第31話 巨人は戦いづらい
なるほど、ロリンがなぜ普通のドレスに着替えさせたのか、分かった。
確かにあの格好だったら、大勢の人形達に私のイチゴパンツを晒される事になる。
そんなの死ぬより嫌だ。
モニターに映っているムーニーは口をあんぐりと開けていた。
「おま……え? なんで?……そ、そんな……きょだ……はぁ?」
明らかに突然私が現れた事に動揺していた。
私は人形達の家を踏まないように慎重に正面を向いた。
「ムーニー、最後のチャンスよ」
この言葉に反応したのか、真っ直ぐ私を見つめてきた。
「もしあなたが素直に王子様の居場所とこの国の家や城を建て直すと約束したら、何も手を出さない」
私の交渉にムーニーは少しだけ考えるような仕草をしたが、キッと睨んでいた。
あぁ、やっぱり私じゃ駄目か。
「お前に何が分かる」
ムーニーの声は不気味なほど低かった。
「お前のせいで……お前がチャーム王子と結婚したいと言わなかったら……こんな事にはならなかったんだ」
ウネウネ動いていた八つの頭のドラゴンが急に扇形に整列しだした。
何か攻撃が来るなと直感したのも束の間。
「全部お前のせいだ、末っ子ぉおおおおおおお!!!!」
ムーニーが叫んだと同時に、ドラゴン達の口から電撃が放たれた。
逃げようにも民家を踏み潰してしまう可能性があったので、まともに避ける事もできないまま正面から食らってしまった。
「ああああああああああ!!!!」
もう意識が朦朧としてきたが、もしこの状態で倒れようものなら、地上にいる彼らに前代未聞の大災害を体験する事になってしまうので踏ん張った。
これにムーニーは舌打ちをしていた。
「八倍の電撃をくらっても意識を保っていられるなんて……お前は化け物か」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」
私はそう言って、足で蹴飛ばした。
が、素足ではさすがに鋼鉄のボディを吹き飛ばすのは難しかった。
足から全身までジーンと痺れるだけだった。
これにムーニーは大笑いしていた。
「アハハハッ! そんなヘナチョコキックでぶっ倒れる訳ないじゃない! 脳内もザーーコ!」
あぁ、クソ腹立つ!
私は怒りの鉄槌を下だそうとしたが、その前にまた雷撃をくらうはめになってしまった。
「アビャビャビャビャ!!!」
さすがに二度目の八倍雷撃はかなり効いた。
雷撃が止む頃には脚が千鳥足みたいにフラフラになり、意識も
「チャーーンス!!」
ムーニーがそう叫んだと同時に、ドラゴンの胴体から腕が出てきた。
爪の鋭い手がビヨーンと伸びたかと思えば、私の左脚を掴んできた。
「うわっ!」
そのまま引きずられていき、民家が私の頭や腕で壊れていくのが分かった。
止めようと手を置くが、家が余計に壊れるだけだった。
「そーーれ!」
ドラゴンは残りの脚を掴むと、視界が目まぐるしく変わり始めた。
最初は頭が家などにあたって痛かったけど、次第にフワッと浮かんできた。
嫌な予感がした。
「天の果てまで吹っ飛べ、末っ子ぉおおお!!」
ムーニーがそう叫んだ後、私の視界が激しく変わり、風がビュウビュウと痛いぐらいあたっていく。
かと思えば、急に全ての重りが外れたかのように身体が解放され、私は宙を飛んでいた。
とは言っても、自由に飛べる訳ではなく、ボールを投げるみたいに急上昇した後は一気に落ちていった。
気づけば、私の背中にゴツゴツした衝撃が襲い掛かってきた。
「グフッ!」
一瞬吐きそうになったがどうにか堪えた。
あぁ、全身が痺れている……うぅ、かなり強打されたみたい。
視線の先に
近くのを見ると、ゴツゴツとした岩と砂の一帯が目に入った。
どうやら不毛地帯まで投げ飛ばされたらしい。
あぁ、もう最悪。
巨大化してもこんなにコテンパンにされるんだったら、食べるんじゃなかった。
いや、そもそも知らずに食べていたから、どっちにせよ巨大化していたか。
それに……何だかお尻が温かい。
いや、温かいどころじゃない。
「あっつ!!」
突然ヒップが熱湯に浸かったのかと思うくらい熱くなったので、飛び上がってみると、何か湧き出ていた。
湯気が出ているという事は……温泉?
へぇ、こんな所に温泉なんて出るんだ。
ん? 待てよ。
これを使えば……。
ふと私の中にある作戦が思い浮かんだ。
それが成功するには、これを栓みたいに塞がないと……えぇと、何か岩みたいなのは……あった。
キョロキョロ辺りを見渡すと、温泉が出ている山の向かい側に、頂上に巨大な丸型の岩が乗っかっているのを見つけたので両手で持ち上げてみた。
ヨイショと言いながら置いてみると、ピッタリはまった。
よしよし、これでいい。
ふと岩があった所からも何か出てきた。
また温泉……かと思ったが、今度は冷たかった。
これは……水?
指先に付けて舐めてみると、無味無臭の水だった。
巨大な岩にどかされた山の頂上から噴水みたいに溢れてきて、早くも川が出来ていた。
なるほど、不毛地帯の原因はあの岩のせいだったのかもしれない。
でも、どうやったらピンポイントに水が出ている山にあの岩が乗っかったのだろう。
そんな疑問が頭の中に浮かんだが、今はあのドラゴンを倒す事に集中しようと、急いで国に戻った。
↓宣伝の妖精からのお知らせ
皆さん、こんにちは。
チュピタンです。
はい、何とか生きています。
あの、巨大クジラに食べられた時は絶望しました。
けど、奇跡的に潮吹きで外に出られて、そのまま吹っ飛んだら島に落ちて……こんな感じで無事に生還する事ができました。
まぁ、半径二メートルしかない無人島ですけどね。
ほぼ砂浜です。魚を釣ろうにも木がないですし、周りは海水しかないので、真水も飲む事もできません。
あぁ〜〜〜!!! もうっ!
どうして、こんな目に合うんだ!
私が何をした……あぁ、推しのアイドルに脅迫して逮捕されて、監獄に入れられたけど脱獄して逃走しているのか……けっこうな罪を犯してしまっていたんだ、私。
はぁー、お腹空いたし喉も乾いた。
船が来るのを待っているけど、一向に来ないし……。
あ、そうだ。えっと、この作品の登録と応援と星をお願いします。
感想は……はぁ、お腹空き過ぎてそれどころじゃない。
なんか……なんか食べるもの……。
あぁ、力が無くなってきた……意識もどんどんなくなって……。
急に光が……空が眩しい……どうやらお迎えが来たみたいです……。
では、皆さん、さようなら……。
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