第30話 とっておきのポーション

「まぁ、いいや。それより、ティーマスとティーロは?」

「そこのベンチにいるよ」

「ベンチ?」

 私はロリンの背後にベンチが並んで置かれている事に気づいた。

 横一直線にティーロとティーマスが目をつむっていた。

「どうして眠っているの? あなたを助けるまでは元気だったじゃない」

「えっと、城から出してベンチら辺まで連れて来た時に力尽きちゃったんだろうね……そのままバタンと倒れて……」

「え?! 死んだの?!」

 私は駆け寄って、試しにティーロのオデコを叩いてみた。

 冷たい皮膚がペチペチと虚しく鳴った後、少し待ってみたが彼の目が開く事はなかった。

「ティーロ……」

 全然会話した事ないけど、電気椅子に拷問を受けられても毅然とした態度を貫いたのは勇ましかったよ。

 心の中でそう思いながら哀悼の意を唱えた。

「いや、死んでないよ」

 私が胸が張り裂けそうな顔になっている途中でカミングアウトされたので、何だか変な気持ちになり、「あ、そう」とぶっきらぼうな返事をしてしまった。

 ティーロが死んでないと言う事は、ティーマスも死んでないという事になる。

 うん、まぁ、何となく死ななそうな感じはしていたからよかった。

 いや、今はそれどころじゃない。

「ロリン、あれ見た?」

 私は八岐やまたのドラゴンを指差して言った。

 ロリンは同じ方を見ると、「うへぇ! いつの間にあんなの作ったんだ」と呑気な事を呟いていた。

 そのついでに、ムーニーの事について話してみると、途端にロリンの顔が真剣になった。

「やっぱり……あの子がそんな事をするはずないと思っていた」

 ロリンは何度も頷いた後、真っ直ぐ私を見て言った。

「ムーニーは今、がんじがらめになっているんだと思う」

「がんじがらめ? どういうこと?」

「自分の本音と圧力にさいなまれているのよ」

「圧力……もしかして、姉達のこと?」

 私がそう聞くと、ロリンは頷いた。

「たぶんムーニーは姉達に命令されて嫌々動かされているんだと思う」

 つまり、パシリってこと?

 うーん、ムーニーってそういう奴だったっけ。

 私は幼少期の思い出を振り返って確認してみる事にした。

 すると、頭の中にムーニーのドアップの顔で、何か言ってくるのが見えた。

『バーーカ、末っ子!』

『末っ子は残飯で充分なのよ!』

『お前は今日から屋根裏部屋だ、末っ子!』

『末っ子くせに生意気なんだよぉおおおお!!! 』

『アーーハーー!! ざーーこ! ざーーこ!!』

 駄目だ、思い出せば思い出すほどムカムカしてきた。

 こんな奴をよく擁護しようと思ったな、数十分前の私。

 でも、完全な悪ではないのは分かっている。

 だから、このままぶっ倒すのは気が引け……いや、現にお城を破壊したのだから、早く何とかしないと王国どころか世界を壊しかねないぞ。

「ロリン、何か良いポーションとか発明品はないの?」

 私がそう聞くと、ロリンは「うーん」と長めに唸った。

「あるにはあるけど……ちょっと待って」

 ロリンはベンチの近くに置いてあったリュックの中をあさっていた。

 あれ? そういえば、最上階に現れた時は背負っていなかったような気がしたけど。

 最後に見たのは、確か地下牢だったような……いったいいつ持ち運んだのだろう。

 私がリュックの事について聞いてみると、ロリンは「万が一の時の事を考えて、メタちゃんの所に向かう前に城の外に隠しておいたのよ」と言いながらガソゴソあさって、何かを取り出した。

「はい、これ」

 ロリンに手渡されたのは、イチゴミルク色の生地で手触りは絹っぽかった。

 折りたたまれていたので拡げてみると、普段着ているドレスだった。

 これを見た時、若干戸惑った。

 今まで水着を着させたり、ミニスカートをはかせたりと、予想外な格好にさせられてきたので、ここに来てノーマルのドレスを渡されたことに驚いたからだ。

「どうしたの? 急に」

「いや、ポーションを食べる前に着替えた方が良いなと思って」

「どうして?」

「その格好だと色々とまずいから」

 何それ、肌の露出が多いから大怪我する可能性があるってこと?

 物凄く不安になったが、文句は言ってられないので、ロリンの後ろに隠れて着替えた。

 野外での着替えも慣れたもので、一分以内に半袖とミニスカートから普通のドレスに着替える事ができた。

 あとはパンプスをはけば完璧――なので、ロリンに新しい靴が欲しいと言った。

 けど、「今ははかない方がいい」と言われてしまった。

 一体どういうことなのと思っていると、ロリンがポーションを渡してきた。

 受け取ってみると……おっ?

 この色味は私の好きなアレじゃないだろうか。

 早速食べようとしたが、「ちょ、ちょっと待って!」と言われたので、口に放り込む寸前で止めた。

 すると、ロリンが慌てた様子でティータイムとティーマスが寝ているベンチを動かして、リュックも一緒に持っていった後、私からかなり距離を離して立っていた。

 まるで爆発から逃れるかのように見えたので、私は一気に食べるのをためらってしまった。

「ロリーーーン! 本当に大丈夫なのーー?」

 私が大声で聞くと、ロリンは「大丈夫だよーー!! 遠慮なく食べてーー!!」と返した。

 いや、遠くから言われても説得力がないんだけど。

 心の中でそう思ったが、躊躇しても何も始まらないと思ったので、覚悟を決めてパクっと食べた。

 う〜〜ん♡ 思った通りだぁ〜〜!

 私の大好きなイチゴミルク!

 う〜〜ん、たまら……ん?

 ゴクンと飲み込んだ瞬間、私の身体にある変化が訪れていた。

 さっきまで見上げているはずだった三角形の屋根と同じ目線になったのだ。

 そうかと思えば青空しか見えなくなり……いや、待って。

 いつの間にか足元が鳥のように屋根しか見えなくなった。

 おまけに人形達だと思われるものが豆粒みたいに小さくなっている。

 これって……どういうこと?

「うへえええええ?! 末っ子ぉおおおお?!」

 近くでムーニーの声がしたので、その方を見ると、さっきまで見上げていた八岐やまたのドラゴンと同じくらいの目線になっていた。

 ドラゴンが等身大のサイズに変わっていた。

 いや、もしかして……私が大きくなったの?!


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ビック! ビック! ビック!

ビックーーーリ!!


あ、はい……いや、へい! へい、船長……はい、あそこの船の偵察ですね!


了解いたしやした! わた……あ、あっしにお任せください!


へぇ、へぇ……もちろん、船長が拾ってくれなかったら、あっしは今頃海の底で魚の餌になっていた所でしたから……。


へい! 今すぐ行きます!


ギーコ、ギーコ、ギーコ……


……はぁ、なんでこんな事になってんだろ。


さすがに何十キロ以上もある海を泳いで大陸に行こうとした私も馬鹿だったけどさ……でも、よりによって変な海賊に助けられるなんて。


追っ手の船を大砲一発で撃沈してくれたのは良かったけどさ……お前は今日から子分だとか言われてこき使われるし、喋り方も強制的に直されたりして……何なの。


あーあ、どうせ拾ってくれるなら、麦わら帽子の海賊がよかったなぁ!


モフモフの動物と一緒に大航海したりなんかして……はぁ、現実はそんなに甘くなかったかぁ。


……ん? 何だか波が高……うぇ?!


きょ、巨大クジラだ!!


助けて、喰わ……

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