第29話 私は一体何をしているんだ?
「……え? どういう事ですか?」
私の発言に驚いているのだろう、目を大きくさせて瞬きをしていた。
「えっと、あくまで仮定の話なんだけど、仮にもし人形の心……それは形であるものなのかどうかは分からないけど、感情をコントロールする部分をいじって、自分達に逆らわないように改造して……。
ムーニーの事だから、絶対に戻らないように作るはずなのよ。
万が一何かの拍子で戻ったら反撃されるかもしれないから。
けど、彼らは雪がキッカケで元に戻っている……つまり」
「つまり、最初から改造しなかったってこと?」
ティーナが釈然としない顔で聞いてきた。
「正確には人間と同じ事ができるようにしただけで、それ以外の事は何もしていないの」
「でも、どうして誰もムーニーに逆らわないんですか?」
「それは……ムーニーが与えてくれたものに満足しているからじゃない?」
「どういう事ですか?」
「人間になれた事が嬉しいということよ」
「そんな……」
ティーナが一歩、二歩下がった。
彼女の顔が引きつっているのが分かった。
「じゃあ、私達の思い込みってことですか?
人形よりも人間の方が素晴らしいとあなたは言いたいんですか!」
「違う! 違う……けど」
「けど、何ですか?! もしそうなら、私とティーマスはどうして身体をジロジロ調べられたんですか?!」
「それは……私にもよく分からない」
「分からない? 曖昧な情報と憶測で混乱させないでください!」
ティーナはカンカンに怒りながら八つの頭があるドラゴンの方に指を差した。
「あれを見てください! あの怪物を!
あんなおぞましい怪物が今から私達の国を壊そうとしているんですよ?!
あれを作ったのは誰だと思いますか?
職人達が作ったんですよ!
私達人形たちにとって大切な、大切な職人達の手を汚して……あんな怪物を生み出してしまったんです。
これが罪以外の何になるんですか?
私達の平和を見出した罪は大した事ないと言うんですか!」
王女の身体は震えていた。
魂の叫びだったのだろう。
今にも感情が爆発して号泣しそうだった。
その様子を見ていると、私は今一度自分の考えを改めた。
私はこの国に来て、たった数時間しか経っていない。
なのに、まるで最初から全てを知っているかのような言い方で私の考察を述べてしまった。
彼女達は平和だった頃からムーニー達に様変わりされるまでの間、そして、何もかも変わってしまった国を見続けていた。
――部外者に言われるのが一番腹が立つんだよ!
頭の中にムーニーの声が聞こえてくる。
部外者……確かにその通りだ。
今、この国が抱えている問題を部外者がそうやすやすと口を出していい訳がない。
そもそもなんで私はアイツを擁護しているのだろう。
王子様を誘拐した姉どもの一員なのに。
アイツに何か事情があるとはいえ、この国をメチャクチャにしたのは事実なのに。
私は一体何をしているのだろう。
姉達に圧力をかけられているという情報に同情してしまったのだろうか。
「……王女様、ごめんなさい。混乱させちゃって。今はあの怪物を倒す事が最優先よね」
私はそう言って、八つの頭を持つドラゴンの方を向いた。
ドラゴンの頭達は獲物を探しているかのようにあっちこっちへと動き回っていた。
ようやく怪物の存在に気づいたのか、人形達が悲鳴を上げて、逃げ出していた。
さて、ムーニーの真意の是非は一旦置いておいて……アイツをどう倒すか。
またロリンの発明品に……って、あれ?
そういえば、ロリンやティーロとティーマスはどうしているのだろう。
たぶん脱出できたと思うけど。
まさか逃げきれずに城の下敷きになっているとか……。
「ねぇ、ティーマスとティーロはどこにいるか知っている?」
私がそう聞くと、ムッとしていたティーナの顔が変化し、「えっと……実はまだ会っていないんです」と首を振った。
「じゃあ、一緒に探そう」
私がそう提案すると、ティーナはコクンと頷いた。
しかし、逃げ惑う人形達の流れに逆らいながら進むのは至難の技だった。
皆、突如現れた怪物達にパニックになり、あれから逃げようと無我夢中で走っていた。
中には子供だけが残されて、自分の両親の名前を呼ぶ子供の人形もいたりした。
すると、ティーナがその子に駆け寄って、「大丈夫? すぐに見つけてあげるからね」と優しく声をかけていた。
「私はこの子の両親を探します。メタさんはティーマス達を探してください!」
「分かった」
ティーナにそう言われた私は駆け出した。
裸足で石の道を進んでいるからか、たまに尖った所にあたって痛かった。
けど、何としてでも彼らを探そうと走るのを止めなかった。
ロリン、アイツはどこにいるんだ。
「ろーーーりーーーん!!」
「なに?」
私が大声で呼びかけた瞬間、いきなり背後から呼びかけられたので、私は「うへぁ!」と変な声を出してすっ転びそうになった。
「おっと」
ロリンは私を受け止め、「大丈夫?」と立たせてくれた。
「ありがと……って、お前ええええ!!!」
私はロリンに掴みかかると、ムーニーとの和解に失敗した事を詰問した。
「どうして断ったの?! もしあの時、良いよと言ってくれれば全て丸く収まったじゃない!
私達が王子様を助けるために旅立った事を忘れちゃったの?!」
「あー……それは……そのー」
急に私から目を逸してどもってしまった。
うーん、やっぱり長女と何かあるのだろうか。
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