいに泣いていた。

 えっと、こういう時、ロリンは何をするのだろう。

 うーん、やっぱりあれしかないか。

 私はソッと優しく抱きしめて、彼女のラムネ色のショートカットを撫でた。

「末っ子のクセにぃぃぃ……ヒック、ヒック……わだぢの……ウック、わだぢの髪にきやすく……ヒック、ざわるなぁ……ヒック」

 そう憎たらしい事を言っている彼女だったが、離れようとはしなかった。

 やれやれ、どっちが姉か妹か分かんなくなるな。

「おーーい!」

 地上から聞き覚えのある声がしたので、彼女から離れて覗いてみた。

「おっ、いたいた! メタちゃーーん!」

 ロリンは私を見つけると、満面の笑みで両腕を振っていた。

「どうしてそんな所にいるの〜?」

「色々あったの! 今から降りるから待ってて!」

「分かった〜!」

 ロリンとそうやり取りした後、ムーニーの方を向いた。

 彼女は姉が来たからなのか、泣き止んでいた。

 若干しゃっくりしながらも目元を拭うと、「さっき話したこと、ロリンお姉ちゃんに行ったら殺すから」と充血した眼で睨んでいた。

「言う訳ないでしょ。でも、この国をメチャクチャにした責任は取らないといけないよ」

 私がそう言うと、ムーニーは「分かってるわよ」と立ち上がった。

 少し歩いた後、急に立ち止まった。

「……助けてくれてありがと」

 ギリギリ聞き取れるような声でそう言うと、逃げるように窓の中に入っていった。


↓宣伝の妖精からのお知らせ

ぎぃあああああああああ!!!!


ガブシャアアア!!!


あぁっ! くっ、ああぁぁ……。


ガリッ! ブシッ! ブシャァ……


うぐっ、あぁ、あぁ……あぁ……。


くっ、くっ……はぁ。


あ、み、皆さん……こんにちは。

チュピタンです。

絶賛エイリアンの親玉に脇腹を噛まれていますが、宣伝させていただきます。


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また……うぅ、もしこの作品を面白いと思ってくださったなら、ぜひハートと星をください……はぁ、はぁ。


えっと、今回の話は……メタちゃんがムーニーと……和解できて良かったですね……彼女をこき使った残りのお姉さん達も気になる所です……。


えっと、あの……あぁ、もう!


もうすぐ月に到着する所だったのに!

背後から忍び寄ってくるなんて……卑怯にもほどがある!


こうなったら……自分の命を犠牲にしてもぶっ飛ばしてやる。


手榴弾の栓を抜いて……奴の身体にぶつける。


さぁ、道連れドゴォオオオオオオン!!!


ズザザ……ブザザザ……プツン。

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