第32話 チャーーーンス!!

 岩のゴツゴツとした足の裏にダイレクトで感じながら歩いていくと、城壁が近づいてきた。

 私の膝ぐらいだったので、またいで入る事ができた。

 だけど、何度も言った通り、家や人形達がミニチュア並に小さいので踏みつぶさないよう細心の注意をはらいながら向かった。

「はぁあああああ?! まだ死んでないの?!」

 しかし、チンタラ歩いていたので、当然ムーニーにも気づかれてしまった。

 うーん、どうしよう。

 まっ、別にいいか。

 どっちにせよ、奴をこの国から出さないといけないし。

 そうと決まれば……。

「やーい、やーい! 泣き虫ムーニー! そんなおもちゃで私がやられる訳ないだろ、バーーーーカ!!」

 よし、これだけ煽っておけば食いつくはず。

 アイツは私に対して感情的になる所がある。

 それを逆に利用してやるのだ。

 予想通り、ムーニーの額に血管が浮かび上がってピクピクと痙攣していた。

「てめぇ、この、くそ、ただじゃおかねぇ」

 早口で罵った後、ズシンズシンとドラゴンが私の方に向かって歩いてきた。

 私はすぐにつま先立ちで進み、城壁を飛び越えて、あの岩山の方まで走った。

「待てっ!!」

 ムーニーの声が背後から聞こえたかと思うと、私の近くにある岩が爆発した。

 あの八岐やまたのドラゴンの電撃なのは間違いなかった。

「死ねっ! 死ねっ! シネシネしねぇええええええ!!!」

 半狂乱に叫びながら私にぶつけようと、数多のいかづちが襲ってくる。

 が、若干冷静さを失っているおかげか、山の表面や岩にあたるだけで、私には命中しなかった。

 この隙に目的の岩山の近くまでやってきた。

 若干登って、彼女に見えないように背中で隠しながら前を向いた。

「ほら、ここまっああああああ!!!」

 私が煽り終わるのも待たずに、ムーニーは電撃をくらわせてきた。

 身体がビリビリし、若干痙攣してうまく動かせないが、どうにかバレないようにこっそり片手で岩を手に取った。

 あと、温泉が漏れないようお尻で栓をした。

 当然熱々の源泉が直接伝わってくるが、感覚が麻痺しているおかげか、そんなに熱く感じなかった。

 私は少しでもダメージを与えてやろうと岩を投げた。

 しかし、被弾する前に電撃で木っ端微塵にされてしまった。

「アハハハッ! 今度こそ、おしまいね」

 ムーニーは高らかに笑うと、ドラゴンを停止させて電撃の準備を始めた。

 まずい、若干距離がある。

 もっと近づけさせないと。

「やーい、ビビリ! そんな遠くから撃つなんて臆病ね! 私の蹴りがそんなに怖い? それとも私の拳?

 私より年上のくせに子供みたいに卑怯な真似をして……恥ずかしくないの?」

 さぁ、煽るだけ煽ったぞ。

 食い付け、激情するんだ。

 私は心にそう願いながら様子を見た。

 モニターでは、ムーニーの顔がうつむいていた。

 ゆっくり顔を上げた彼女の表情は鬼みたいに歯を剥き出し、眼を充血させていた。

「図に乗るんじゃねぇええええええ!!!」

 ムーニーが叫びながら走ってきた。

 デカイ図体のくせに足は早くあっという間に接近し、私の左肩と右の脇腹を掴んできた。

 麻痺が段々引いてきたのか、馬鹿力に加えて長い爪が皮膚に食い込んできて、激痛がはしる。

「ぐうぅうう……」

 私の身体がゆっくりと浮かんできた。

 どうやら持ち上げるつもりらしい。

 八つの頭のドラゴンが今にも私に喰らいつこうと言わんばかりに動いていた。

 チラッと視線を動かそうとしたが、ムーニーに「ん? 何を見ているの?」と源泉のある山を見ていた。

 まずい、バレた。

 ムーニーは「ふむふむ」と何かを考えるかのように唸った後、「なるほど、水……そういうことね」とモニター越しからニヤッと笑った。

「どうやら私のドラゴンちゃんを水浸しにして故障させようという魂胆だったみたいだけど……残念! 防水仕様だからどんなに濡れてもへっちゃらなんです〜!

 ブブゥ〜〜!! ざんね〜〜ん!

 アハハハッ! アーーーハーー!!」

 ムーニーはこれでもかと私を嘲笑した後、ドラゴンの腕を動かして私をた。

「水浸しになるのはお前だ!」

 そう言ってグルンと私を逆さにしたかと思えば、湧き出ている山の方に頭を突っ込ませた。

 視界が一気に暗くなり、同時に灼熱の熱さが襲ってきた。

「ムゴゴゴゴ!!!」

 あまりの熱さに思わず引っこ抜こうと暴れていた。

「アハハハッ! アーーーハーーー!! いいぞ! もっと苦しめーー!!」

 ムーニーは私が悶ている様子を面白おかしく見ていた。

 が、私は少し冷静になった。

 どうやらムーニーが見たのは水が湧き出ている山だったらしい。

 まさか山から吹き出ているものが二種類あるとは思っても見なかったのだろう。

 アイツの言動からすると、温泉がある事には気づいていない様子だった。

 そして、アイツが突っ込ませたのは温泉の方。

 まだ勝機はある――そう感じた私は口を開けて源泉を中に含ませた。

 できるだけ多く口の中に含ませた後、両手を力一杯押して引き抜こうとした。

 が、スッポリはまったかのように抜けなかった。

「どれ、どんなに惨めな顔になっているか、見てみようじゃない」

 ムーニーはそう言って、再びドラゴンの腕で私の頭を引っこ抜いてくれた。

 よし、今だ。

 私はこの好機を逃す訳にはいかないとすぐに振り向くと、溜めた源泉を八岐やまたのドラゴンに向かって、ブシュウと吹きつけた。


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みな、皆さん……こ、こんにちは……。

チュピタンです。


えっと、あの……ひとまず、宣伝だけしますね。


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感想は……えっと……源泉を口に含むのは大変危険ですので、良い子は絶対に真似しないでください!


フリじゃないです! 絶対に!

死ぬほど後悔しますから……。


後悔……えぇ、後悔しています……私があの海賊船に乗ったこと。


ここはどこなんですか?

なんか、身体がフワフワ浮かんでいるし、一面銀色でピカピカしていて眩しいです!


あ、窓がありました!

早速……おぉ、水が無いのに泳いでいけます!


えーと、外は夜なんでしょうか……何か見えます。


……え?


あれは確か……地球でしたっけ……なぜ目の前にそんなのが……はっ!


浮遊、黒い空、地球……まさか私、宇宙に来ちゃった?!

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